二度目の人生越しに
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突き抜けるような青い空に、柔らかな風がふく。
わたしは今日、前世で潜るはずだった敵国の城への門を嫁入り道具や豪華な馬車もウェディングドレスもなく、身一つで潜る。
当然だ、花嫁としてきたのではないのだから。
そして、前世で夫となるはずだった方に会いに行く。
なんの感慨もないといえばうそになるが、それは”わたし”の気持ちではなく、前世の感傷に引き寄せられているだけだと思う。
以前の人生では、この国に旅立った時は緊張と不安で押しつぶされそうだった。
重責と国の未来を憂う気持ちと、何より祖国の土は一生踏めないであろうと覚悟していたからだ。
結局、前世は祖国どころか、この国の地さえ踏めずに終わったのだが。
今回も、わずかな人数で敵国に送られてきて身を守る術なんてほとんどないに等しいのに、不思議と落ち着いている。
一度死んでしまっているから、死ぬのが怖くない なんてことではない。
ただ、前のわたしと今のわたし、何がしたいのか、何のために生きたいのか、この気持ちはどちらのものなのか、迷いながらも止まることはできなかったから覚悟を決めるしかなかったのだ。
わたしの人生はわたしだけのものだから前世の復讐や報復なんかは望んでいなくて、でも、どこかで、突然幕が下りてしまったあの人生を無駄にしたくないと思っているから
今日、この門までたどり着いたのだと思う。
今度こそわたしはわたしの目的を全うするために。
門を越え、王城にたどり着き、馬車の扉が開く。
エスコートはない。
わたしの足で、ゆっくりと馬車を降りる。
背筋を伸ばし、俯くことはないが視線を落としたまま、この国に降り立った。
護衛の騎士の間を通りぬけて、護衛を背に従える形で立ち止まり視線を上げるために瞼を上げる。
敵国の騎士がずらりと並んでいる。
その中央から壮年の紳士が出てきた。身分の高さが伺える装いと洗練された身のこなしだった。
太陽の輝きを集めたような金の髪、この国の王族を象徴する色だ。
その方はわたしと対面する形で立ち止まり、わたしの瞳を見て、僅かに目を見開く。
わたしも予定より早い対面に内心少し動揺しながらも、予定通り令嬢としての挨拶のカーテシーではなく、右手を胸元にあて、片足を少しひき軽く腰を下げて挨拶をした。
「”初めまして”王弟殿下。隣国より参りました、サラと申します。」
名乗らなくてもこちらが把握していることに驚いたのか、はたまた別の動揺か。
周囲の者がわかることは無いだろうが、王弟殿下の美しい新緑のエメラルドの瞳が一瞬揺れた。
そして瞬きをした後にはその揺れはもう消えていて、上品な笑みで挨拶を受け取った。
「遠路遥々、ようこそ。サラ殿。」
こうして、二度目の人生越しにこの国に入国し、入城を果たしたのだった。
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