醜い笑み
フェルナンデスは苛立ちを隠せないまま、座っていた。
兄であるヘンデル伯爵とその夫人への残虐な行い、兄弟達を洗脳して伯爵家を乗っ取る様子のソフィアの振る舞いが許せなかった。さらに自分よりも上の闇魔法の遣い手、さらに治癒、火、氷、時空まで操るその能力が殺してしまいたいほど妬ましかった。
「どうかしたかね。公爵殿?」
声をかけられて、フェルナンデスは席を立ちうやうやしく挨拶をした。
「サマド様にはご機嫌麗しゅう」
サマドはソファに腰をかけた。
フェルナンデスはそのサマド専用の椅子を直視出来なかった。
どこからか買ってきた奴隷の青年。奴隷だが金髪で白い肌、見目は麗しい。
彼を裸で四つん這いにさせて、その上に毛皮を敷き、サマドは座っていた。
サマドはレインディング公爵家の長男で、フェルナンデスの妻、サマンサの兄だった。
魔術を極めたいが為、家督を継ぐのを放棄した人物。
自らの身体に魔術を施し、毒薬を試し、身体中に傷、膿み、そして嫌な匂いがこびり付いている。若い頃から奇妙な生活をしているので、彼の廃嫡を反対する者もいなかった。
痩せ細った身体は老人のように枯れ、元の黒髪は真白に色になり、長く伸ばした汚らしい爪。食事や着替えにも無頓着で、動物の生き血を啜ったりする変わった人物だった。
奇行は酷いが、公爵家の後ろ盾と魔術の豊富な知識、多くの魔力を持ち、遣い手であるので国家魔術師軍団の一員でもあった。
さらに悪質な性癖の持ち主で、見目の良い奴隷の子供を買ってきては調教する。
鎖で繋いで鞭でしばく。幼子の白い肌が血で真っ赤に染まるまで暴行し、薬学の知識で生成した、一晩中でも他者を犯し続ける事が出来る薬で自らを奮い立たせ快楽に耽る。
それ以外では美しい青年を椅子にさせ、まだ小さな子を二人、同じ用に四つん這いにさせてガラスの板をその背中に置く、これで美しいテーブルの出来上がりだ。
あとは二、三人、足元に平伏せさせて、扇で風を送らせたり、喉が渇けばグラスを口元に運ばせ、フルーツを口移しで食べさせるように命じたり、不潔で痒い肌を優しく舐めさせたりする。
今、フェルナンデスが前に座っている時も、彼らの仕事は遂行されていた。
サマドが尿意を覚えれば、その場で可愛い金髪を掴み引き寄せ、小さなその口の中に流し込んで終わりだ。彼らはそれを吐き出す事も許されず、嘔吐きながらもそれを飲み込むしかなかった。
「お前の話だが、王家の呪いを解くというのは本当か?」
「解呪出来るかどうかは分かりませんが、試してみる価値はあるかと。それに失敗して王家の怒りを買って処分されても構いませんので」
「どんな奴だ?」
「まだ八才ですが、五つの魔法属性を確認しております」
「五つの属性?」
がたっとサマドが立ち上がった。
「そんな……魔術師が……しかも八才だと?」
「はい、プラチナブロンドに白い肌、美しい娘です。解呪に失敗し、王家の怒りを買って奴隷に落とされでもすれば……貴方様にも」
とフェルナンデスは言葉を切り、サマドはにやりと笑った。
「それは楽しみだ! 義弟よ! お前がこんなに有能だとは!」
「お褒めに与り光栄です。義兄上」
「待てよ、解呪に成功したらどうする? 王家に取り立てられるではないか。お抱えの魔術師、しかも筆頭魔術師にでもなられたら、私より上になるぞ! なんせ何百年も続いた呪いを断ち切るのだからな!」
「そううまくはいかないでしょうな。属性五つは凄い事だが、魔王のかけた呪いですよ? そんなに簡単ならもっと早く解呪出来ていたと思いますがね」
「魔王の呪いか……」
「ええ、ご存じですよね? 数百年前に勇者によって破れたが、その前は千年にも及ぶ魔族の支配者、勇者によって討たれたのさえしばらくは誰も信じなかった。それに伝承では魔王の四肢は逃げ去っている。この数百年、生死は不明。呪いは四肢に寄って起こされたとも文献にあるのですよ。そう簡単に解呪ができるはずがない」
「それは、そうか……では私はそいつが解呪に失敗し、奴隷落ちになるのを待っていればよいわけだな?」
「御意」
二人は顔を見合わせて、醜い笑みを交わした。




