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ショートショート12月~

手のひら創造

作者: たかさば
掲載日:2020/12/31

手のひらで創造する能力に目覚めてしまった。


…いや、目覚めたというよりも、持っていることに、気が付いたといった方が正しいかもしれない。


左手の手のひらを上に向けていろいろと考えると、創造したものが現れるのである。


・・・これが、まったくもって、役に立たない。


恐ろしく精度が高いのである。

恐ろしく精度が低いのである。


そもそも、気が付いたのが遅すぎた。


創造力が豊かな幼年期、少年期、青年期であればまだよかったのかもしれない。

創造力が枯渇し、現実の世知辛さを知ってしまった中年期では、遅すぎたのだ。


元々現実主義で、夢見がちなことを言わない性格なのも幸いした。

ラノベが好きでよく見ていたが、常に粗探しをして突っ込むことに喜びを感じていたのも幸いした。


現実離れしたこの能力に、まるで共感できていないとでもいえばいいのだろうか。


頭のどこかで、こんなことがあるはずがないと思っているのが、左手の手のひらにバレているのだ。

頭のどこかで、ご都合主義の愚かさを馬鹿にしているのが、左手の手のひらにバレているのだ。


なにを創造しても、バッタもんのようなものしか出てこない。



この能力に気が付いたのは、ご都合主義満載のラノベを読んでいた時だった。


手のひらを上に向けて精霊の事を考えると、望んだ精霊が出現するという描写。

手のひらを上に向けて魔法の事を考えると、望んだ効果をもたらす魔法が発動するという描写。

手のひらを上に向けて物質の事を考えると、望んだものがあふれだすという描写。


…バカくせえな。

…手の平って安直だな、平凡すぎる、地味すぎる、簡単すぎる。

…普通は杖を持って難しい呪文を唱えてなんぼ。


こんな。


手のひらを。

上に向けて。

思うだけで。


ふわっと、精霊を思ったのだ。

ふわっと、拙い描写を、頭の中でなぞったのだ。



突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、血の精霊。


額からだらだらと血を流す妖精は、青ざめた顔をして一滴の血を手の平の上に残して、消えた。


なにが起きたのか、わからなかった。



血の付いた手のひらをティッシュで拭いて、俺はページをめくった。


ふわっと、精霊を思った。

ふわっと、拙い描写を頭の中でなぞった。


突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、地の精霊。


小石をいっぱい付けた妖精は、顔がどこにあるのか見つけることができないうちに、砂粒を手の平の上に残して、消えた。


なにが起きたのか、わからなかった。



砂の付いた手のひらをゴミ箱の上で払って、俺はページをめくった。


ふわっと、精霊を思った。

ふわっと、拙い描写を頭の中でなぞった。


突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、知の精霊。


眼鏡をかけた妖精は、くいっと眼鏡を上にあげて、心ない言葉を手の平の上に残して、消えた。


「ばーか!」



拙い物語から出てきた、つまらない精霊たち。

つまらないものを創造したところで、何の実りもないと気づいた。


この能力は、恐ろしく精度が高いと気が付いた。



俺は感動作を買ってきて、それを見ながら創造してみることにした。


ラノベではない、本格派の調理人の自伝だ。

類稀なる表現力で描写されている料理を、ぜひ食べてみたいと思ったのだ。


芳醇な…恍惚とさせる香りをまとった、世界に一つしかない、逸品。

素晴らしい物語の、上品で馨しい描写を頭の中でなぞった。


突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、明らかにおかしなにおいを放つ生ごみ。


とても食べる気になれず、ゴミ箱に投げ捨てたが、強烈なにおいは手の平の上に残った。


なにが起きたのか、わからなかった。



舌のとろけるような濃厚で甘いクリーム、心地よい酸味が口の中で踊る、逸品。

素晴らしい物語の、上品で馨しい描写を頭の中でなぞった。


突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、明らかにおかしな動きをする、クリーム。


とても食べる気になれず、ティッシュで拭きとったが、しびれるような感覚が手の平の上に残った。


なにが起きたのか、わからなかった。



滴るようなジューシーな肉汁があふれだす、豊かなコクとまろやかなうま味の光る、逸品。

素晴らしい物語の、上品で馨しい描写を頭の中でなぞった。


突如光り輝く左手の手の平。


現れたのは、血の滴る、光り輝く、何か。


とても食べる気になれず、ゴミ箱に投げ捨てたが、強烈な眩しさが瞼に残った。


なにが起きたのか、わからなかった。


この能力は、恐ろしく精度が低い事と気がついた。


どれだけ創造しても、まるで反映されないではないか。


つまらない能力だ。

つまらない、能力だ。


つまらない、能力、だ。



…つまらない、能力、か?


俺は、気が付いて、しまった。


俺は、芳醇な香りというものを知らないから創造できないのだ。

俺は、恍惚としたことが無いから創造できないのだ。

俺は、舌がとろけたことが無いから創造できないのだ。

俺は、心地よい酸味を知らないから、創造できないのだ。

俺は、滴るようなジューシーな肉汁を知らないから、創造できないのだ。

俺は、豊かなコクもまろやかなうま味も知らないから、創造できないのだ。



よく知るものならば、創造できると思った。


いつも食べている、380円のラーメンを思い浮かべた。


手のひらサイズのラーメンが現れる。

つるりとすすってみたが。


ぼんやりとした味しか、しない。



もう少しちゃんと思い浮かべてみる。


手のひらサイズのラーメンが現れる。

つるりとすすってみたが。


ぼんやりとした味しかしないが、温かかった。



もう少ししっかりと思い浮かべてみる。


手のひらサイズのラーメンが現れる。

つるりとすすってみたが。


ぼんやりとした味しかしなくて、温かくて、コーンがトッピングされていた。



何度、創造してみても。

なにを、創造してみても。


ぼんやりとしか、創造できないことに気が付いた。



食べ物は味がぼんやりしている。

生き物は形がぼんやりしている。

物質はどこかおかしな部分がある。

魔法はエフェクトにしかならない。

歌はおかしな音程で再生される。



俺には、創造力がなさ過ぎたのだ。



せっかくの能力が、まるで役に立たない。

せっかくの能力が、まるで意味を持たない。

せっかくの能力が、まるで使えない。



このままつまらない能力のままで終わらせてなるものかと、俺はあがくことにした。


創造力を、得ようと思ったのだ。

創造力を、得たいと思ったのだ。


何も創造したことのない俺ならば、学べば、努力すれば、創造する力が付くと思った。


少なくとも、今まで俺の中になかった創造力というものが、生まれるはずだと思ったのだ。


常識にとらわれている俺は、なかなか創造力が育っていかない。

突拍子もない行動ができない俺は、なかなか創造力が育っていかない。

平凡が一番であると信じている俺は、なかなか創造力が育っていかない。

誰かの成功の足跡を踏むことに慣れている俺は、なかなか創造力が育っていかない。



俺は、創造力がない事に気が付いた。

俺には、創造する力がない事に気が付いた。


俺は、誰かの創造を取り入れる事しかできないことに気が付いた。


創造力のない俺だからこそ、この能力をもらえたのだと、気が付いた。


創造力が豊かな者ならば、おそらくこの能力で、世界を手に入れることができるはずだ。


おそらく、この世界を作った神は、自分の世界を誰かに渡すつもりは毛頭ないのだ。


おそらく、この世界は、自分ではない、創造力豊かな誰かのものなのだ。


俺はこのまま、つまらない能力の持ち主として、平凡な毎日を過ごしてゆくのだな。



そんなことをぼんやりと思いながら。



俺は今日も、手の平を上に向けている。




俺は今日も、手の平を上に向けている。



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― 新着の感想 ―
[一言] >現れたのは、明らかにおかしな動きをする、クリーム。 これがすごく気になりますがねー。 創造するのは難しいですよねー。知らないものはちゃんと創造できませんからねー。いやぁ描写は難しい。 …
[良い点] 草www 以前もありましたね。能力の無駄遣い [気になる点] 現実主義というのなら、原子から世界観を作りましょう。 [一言] アミノ結合 →アクチンとミオシンの二重螺旋フィラメント(太さ6…
2020/12/31 20:33 退会済み
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