金庫番
「一人にしてちょうだい」
朝食後、ソフィアは自室にいた。
相変わらずメイド部屋の横の薄暗いじめっとした部屋を自室としている。
階下には空き部屋もあるし、ワルドがどうぞと用意した主の為の部屋もあるが、やはりここに住んでいた。
魔物のメイド達は下がらせ、人間メイドのリリイだけが待機していた。
「ソフィア様、何かご用はございますか?」
「いいえ、別にないわ。少し考えたい事があるの」
ソフィアは硬い木の椅子に座り、机に頬づえをついていた。
椅子はギシギシと鳴り、机も傷だらけ、ベッドも硬く薄いマットと毛布だけ。
床は絨毯も敷かれず木の床で、ささくれだっている。
ドレスを仕舞うようなクローゼットもない。
最もドレスなど一枚もなく、学院の制服くらいしか持っていなかったが。
世話焼きな左足が執事に就任してから、ソフィアにドレス、アクセサリー、帽子、靴、バッグ、本、絵画、宝石などを購入し、今もソフィアの為に用意した部屋に増え続けている。
ソフィアは装飾品に興味がなく、特に喜びもしないがそれでもワルドは毎月商人を呼んでありとあらゆる贅沢品を揃えていた。
「何考えてんだか、ドレスも宝石も興味ないってんのに。ってか芋虫親父とマーガレットおばさんが相当な金喰い蠧だったのに、そんな金どこにあるの?」
と聞いた事がある。
「こんな貧乏貴族の金などあてにしてませんよ。私は魔王様の時代にも金庫番でしたのでね、金はあるのですよ」
「ちょっと、魔王の金をくすめるなんてよしてよ。魔王が復活したら、酷く怒られるわよ」
とソフィアが言うとワルドは笑っただけだった。
そんな事を思い出して、ソフィアは笑ったがすぐ頭を振った。
それから「ローガン」と呼んだ。
瞬く間にローガンが目の前に現れ、礼儀正しくお辞儀をした。
「ご用ですか」
「王家の呪いイベントどうなってるの?」
「二日後、登城いたします。これは極秘事項ですので、夜明け前にひっそりと」
「そう……フェルナンデスじじいは同行するの?」
「もちろん、彼の仲介が必要ですから。もちろん我々、私と左右の足も同行いたします。マイアやメアリも、その他眷属達が王城の周囲を固め……」
ソフィアはそれを遮るように、
「一緒に行くのはフェルナンデスじじいだけでいいわ。誰もついてこないで」
と言った。
「ソフィア様!! それは!」
「極秘事項で匿名魔術師なんだから、少ない方がいいでしょ?」
「しかし……」
ローガンは承服しかねる、とした態度で自分の拳で膝を叩いた。
「解呪に成功しても失敗しても待機、誰もすぐに動かないで」
「それは!」
「大丈夫よ、上手くやるから」
「……」
ローガンは強く唇を噛みしめて、微かにうなずいて見せた。
「ナイト・デ・オルボンとの約束があります。解呪を成功させないと宝物庫に入れませんよ」
「そうね、それも考えてるわ。でもあたしから救助の要請がない限り、待機しててくれる?」
「かしこまりました」
二日後の明朝、薄暗い時間にソフィアは身体を起こして「ふぁぁぁぁ」と大きなあくびをした。
硬いベッドに薄い毛布、慣れているが身体が痛いのは確かだ。
メイドのリリイが湯を持ってきて、顔を洗う。
髪を梳いて、ドレスに着替える。
これは前日のうちにワルドが用意した地味な衣装だった。
名無しの魔術師を装う為、質素な安い生地のドレスに靴。そしてすっぽりと身体を隠すマント。フード部分をかぶれば顔も見えない。
ソフィアは俯いたまま、屋敷の外に出た。
紋章も入っていない、古い馬車がソフィアを待っていた。
真っ黒い覆面をした御者がドアを開けると、中にはフェルナンデスがいた。
苦虫を噛み潰したような顔でソフィアを見た。
ソフィアが乗り込むと、
「分かっているだろうな、失敗は許されないぞ」
と言った。
「まあ叔父様、失敗だなんて」
とソフィアが笑った。
「相当、自信があるようだな?」
「そんなのやってみない事には、分かりません」
(まあいい、失敗しても、無名の魔術師が奴隷に落とされるだけ。その時には魔力発動禁呪をかけて、生涯ソフィアから魔法を取り上げる。そして奴隷に格下げ、一生地べたを這いずり回る暮らし。あの方に差し上げれば性玩具として壊れるまで手荒に扱うだろうしな。どちらにしても楽しみしかない)
フェルナンデスはふふふと笑った。




