封じられしもの
神龍様のお山に向かったセブン達は、
麓で龍人族のベンゼル率いる戦士団と邂逅し
またも、水不足で困っていた彼らの願いを聞き、
広域水魔法を行使したのであった。
「あの~皆様~・・・
あの~ベンゼル戦士長様~
これで信じて頂けましたか~?
皆様~帰って来てくださ~い。」
あまりの光景の変化にショック状態に
陥った戦士団一同はまるで立ったまま
気絶しているかのように硬直し反応がない。
セブンが恐る恐る声掛けを続けると、
はっ!という発声と共にベンゼル一同が
現実世界に戻って来たようだ。
「こ、これは失礼致した。
信じるも何も、いや全く信じられない
大魔法で魂が抜けておった。
いや、セブン殿、疑うようなことを申して
大変失礼致した。
紛うことなき女神様の神徒様であると
理解申した。
さて、神龍様のもとまで行かれるとの事。
結界は我らで開けれども、神龍様のもとに
辿り着けるかどうかは、セブン殿、
あなた様自身にかかっております。
神龍様がお認めになられた者のみが
辿り着ける。
逆に認められぬ者は結界内を彷徨い続けるとも
聞いております。
それでも向かわれますか?
さようですか。
では、途中までお送りさせて頂きましょう。
水の恵みのお礼でもあります故気になさらず。」
セブンはホバーユニットが後ろからついてくるように
自動追尾モードに設定し、龍人族の戦士団の後に続いて
ゆっくりと山を登り始めた。
世界樹の森のエルフの集落は大忙しの様相になっていた。
「グラン族長!開いている樽は何処にありますか?
手持ちの分はすでに満水に出来たので
予備の樽も満水にしたいです!」
「落ち着けジラン。水は逃げはせぬ。
予備の樽は精霊の祈り日に使った樽が
祭祀場にあるはずだ。
うむ、丁度いいか。満水にしたら
そのまま祭祀場にお供えとして
祀っておいてくれ。」
「はっ、承知しました。行くぞ!」
若手の者を引き連れて副族長のジランが見た目通りに
俊敏な動きで立ち去っていく。
グランは、雨が降った気配もないにも拘らず
急に水量の増えた川をじっと見つめ、
何者かが善意で施してくれたに違いないと、
上流の神龍様のお山に向けて
静かに礼をするのであった。
その水の恩恵はもちろん世界樹にも届けられていた。
『うん、神気が混ざった霊験あらたかな水だね。
彼だね。あれ?彼の加護って水神様だったっけ?
ボクと同じノルン様の神徒のはずなんだけどな。
一度会いたいな。
今度ノルン様にお会いしたらお願いしようかな。』
世界樹の精霊に興味を持たれた、人ならざるセブンであった。
その頃、白靄に包まれた神秘的な空間の中で。
「やぁ、ノルン、楽しめているかい?」
靄の中で男らしき声が聞こえた。
「あら、ニョルズ様、お久しぶりですわね。
お陰様であの世界も楽しくなってきておりますわ。
ニョルズ様の加護を受けたあの方のお力は
あの世界に新たな命を育んでくれそうですわ。」
靄の中から女らしき声が楽し気に返ってきた。
「それは何より。彼は不遇なところがあったから
運命の歯車がいいように回ってくれるといいな。」
「思い人も一緒に転移して貰いましたわ。
でも、試練に耐えられるかどうかは
彼ら自身にかかっておりますわ。」
「うん、それが大事なことだね。
おや、神龍のところへ行くんだね。
あれは、何故・・まずくないかいノルン。
あれは彼にどうにかできるのかな?」
「うふふふ。仕込みはしておりますのよ。
きっと乗り越えてくれますわ、彼らなら。」
「うん、見守っていたいところだけど、
あれに絡むなら話に行かないとだめだね。
ちょっと行ってくるよ。
持ち主にどうしてあそこにあるのか聞いてみるよ。」
「はい、いつもご助力ありがとうございます。」
靄の中に静けさが戻って来た。
まるで運命の女神ですら
息をのんで見守っているかのように。
セブンとホバーユニットは、龍人族の戦士団と別れ、
ひたすら山を登り続けていた。
(重力が強いな。かなりの重量物でもあるのかな。)
そんなことを思いながら登り続けていると、
急に暗い影に包まれた開けた場所に辿り着いた。
(さっきまで明るかったのに、ここはやけに暗いな。
こんな5000m級の高山に大きな木がある訳でも
ないだろうし、・・・あれ?
これ生命反応に囲まれてるというか、
この足元も・・山じゃない、生物の上にいるのか!)
焦るセブンの頭の上から、声が響いてきた。
「ここに何用か?異邦人よ。」
はっとして上を見上げると認識阻害がかかりきっていないが
判別しにくい巨大な影がそこにあるのが分かった。
「私は運命の女神ノルン様にこの世界に召喚された
メタルゴーレムのセブンと申す者。
今この大陸は雨不足で困窮するもので溢れております。
この天候を司られているのは神龍様であると
海竜様、ヨルムンガンド様にお教えいただき、
ここまで参った次第でございます。」
「ほぅ、ノルン様の神徒とな。
ヨルムンガンドに会ったのか。
あ奴は不憫な奴よ。元気にしておったか?」
「は、今は元気にこの大陸の周りを廻られておるかと。」
「そうかそうか。元気であればよい。
さて、神徒セブン。
この大陸の天候を司っておる我ではあるが、
実はかようなものが我の力を封じておるのじゃ。」
そういうと、巨大な影は一本の槍のようなものが
突き刺さったところを見えるようにしてみせた。
「何の変哲もなさそうな槍ですね。
抜いてみていいでしょうか?」
「神徒セブン、これが何かわからぬか?
主神の神槍、グングニルじゃ。
我は何か主神の気に触れ、神罰が落ちたようだ。
触れればそなたの身に何が起こるか我にもわからぬ。
我には触れることもかなわなんだ。
もし、抜けるのであれば抜いて欲しいところだ。」
「では、ちょっと失礼します。」
セブンは、足部の反重力ユニットを稼働させ、
神槍の横まで移動し、覚悟を決めて抜きにかかった。
「ぐっ!!」
痛みを感じる神経などない電脳兵の体に
あり得ない激痛が突き抜け、思わず手を放してしまった。
「やはり、神槍は抜くことは叶わぬようであるな。」
「神龍様、私には仲間がおります。
その仲間をここに迎えたいのですが、
空からここに入れて頂くことはできますでしょうか。」
「ほぉ、翼を持つ仲間がおるとな。
よかろう、上空の結界を解いてやろう。
呼び寄せるがよい。」
「ありがとうございます。」
『サラ、カイ、カーラ聞こえるか?
俺の位置を確認して直上から
飛んで来てくれないか?』
『聞こえたわ。
さっきまで位置が見えなかったのだけれど、
カイも一緒だとロフテッド軌道では行けないから
時間がかかるのだわ。
少しお待ち頂くように
お話しておいて欲しいのだけれど。』
『了解。』
「神龍様。今からこちらに向かって飛んできますが
少しお時間ください。
何か必要なものはありませんか?」
「うむ、我も少し水が欲しいところだな。」
「どのくらいご入用でしょうか?」
「我は頭が八つあるのでな、それぞれ一樽分くらいでよいが、
持っておるのか?」
「いえ、女神様のご加護のお力で水魔法が使えますので。
何処かに貯めるような形でもよいでしょうか?」
「ふむ、ではあの泉の、窪地にしか見えんだろうが、
そこに貯めてくれればよい。」
「承知しました。では魔法を使います。
天空の瀑布 」
ここでも黒い雲が沸き立ち、凄まじい爆音と共に
滝が叩き落されてきた。
標高からすると凍るかと思われたが、結界の力か、
凍ることなく水のままであった。
「うまい水であるな。
うむ?そなた正しく神徒であるな。
この水は神気が混ざっておる。
普通の水魔法ではこうはならぬ。
心身共に癒える良い水であるな。」
巨大な八つの影が泉の水を飲み干す勢いで
ごくごくと美味しそうに音を立てていた。
(神龍様まで水不足で困窮してるとはな。
主神の神槍か。大きな陰謀を感じるな。)
この先に何が待つのか。
不安感に襲われるセブンであった。




