4 自分のこれからを左右するもの
翌日。
俺たちは血を見るような訓練をしている...わけでもなく。
「これは俺には合わねぇんだよなぁ」
「武器を決めろと唐突に言われても、イメージができないよな」
そういう女たちの後ろを通り、武器の山をあさる俺。
何百人といるのだ、男勝りな女性もいるだろう。
俺はなんとなくだけど、そんな女性たちと一対一になったとしたら、勝てるかどうか怪しいものだ。
さて、俺たち生徒だった者たちは、朝から『自分に合う武器を選べ』と言われている。
訓練をするにも、まずは自分に合う武器を選ばせて、その武器に対応した訓練をするのだろう。
さすがに体力づくりだとか全武器共通で必要そうなことは後々するのだろうけれど、まだ『戦う』のではないといことは、少なくとも俺を安心させている。
「俺はこれにしたぜ」
「...武」
戦うこと自体に前向きじゃないまま武器を選んでいると、後ろから武に声をかけられて振り向く。
彼が選んだ武器は、自分の身長ほどあるだろう長さの剣だった。
大剣、というのだろうか。
「そんな大きな得物、扱いきれるのか?」
「確かにでかいけどよ、こいつがいいんだよ」
俺たちはついこの間まではただの学生で、そんなバカでかい鉄の塊を振り回せるほど体が出来ちゃいないはずなのだが、こいつがいいと武自身が言うだけあって、彼はもう既にその剣をブンブンと音を立てて振り回す。
まさか、こっちの鉄は軽いとかあるのだろうか。
「少し持たせてもらってもいいか?」
「いいぜ」
そう言って持たせてもらった剣は、重すぎて持つことすら大変だった。
数時間後になんとか武器を選び終え、あの女性に集合をかけられる。
どうやら俺はだいぶ最後の方だったようだ。
「しかし、全員が選ぶのを見ているんだとしたら、あの目はどうなってんのかね」
かなりの大きさの広場だ。
恐らく普段はここで訓練をするのだろうが、この広さに散らばっている数百人を見ているのだとしたら、恐ろしい目だ。
「さて、ようやく皆さん武器を選び終わったようですし、さっそく訓練を始めたいと思います」
そういって女性は、自分の腰に差していた剣を抜き放つ。
俺たちが手にしている武器よりも輝いているように見えるのは気のせいじゃない。
あれは俺たちのような素人でもわかるぐらい、俺たちの今手にしている武器よりもグレードが高い。
さながらSランクとでも言おうか。
「私が今手にしているこれは、かの勇者が使っていたという武器です。これが、あなたたちが訓練している間に反応したものこそ、勇者の者となるでしょう」
「...なるほど」
要するに、俺たちが訓練しているところを、『剣が』見ているわけだ。
ただ見られているのとはわけが違う。
俺はそういうのは少し嫌なのだが。
「...まぁ、関係ないか...」
そう呟いた時、なんとなく、その女性が俺の方を向いて笑った気がした。
嬉しくもなんともない。
俺は冷や汗が背中をつたうのを確かに感じていた。
「勇者が使っていた剣ねぇ...聖剣ってか?」
「...確かに、そんな感じするよな」
あの女性が未だに抜いたままにしているあの剣は、装飾もそんなに無く、神々しいような光を発しているわけでもないのに、どこか力を感じさせるものがある。
ここにいる四百人全員が束になってあの剣を奪いに行っても、文字通り一刀両断されそな予感すらする。
「ついでにもう一つ疑問」
「?」
疑問、と口にした武の方を向いてみると、いつになく真剣な顔でいた。
こいつの真面目な顔、本当に数回しか見たことないんだが。
「名前なんて言うんだろう」
「...」
優先度は低い疑問だった。
どうでもいいとは言えないだろうけれど、そこまで真剣な顔で悩むことだろうか。
そんな友人にため息を吐き、俺は手にしている、一般的な剣を見る。
武器の山には刀もあったが、俺には合わなさそうなので無難なものにした。
現代の本の知識だが、素人が使ったところで、刀は折れるだけなような気がする。
まずは技術を磨いてからだ。
「勉強と同じ、自分の選択肢を増やさないとな」
そうして俺たちは、人を簡単に殺せる得物を手に、訓練を始めた。