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冷えた水の魅せる幻想

作者: 月見山 菊

拙い文章ですが、暇つぶしに読んでいただけたら嬉しいです。

ぱしゃんっ 


あれからというもの、何処かで水の跳ねる音がすると振り返ってしまう。

これは、夏の日の一幕。


僕は夏休みの休暇を使い、田舎に帰省していた。

見渡す限りの田んぼ、蝉の鳴き喚く声、道端の果物販売。

すべてが懐かしい光景だった。

夏の晴れた蒸し暑い日。

止まらない汗を腕で拭い続けていた僕は、近くの川で水浴びをしようと思って、鬱蒼とした森の中を歩いていた。その川がある場所は人は来ることがなく、たまに熊が餌を求めに川へとやってくるぐらいのものであった。


川に向かう途中に購入した西瓜を川に浸してから僕は昼食の準備を始めていた。


ぱしゃんっという音に勢いよく振り返ると、そこにはただ川の流れで揺れている西瓜があるだけだった。


遠くの海を見ると、あまりの暑さに蜃気楼が出ていた。


しばらく西瓜が揺れているのを見ていると、

目が霞み、頭がぼーっとしてきた。


「これは熱中症になりかけかな...水飲も...」


ぼんやりした視界の中、冷たい水を飲んで僕は微睡んでいた。


どこからか声がした。


優しい、何処かで聞いたことのあるのような。

懐かしさを感じる声だ。


ぼやけた思考で薄く目を開けると、

西瓜を見守るように、誰かがいる。否、何かがいる。

それは透明で、しなやかな身体には綺麗な鱗が生えており、光を反射して光沢を目立たせている美しい龍だった。


龍なんて伝説の生き物だと思っていた。

まさか会えるなんて、なぜ僕の前に?

なぜ西瓜を守るようにしているんだろう。


疑問が頭を駆け巡ったが、今はそれすらもどうでも良かった。ただ、美しい龍の姿を目に焼き付けたかったのだ。


ハッと目を覚ますと、太陽は頭上を過ぎていた。

僕は慌てて西瓜を見に行ったが、熊にも取られていないようで安心した。


あの龍はなんだったのだろう。

なぜ、僕の前に出てきてくれたのだろう。


あれ以来、川で龍を見ることは一度も無かった。

きっとあれは、冷えた水が見せてくれた幻想だったのだろう。


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