闇からの解放
まだ周りの城壁も完成していないような出来たばかりの
魔族の小国ブランに黒い炎を纏った不死の戦士達が
静かに襲いかかっていた。
倒す事の出来ない相手に防戦一方となった魔族の戦士達は
次第に魔力切れとの攻防も始まりつつあった。
「間に合ったぞ!魔力ポーションだ!
順に配れっ!!」
近くの山の麓にある森人族の街から
魔力を補給できるポーションが届けられた。
竹筒を加工した容器に入った飲み物のようだ。
「耐えるんだ!きっと援軍は来る!
絶対諦めるなっ!!」
守備隊の隊長と思しき額に小さな角がある魔族の
戦士が大声を張り上げて周りを鼓舞している。
『セブン、
あの黒い穴から黒い炎を纏った者達が
溢れて来ているのだわ。
浄化 が効果ありそうなのだけれど
やってみようかしら?』
『あー、それでいいかも。
効果範囲もぐっと広がって
目視認識できる範囲 だから、
凄すぎる魔法だと思うよ。』
『じゃあ、早速使うわね。』
「 浄化 !」
フライングユニットで上空に浮かぶサラが
魔法行使の声を発すると、見渡す限りの範囲が
ダイヤモンドダストの煌めきに覆われた。
煌めきが治ると街の方へ攻め入っていた黒い炎の影は
消え失せており、成功したようだ。
『あーあの黒い穴からまた湧いて出て来てるな。
あの中に閃光弾突っ込んでみようか?』
『それなら、もう一つのキツイ方の魔法を
使ってみたいのだけれどいいかしら?』
『あー、あれね。あれはヤバそうだな。
とりあえず穴の入り口まで行ってみますか。』
すーっとフライングユニットが静かに降下を始め、
黒い穴の入り口前まで降り立った。
「 浄化 」
「ん?これ普通の穴じゃないな。
重力センサーのベクトルが
穴の入り口で直角に曲がってる。
だから黒い炎の連中は奇妙な出方してたんだ。」
重力センサーからの情報では、地面に空いた黒い穴は
街に向かう側が下になるような歪んだ
重力のかかり方になっていた。
「地獄門の前に立つ者よ、
このヘル様に抗う愚か者よ、
無限の不死の戦士達の前に
ひれ伏せるがいい!
地獄門 完全解放!」
黒い穴の中から低い女の声が響いて来たと思ったら、
それまで3mほどの直径の穴が一気に10倍の
30mに広がり、湧き出てくる黒い戦士達も
10倍に膨れ上がって湧き出て来た。
「セブン、
ちょうどいいのだわ。
この大きさならフライングユニットのままで
突入できるのだわ。」
「そうだな、渡りに船って感じだな。」
「その表現は嫌な感じね。
地獄門だけに渡りたくない川のイメージが
あるのだけれど。
いいわ、行きましょう。」
青いフライングユニットがふわりと穴の中に落ち込むと、
予想通り重力場が変化した。
「ここから全力で魔法を使うわね。
審判の閃光 !」
巨大な太陽が現れたのかと思うほどの
強烈な閃光が真っ暗な穴の内部を
真っ白に染め上げるように炸裂した。
「「「ギャーーーーッ!!!」」」
凄まじい絶叫が響き渡ったが、
閃光が治ると黒い穴からいつの間にか出ており、
草原の上に浮かんでいた。
「やった感じだな。
あれはさっきの声の人かな?」
草原の少し先のところで輿のようなものに
鎮座した女性らしき長い髪の人影が見えた。
「この人がヘルさんかしら?
天界に帰る前にロキ様が教えてくれていた
ヘルさんの容姿に特徴が一致するのだわ。」
パティシエの町の拠点にしばらく逗留していた
異世界のロキ神は、この世界の主神から声をかけられ
この世界の天界に住む事にしたそうだ。
拠点を離れる前に、懸念点としてもう一人のロキの子である
ヘルについて容姿を伝え、出来れば救ってやって欲しいと
願いを聞いていた。
ヘルは上半身は普通だが、下半身が死んだ状態で腐敗しており、
生と死の象徴のような存在となっている。
「まだ、微かに息があるようだな。
ここは俺の出番だな。
ロキ様から聞いてた通りに上手くいけばいいけど。
悪いな、ヘルさん、完全に死んでくれ。
神槍召喚 かのものを貫き滅ぼせ!」
セブンの伸ばした手の先から
主神の神槍が飛び出し、ヘルの上半身に突き刺さり、
抉り取るように穴を開けて突き抜けていった。
ヘルは声を上げる事なく絶命したようである。
「頼む、上手くいってくれ。
完全蘇生 ! 」
上半身に大きな穴が開いたヘルの体の周りに
虹色のウェーブが祝福しているかのように纏わり付き、
煌めきが治ると、色の白い綺麗な姿の女性が横たわっていた。
「ん・・ここは?
私はいったいどうなったのだ。
このすっきりとした気分は何なのだ?
・・・・か、体が、足がある・・
動く、動ける!?
そんな、こんなことが、
今までどうにもならなかったのに
どうして、どうして・・。」
戸惑いながらも、自分の腰や足に触れていたが、
よろよろと立ち上がろうとし始めた。
ふらついて倒れそうになった時、天空から光が
突き刺さるように落ちて来て、彼女を支えた。
「やぁ、ヘル。僕が分かるかい。
今まで苦労かけたね。
積もる話は天界でしようか。
ここには長くいられないからね。
セブン、サラ、
ありがとう。僕の娘を助けてくれて。
この子は天界で預かるよ。」
「セブン、サラ、と申すものよ。
私からも礼をいう。ありがとう。
暴れておいて申し訳ない。
この争いで命を落としたものは私が
蘇生できるが、物は直す時間がない。
これを授ける。使ってもらってくれ。」
「では、行くよ。」
天に向かって光が走るように輝くと、
親子の姿は消え、緑色の綺麗な魔石が残されていた。
魔族の国の方へ移動し、カミュール女王の
ホログラムとの会話をして貰い、経緯を報告し、
安心してもらった帰りに、魔石を隊長らしき人物に渡して
セブン達はその場を後にした。
「これはっ!修復魔法が習得できる魔道具だっ!
魔石ではない!
この国で、ある程度の習得者が確保出来たら、
この魔道具はカミュール様のところへ
お持ちするとしよう。」
ヘルの地獄門解放による地上世界への進行は
あっけなく終焉を迎えたのだが、
これで平穏になった訳ではなかった。
巨大大陸の火山帯の方では
古の炎の巨人スルトが噴き上がる溶岩を目に映しながら
黒い炎を滾らせていた。




