古の炎の巨人
楕円形の奇妙な形をした船のようなものが
海面を滑るように移動していた。
その船は全長が約100kmと巨大で、
船上には生い茂った林があって、
船というより島のような見た目をしている。
船内には農作物を作っている畑があり、
背後に籠を浮かべながら移動する人々が
見えない手でもいでいるかのように
作物を籠に移していた。
彼らには額に第3の目がある、
身の丈は4m近い巨人族の大人達だ。
彼らは魔力はないが、念動力が使える。
その力で収穫作業をしているようだ。
また、彼らの周りは静寂に満ちている。
第3の目の力で念話の能力があり、
離れた場所にいる仲間と思念で会話できるのだ。
この世界とは異なる世界で、アトランティス帝国と
激しい戦争を行い、汚染が進んでしまった星に
見切りをつけ、外宇宙の新天地を目指して
移動するはずであった。
次元航行を実行しようとしたが失敗に終わり、
次元の間に落ち、この世界へ流れ着いた次第だ。
この世界で6千年以上の時を
ひっそりと生きていたのだが、
今になって彼らの船は北上を始めていた。
副長のバジルは艦長のガーラに命じられ、
移民船を北に向けて操船していた。
(シヴァ様が出る時に、この世界の神から貰った
魔石が動力炉のコアにマッチしたのが幸いだな。
この星を飛び立つことは出来ないが、
滑るように移動することは出来るようになった。
しかし、何故艦長は北へ向かえと言われるのか、
真意が読めん。)
移民船はこの世界のロキ神がシヴァ神に渡した魔石で
動力エネルギーを取り戻せて、
移動できるようになっただけでなく、
船内のプラントの生産能力も向上していた。
(農作物の収穫量が上がったのは有り難い事だ。)
移民住民達が収穫している作物の一部は
この世界の森に自生していたものも含まれている。
また、新しい作物の収集もしたいものだと思う
バジルであった。
船内中央部のあたりに艦長室がある。
ここに艦長のガーラが引き籠もっていた。
彼の体は薄いが黒い揺らめきに包まれていた。
(落ち着かぬ。
何か心がざわつく感じだ。
何かが北に向かえと語りかけてくる。
精神制御を最大にかけて抑えているが
無性に暴れたくなる気分になる。
何か気分が落ち着かぬ。)
ガーラはシヴァから魔石を受け取った時、
魔石を第3の目で見つめ、
意識共有をかける事で中身を見ようとした。
その時彼の深層心理に小さな黒いトゲのようなものが
突き刺さる感じがあった。
バジルに引き渡すときに慎重に扱うようにと
告げたまでは平静に保てていた意識が
少しずつ不安定になっていくのを感じていた。
小さな黒いトゲから呪いのようなものが
彼の意識の中から汚染を始めているようであった。
巨大大陸の中央部より北側には山脈が折り重なるように
連なっており、東側の海に近い辺りには
活火山帯があり、時折炸裂音と共に火の粉を
舞い踊らせている。
そんな火山の火口の中に黒い影が蠢いていた。
「ロキの気配が感じられぬようになったな。
ふん、何を企んでおったのか知らぬが、
大方封じられたのであろう。愚かな奴よ。」
影は燃え盛る炎そのものを形にしたかのような
剣を手にした、古の巨人スルトであった。
彼は他の巨人族とは異なりこの世界の主神達との争いには
興味を示さず、ただ火口から上がる溶岩に向かい
時折剣を振るうのであった。
まるで溶岩と会話をしているかのような雰囲気があった。
古の巨人達はこの世界を今の主神達が治める前から
顕現していた。
今の主神達がこの世界の有り様を変えるため
立ちはだかった古の巨人達と争い、
勝利を手にすると様々な種族を地に生み出し、
少しずつ繁栄をしている状態になっていた。
「さて、龍人族の連中も
少しはやれるようになって来たか。
もう少し戦力が欲しいものだ。
動きが止まりつつあるこの世界を
今一度動かすには力が必要だ。
・・・面白い。
ロキの差し金か。
異界の巨人族の力とはな。
面白い、これは面白くなるぞ。」
立ち上がる溶岩を縦に切り裂きながら
スルトは火炎に揺らぐ空を見上げていた。




