開眼
皇子達の騎士や魔術師が動き、互いに敵対すると同時にもう一組の勢力が空間を破って現れた。
「主様!」
一番に駆け寄ってソフィアの身体を抱き上げたのはローガンで、ぼろぼろのマントに身を包んでいる。用心深くフードを深く被り、誰も彼らがどんな者か分からない。
ソフィアとローガンを守るようにエリオットとワルドが立ちはだかった。
「呼ぶまで来るなつったろ」
とソフィアが薄目を開けて呟いた。
「主様!」
「大丈夫、矢なんか当たってない」
ソフィアは破れた血糊と、物理結界で弾いた瞬間に掴んだ矢をちらっと見せた。
ほっと息をついたローガン達の姿はすぐに消え、その頃ようやく魔術師軍団がソフィアへ近寄ってきた。
だが彼らは倒れているソフィアに何の術も施さなかった。
簡単な治癒魔法さえ。
ただソフィアの周囲に集まって、小さな彼女を見下ろした。
「ご自分の聖魔法で治癒すればいいわ」
と言ったのはカトリーヌ女魔術師だった。
冷たい目でソフィアを見下ろしたばかりか、その小さな白い手をぎゅうと踏んだ。
そのほかの魔術師達もただソフィアを見下ろしているだけだ。
ただサマドだけは好色な目でソフィアを見た、小さく、透きとおるような白い肌、豊かな銀髪、整った愛らしい顔、その小さき者が震えてサマドを見上げている。
襲ってくる衝動にサマドの身体が強ばった。
しかし王家の御前では辛抱するしかなかった。
そして、サマドはソフィアの横に膝をついて、
「私が屋敷へ連れて帰って治療してみましょう」
と言った。
「ふん、放っておけば?」
「いや、カルロス皇子のお言葉の手前、治療をしないわけにはいきません。私に任せて頂ければ。私は精一杯の治療をいたしましょう。このような小さき身体で矢を受け、大量の血が流れた……治療が間に合わぬ事もありまするが、その時はどうぞご容赦いただけるようにお口添えを」
とサマドが言った。
魔術師達は知っていた。
この小さい魔術師が脅威である事を感じていた。
素晴らしい聖魔法、聖魔力。
長年、魔物討伐にも出ず、王族の周囲で誇示していた魔術は魔道士同士のただの派手な演術。恒例の演武大会でさえ勝敗が事前に決まっていた。
この国が魔法王国としてその名を馳せていたのは実際に魔族討伐に出て戦い傷つき、それでも民を守る為と誓う勇敢なる魔術師や魔法剣士、治癒師達の努力の結果だ。
彼らは国家魔術師軍団からは二流と呼ばれ、机上の作戦だけを授けられ、その身を削って戦う戦士達だった。
「では」
とサマドがソフィアを抱き上げようとした時、
「待って!」
とカトリーヌが制した。
「素晴らしい宝石じゃない?」
カトリーヌはソフィアの首元のチョーカーに指をかけた。
銀色の細い輪の真ん中に虹色のゼレンティの瞳がいた。
見る角度に寄って色を変え、妖しく光る。
「素晴らしく美しい、魔力も感じる。私によく似合うと思わない? これいただくわ」
そう言った瞬間、ソフィアが目を開いて、
「クズの上に泥棒かよ」
と言った。
あっと言う間にソフィアはサマドを強く突き飛ばし起き上がった。
咄嗟の事でサマドはその場に尻餅をついてポカンとソフィアを見上げた。
「面白いね。上に行くほどクズばっかり。おっさんもどうせあのフェルナンデスじじいと同類かそれ以上の胸糞悪い奴だろ? けどお前のお仕置きは後な」
ソフィアはケッケッケと笑った。
それから、
「この宝石は大事な預かり物だし、こんな美しい宝石はお前みたいなクズカス泥棒には似合わないよ、おばさん」
とカトリーヌを見上げて、ふんと鼻で笑った。
「お前……私の事を侮辱したね!」
かっとなったカトリーヌはソフィアの方へ手を伸ばした。
八才の少女の首からチョーカーをもぎ取るなど、魔法を使わなくとも簡単だった。
しかしその瞬間、七色の宝石、ゼレンティの瞳がパッと開いた。
カーッと光線が放出され、カトリーヌはそれを全身に浴びた。
キラキラと光がこぼれ落ちるなかで、カトリーヌはそのまま等身大の彫刻に変化してしまった。
全ての時が止まり、国王陛下、皇后、二人の皇子に魔術師軍が目を大きく見開き、石になったカトリーヌを見つめた。
カトリーヌは手を伸ばし、顔は怒りに歪んでいる姿のまま石に変わってしまっていた。




