運命の流れ
電脳兵のセブンは、魔族国の女王カミュール・ジルバに連れられ、
少し小奇麗なテントへと案内された。
「遠慮せずに入るがいい。人払いはしておる。
滅んだ国の王になど畏まることもなかろう。」
きらめく銀髪の間から光を失わぬ赤い瞳を光らせて、
カミュールはセブンを平然とテント内に招き入れた。
「失礼致します。
しかし、まったく俺のことを警戒されておられない様子ですが、
よろしいのでしょうか?」
「はっ、良いも何もあるものか。
女神様の加護を持つ渡り人に敵う者などこの世界にはおるまい。
件の渡り人の勇者とやらにも手も足も出なかったのだからな。
いや、実際足を奪われたか。はっはっは。
セブン、治療魔法をかけてくれた礼を言う。
日々痛みに耐えながら生きるのも一興であったが、
やはり、あるのとないのでは大きく異なるな。
お陰でしぶとく生き抜いて、運命の流れに逆らってみたくなった。
いや、そなたの女神様に逆らうという事ではないのだがな。
さて、ここまで連れ出したのは訳があってな。
わらわの能力でそなたのいたという異界のことを視たいのだが、
どうだろうか?
勝手に見るのも女神様に失礼かと思うてな、
なに、手に触れるだけでそのものの来歴を読み取れるだけの力だ。
害はない。」
「女王様は俺のいた異界に興味をお持ちで?」
「そうだ、この世界の力を越える力を生み出した異界に
興味がある。
なにを見ても他言はせぬ。」
「まぁ、ほぼ戦争に介入していただけの記憶しかないはずですので
えー問題はそこではなくてですね、手に見えてるのも武器でして、
生身ではないのですがそれでも大丈夫ですか?」
「うむ、過去ゴーレムの作成者を視たことがある。
問題なく出来るであろう。よいか?」
どうぞ とセブンが手の甲の部分を前に差し出すと、
カミュールは手の平をかぶせた。
「視せてもらうぞ、 過去視 」
そうカミュールが言い放つと、
セブンの意識がすっと灰色の世界に落ちて行った。
(ここは何なんだ?)
(わらわの過去視の閉鎖空間に付き合ってもらいたくてな、
間違いなく見ても分からんものを聞きたいためだ。
迷惑かと思うが、手間が省けよう。
さて、これは件の勇者か。
ほう、そなたが倒したか、この馬車を壊したものはなんだ?
魔力の動きがなかった、これも機械なのか?
そうなのか。一定の負荷で爆発する機械兵器と申すか、
魔力探知にかからんとなるとこれはこの世界に危険な代物だな。
気を付けて扱われよ。
最後の馬車の中の男・・・いや、何でもない。さらに少し戻す。
これは森人族の森か、ヒクイドリを倒したか。
これはどうやって倒したのだ?勝手に倒れたようにしか見えん。
なに?手の平の中にある武器だと?随分と物騒な手なのだな。
いや、戦士の手など物騒の塊みたいなものだ、気にすることはない。
さて、ここは同じような砂漠ではないか。
なに?これがそなたの世界だと?どこの世界も干上がっておるのか?
救われんな、お互い。
ん?何だ子供が・・武器をとって戦うというのか!?
そなた、一瞬の迷いもなく・・、いや、そうか、そうだな、
戦場で迷う者から死ぬ。
相手が何であれ、戦場で生き抜くには即断即応だな。
・・・感じておるか、そうだ、この閉鎖空間ではそのもの感情の動きも
感じ取れるのだ。そなたに良心の咎があるが故の苦しみだ。
目を背けるな!
戦場で命をやり取りするという事は、生き抜くという事はそういう事だ。
いや、戦場に限らん!
何かの犠牲を払うことで、この世の皆すべては、その命をつないでおるのだ。
肉であれ、草であれ、それはこの世に生きる等しく尊い命だ。
その命を奪っておのれの糧として命をつなぐ。強き者が生き残る当然の摂理だ。
子供であろうとも同じであろう。あの子供も生きるために戦場に出た。
そなたも同じだ。そなたが強かったから生き残った、ただそれだけのことだ。
さて、もう少し過去をそうだな、そなたの子供のころを見せてもらうか。
この白い建物は何だ?病院?何だそれは?ほう、人族の治療院というものか。
これは誰だ?何故二人して泣いている?姉?治療代を稼ぐために戦場に出るのか。
・・・そなた罪作りなことをしたな。分かっておるのか?
この姉の涙の意味を。
そう、わらわなら、弟を死地に追いやるおのれのふがいなさを
一生責め続けるだろう。
情けなく、動けぬ体を恨みながら、悔し涙を流しながら、
弟の墓守を終身する覚悟で、 生かされていく と思うであろうな。
しかし、そなたは今ここで生きておる。
これはすべて過ぎ去ったこと。運命の流れは今これから
そなたが自分の力でつかみ、変えていくのだ。
えっ?姉は生きておるというのか?同じゴーレムとしてか。
いや、十分ではないか。話も出来るのであろう?
ならば、思いも伝えられるようになった運命の流れというのは
悪いものではなかろう。
ふむ、ちょっと興味がある。逆に戻させてもらう。
ほぉ、この美麗な羊族の女人か。どう見てもそうとしか見えん。
ん?そなた大きな胸が好きなのだな。目線が固定されておるぞ。
わらわがいうのも何だが、実の姉は止めておけ。憧れと恋愛は別のものだ。
ん?違うと申すのか?ではこのドキドキした感情は何なのだ?
ふふふっ、あまり苛めんでやろう。
うむ、正直そなたの世界の砂漠を見て視る気が失せておったわ。
ここまでにしよう。付き合わせて悪かったな。)
途端に、現実の色の世界に戻り、ほっとしたセブンであった。
バグドローンがテントの外に人がいることをアラート発報してきた。
まさに魔法を撃とうとしている姿と共に。
直後、テントを巨大なファイアボールが焼き尽くした。




