皇太子殿下の魔法
「どけ! 魔術師は無事か!」
と走り込んで来たのはカルロスだった。
石になったカトリーヌを見て首を傾げたが、それよりも血糊で汚れているが小さな魔術師が無事だったのを見て顔を輝かせた。
「おお! 魔術師よ! 早く私の呪いも解け!」
ソフィアはクスッと笑ってから、
「解かない方がいい時もあるよ」
と言った。
「なんだと?」
「呪いのせいで魔法が使えない、方がましだと思うけど」
「なんだと!?」
「解呪してもいいけど、そっちの皇子様は褒美もくれないどころか牢屋に入れるって言うし、あんまりこっちに得がないんだけど」
「王族の悲願を叶えること以上の褒美があるか!!」
とカルロスも第三皇子のダレンと同じような事を言ったので、ソフィアは肩をすくめた。
「まあいーよ。期待はしてない。けど、警告はしたからね、後悔すんなよ」
そう言って右手をカルロスの方へ差し出した、
「聖なる御力により、かの第一皇子の呪いを解き賜え……ブレイク!」
マシューの時と同じようにまばゆい光が皇太子殿下を包み、カルロスは信じられないという顔だった。今までにない、体内を循環をする不思議な流れ。これが魔力である、とカルロスははっきり感じた。
「これは! す、素晴らしい! これが魔力の流れか!」
カルロスは成功に絶叫し腕を大きく振り上げた。
「魔術師! 素晴らしいぞ! それで私の属性は何だ?」
「あなたは雷系だと思うけど」
「雷!」
カルロスはマシューを振り返り、
「聞いたか! 雷属性だ! 素晴らしいではないか! 全ての属性の頂点に立つ!」
マシューは能面のような顔で、
「良かったですね、兄上」
と言った。
国王や皇后も満足げな顔をしており、皇太子直属の騎士団も歓声を上げた。
「では早速、試してみるか!」
カルロスは先程のマシューと同じ心持ちだった。
体内に魔力の循環を感じ、魔法学院で学んだ事が理解出来る。
カルロスは意気揚々と手の平に魔力を集め詠唱した。
「第一階梯、サンダー!」
ビビッとカルロスの手の平に衝撃が走り、チカっと手の先で放出された雷エネルギーが一瞬だけ光った。
「え?」
しばし静寂が流れ、カルロスはもう一度、「サンダー!」と唱えたが、くらっと目眩がして足ががくがくと揺れた。
「カルロス様! 大丈夫ですか!」
カルロス付きの魔術師が駆け寄り、彼を支えた。
「一体……どういう事だ! 魔術師!」
とカルロスが叫んだがその叫びだけで、身体が揺れて立っていられないほどだった。
「それが皇子様の精一杯の魔力って事でしょ」
とソフィアが言った。
「な……んだと」
とカルロスが言い、マシューの口の端が上がった。
「そんな……馬鹿な! 私は皇太子だぞ!」
と叫んではまたふらっと身体が揺れた。
「元々少ない魔力なんだから、無理に使うと身体に負担がかかって倒れるよ。ま、使わない方が無難……ってかそんくらいの魔力量、少なすぎて使い道なくない? だから言ったろ? 呪いのせいで魔法が使えないって事にしてたほうがましって」
「そ、そんな馬鹿な!」
小さくぷっと笑い声がした。
顔面蒼白なのは衝撃の事実を突きつけられたせいか、魔力欠乏のせいか、カルロスは声の方へ振り返った。
にやりとした顔でマシューがそこにいた。
「兄上、魔法は私にお任せを。魔力量が少なくとも、あなたが皇太子殿下である事は変わりませんからね」
周囲がざわつく。
誰も皇太子殿下にかける言葉が見つからず、カルロス自身も屈辱で震えていた。
「貴様……! 私に何をした! お前が私に!」
とカルロスは震える指先をソフィアに突きつけた。
「死刑だ! 皇太子である私に不敬な行いをしたこの魔術師を極刑に処す!」
もちろん、誰もそれに反対を申し立てる事はなかった。
フェルナンデスは自分が被害を被らないように祈るしかなく、サマドは処刑される前に何とか生きたままソフィアを手に入れる事が出来ないか、最悪死体だけでももらい受けたい、と算段し始めた。国家魔術師団は石像になったカトリーヌを研究材料に、そして石化をもたらしたソフィアの宝石を奪い研究をする旨を国王に嘆願する方向で一致していた。
短絡的な男だ、とマシューは兄を見て思った。
魔力量が少ないのなら、どうにかして増やす事を命じればこの魔術師なら手立てがあるやもしれないのに、すぐ処刑だとは。しかしマシューには都合が良かった。
皇子皆が平等に魔法が使えないなら平和だが、ただ一人だけ数百年ぶりに王族に魔法が使える皇子が生まれ、それが自分である、マシューは兄を追い立てて自分が玉座に座る姿を想像した。
「処刑しろ!」
カルロスの命令で騎士団がぱっと動き、ソフィアを囲んだが、
「待て!」
と発したのは国王陛下だった。
「処刑はまだ許さぬ!」
「陛下! この者は私を!」
「ならぬ! カルロス、落ちつけ。まだこの者には聞きたい事がある。とりあえず、牢に入れろ!」
と国王が言った。
騎士団に促されたソフィアは素直に歩き出したが、ふと横のカトリーヌの石像を見て、つんと指で弾いた。
その途端、石像は粉々になって崩れ落ちた。




