炎の破壊神
巨大大陸の西にある獣人族の古い街並みは
過去の栄光を取り戻したかのような賑わいを見せていた。
今朝も日が昇ると同時に新鮮な魚が並ぶ市場には、
天翼族の元戦士達が育てた野菜類の店も並び立ち、
中央平原から保冷馬車で運ばれてきた肉や香辛料の
店が出され、それぞれ交渉しながら交易を行なっていた。
近頃は人族の商人も出入りするようになり、
店では銀貨や銅貨も使われ始めている。
神龍様のお山の向こう側には魔族の国が完成し、
人族の王都も規模が小さくなったものの復興を遂げ、
互いに交易を始めていた。
この交易を加速させたのは、セブンが錬成で作り上げた、
リニア式の超音速移動できる鉄の荷馬車だった。
魔物や魔獣に襲われにくい地下に弾道空間を作り、
この西の街と南の街、中央平原や魔族の国、人族の王都が
メトロのような地下駅を介して繋がっている。
移動動力は魔石の魔力を使っている為、
各駅は銀貨だけでなく、魔石でも利用できる。
この超高速メトロは魔力操作に長けたものであれば
問題なく安全に動かせる為、天翼族、魔族、獣人族、
人族、魚人族と種族の差別なく操作に携わっている。
また、南の街とこの西の街の沿岸部では、
魚人族の水魔法で作られた水石を使った
魚介類の養殖も始まっている。
水石はセブン達との水中戦でも使われたのだが、
水で出来た柔らかい石のような壁であり、
押しても伸びるような感じになって進行を阻害し、
魚などを閉じ込めるには最適な魔法生成物だ。
ちなみに、魚人族は見た目は魚の顔だが、
獣人族と同じく体の構造は魔族と同じく、
体内に魔石を持って生まれてくる哺乳類だ。
耐水圧の能力も高いものだと深度1000mまで
潜れるのだそうだ。
魚の取り方は身体能力を生かした追い込み漁だが、
水石を魚網のように扱える為、
狙った獲物は確実に獲れるスナイパーのような漁師達だ。
獣人族はというと、パワーにものを言わせて
海面を力一杯ぶん殴り、その衝撃波で魚を失神させて
捕まえる豪快なボクサーのような漁師達だ。
互いに取る魚が違う為、漁場が被らず
良好な関係が築けている。
さて、そんな今朝の市場で人だかりが一番多いのは
パティシエの村のスイーツの店だ。
獣王ドゥルガーがパイロに頼み込んで出店にこぎつけた、
超人気店だ。
子供でも買える安価なケーキ類やチョコレート菓子から
貴族御用達にもなるレベルの高級ケーキまで幅広く、
種類も豊富に取り揃えられている。
その店の前の通りに立つ女性がいた。
その女性は赤い艶やかな髪をたなびかせ、
輝くような金色の目をしていた。
その金色の3つの目が店を切り盛りする娘に向けられ、
固まっているようだった。
(なんということじゃ、あの姿はルドラシヴァ。
炎の破壊神の目の色じゃ。
今は第3の目を閉じておるようじゃが、
見間違いようがない。
いや、見間違えるはずがない、我が顔を。)
身長こそ違えど、その女性と店の中の娘は瓜二つの顔立ちであった。
(しかし、妙じゃな。こうも各種族が楽しげに入り混じり、
どこを見ても虐げられておるようなものは見当たらぬ。
何となく燃やし尽くす前に街の中を見て回ったのじゃが、
これはもしや、あのものに誑かされたか。
さて、手が空いたようじゃな。
話してみるか、私と。)
小綺麗な店の屋根の下までゆっくりと近寄っていくと、
中から声がかけられた。
「ごめんなさい、今日の分はさっきので売り切れになりました。
また、明日持って・・・」
人の気配に振り向きながらそうお詫びをしようとしたパイロが
唖然として固まってしまった。
「わかるかえ、私が。
そうじゃな、ここでは人目が多い。
どこか人目につかぬところで話をしたいのじゃが。
良いかえ?」
「え、えっと、は、はい。大丈夫っしょ、いや大丈夫です。
あ、ファーラさん、あたいちょっと出かけてくるよ。」
「うむ、もう店じまいだけなのだ。
ここを片付ければ・・
こちらの方はパイロ殿の御姉妹様なのだろうか?」
「えっと、ちょっと事情があって。。
後で話すよ。ちょっと行ってくる。ごめん。」
そう言うと、パイロは店の裏手の海辺の方に
その女性を伴って歩いて行ってしまった。
何となく、村にいるサラに話しておいた方がいいように思い、
ファーラは襟につけたドローンに話しかけたのであった。
『何ですって!?
パイロとそっくりな感じの女性ですって?
あ、取り乱してごめんなさいね。
大丈夫なのだわ。パイロにもドローンがついているから。
戻ってくるまで待っていてあげてね。』
「うむ、了解した。」
(スクルド様の言われていたシヴァ神様かもしれないわね。
困ったわ。盗み聞きするようで悪いのだけれど
聞かせてもらわないと。)
拠点の奥で休んでいるクロとブリュンヒルドの方へ
向かうことに決めたサラの顔には不安の色が広がっていた。




