リミッター
セブンが電脳兵専用ポッドに入って間もなく、
ポッドに開発者権限でアクセスし、カスタム調整モードを
起動させるサラの姿があった。
(危ないところだったのだわ。
超加速の解放はリミッター制御をかけて
オーバークロックとオーバーロードを抑えるわ。
悪いけど内部に保険として冷凍弾を仕込むわね。
拠点に保管されていて助かったのだけれど、
問題は流動メモリーからのアクセスで
冷凍弾をリモート起爆できるかどうかに
かかっているのだわ。
反応炉の出力がまた上がっているだけに
この冷凍弾で強制停止できるかどうかも
不確定要素だわ。
あら、古い記憶まで再更新されているのだわ。
私の流動メモリーにはないものもあるみたいね。
あり得ないことだけど、女神様が次の調整で
全部戻すとメッセージにあったわね。
とうとう思い出してしまうのね。
なら、この超加速のことも話すべきかしら。
駄目ね、きっと知れば使うわね。
リミッターだけかけておくわ。
これを使うような戦いがないことを祈るしかないわね。
あなたはいつまで戦い続ける気なのかしら?
もう十分過ぎるほどに戦ってきたのよ。
もうゆっくりと過ごす時を楽しんでもいいのだわ。)
ポッドの中のセブンを悲しげに見つめるサラであった。
(・・・ここは何処だ?)
ふと気が付くと、セブンは白い靄に取り囲まれて立ち尽くしていた。
(俺は、 そうだ、調整ポッドに入ったんだ。
禁則事項を解除したんだ。
古い記憶が刻まれるって気がしたんだけど、
これは何だ?)
『ここは私の結界の中だよ。』
突然、目の前に透き通る色のない長い髪をした、
色白で金色の瞳をした美少女が現れた。
靄と同じ白い布のようなものを全身に纏っている。
(そうか、あんたが運命の女神ノルン様ってことか。
初めまして?でいいよな?
って、しゃべり方このままでもいいかな?)
『もう、自己紹介くらいさせて欲しかったんだけど。
そうよ、私があなたをこの世界に呼び寄せたノルンよ。
ここはあなたの頭の中と同じだからそのままでいいわよ。
カミュールの過去視であらかた思い出したはずだから
実は更新する記憶ってもうないのよね。』
(じゃあなんでここに?)
『ちゃんとお礼と呼び寄せたお詫びと、理由も
お話したかったからだけど、嫌だった?
そ、よかった。
向こうの世界で私の神徒のクロを助けてくれてありがとう。
異界召喚で連れていかれたから取り戻せなくて困ってたのよね。
あの連中は私とは違う神と契約しているから
悔しいけれど私には手を出せないのよ。
自由気ままにこの世界で過ごしていただけなのに、
あの連中は・・この話はもうおしまいでいいかな。
こっちの世界に来てもらったのは、2つあるの。
一つはこの世界の困ってる人たちの運命に関わってほしかったのと
同時にあなたにこの世界でサラと二人で生きる運命に
挑んでほしかったの。
はっきりとは言えないけれど、あなたはこの世界で
向こうの世界のあなたの運命の真実を目の当たりにするわ。
きっとあなたも運命を呪うことになるわ。』
(あー多分大丈夫だ。
カミュールさんも同じこと言うだろうけど、
自分の弱さを呪っても
運命の女神を呪うようなことはないさ。
あんたはほんとにいい女神さんなんだよ。
おれはあんたの御使いってことがちょっと自慢なんだ。
俺が周りの評価をひっくり返してやるさ。
難しいことはよくわからねぇけど、俺に出来ることは
何だってやりたいんだ、こっちに来てからずっとそう思ってる。
やれるだけやってみるさ。)
『うん、そう言ってもらえるのって久しぶり過ぎて泣きそう。
最後にこれだけは覚えていて、スキルの魔法が固定なのは意味があるの。
絶対忘れないで、そして必ず思い出して。
私の願いを話すことは許されないのだけれど、
あなたなら叶えてくれると信じてる。
じゃあね~。』
靄が晴れるように女神は姿を消した。
セブンは過去の記憶を高速再生し、
すべての記憶を受け止め始めるのだった。
その頃巨大大陸の東の海で、
ダイビングユニットのカイは予備の2基と共に
巨大な生命反応の探知に全力を挙げていた。
『想定ではこの近海に眠っているはずなんですが、
反応がないとなると、もっと沖の
深いところかもしれませんねぇ。
んっ?生命反応はないのですが、
巨大な石のようなものが横たわっていますね。
これは大きいですね、長さも先が確認できないとは。
一度セブン様にも見てもらいますか。
サラ様、一度海上に出ます。
セブン様の到着を待って調査に出ます。
よろしいでしょうか?
はい、まだ調整中ですか?
分かりました。予備機の方で探査継続しておきます。
では、これより浮上始めます。』
そこに迫る影があることをカイはその時知る由もなかった。




