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0 異界召喚

~ セブンが侵入する2か月前の砂漠の地下で~


 「よう、漠斗、酒ねぇか酒。」


常に酔っているようにしか見えない赤ら顔の巨漢が

薄暗い地下神殿前で朝の祝詞をあげる男に声をかけた。


 「うるせぇ、バスク!後にしやがれ!」


後ろを振り返ることなく、男は祝詞を続けていた。


その男の横から気配もなくもう一人の男がすっと現れた。


 「昨日の樽酒はどうした?まさかもう飲み干したとかいうなよ。」


 「ふん、あれっぽっちで一晩も保つはずなかろうが、鮮牙。

  酒がねぇんならもう俺はここから手を引くぜ?」


この男は酒で動くエンジンでもついているのだろうかと思うほど

飲みまくる輩だ。


 「とにかく水神への祝詞が終わるまで待て。」


 「おめえらみたいな、悪魔みたいな神官なんざ何処探してもいやしねぇ。

  しかし、いつも不思議に思うんだが、なんでおめえら楼蘭の一族が

  祝詞とやらをやると地下から水が湧いてくるんだ?」


 「企業秘密だ。」


楼蘭一族は、砂漠を渡る砂漠の民の部族の中で、

水神を祀る神官としての地位を確固たるものにしていた。

祝詞をあげているのではなく、先祖伝来の風水術の能力で

水を確保出来うる異能が備わる一族であった。


その時、地下神殿前の空間に、

煌めく魔法陣が急激に展開したと思ったら、

その場にいた3人を取り込み、

代わりに小さな生き物を残して

魔法陣はゆっくりと霧散していった。


******************************************************


~それより少し時間軸を遡った異世界の王城の神殿前にて~


 「アラン、これは何事であるのか?」


 「陛下、これより我が一族に伝わる秘伝の魔法により、

  この地に水の恵みをもたらす異界の 勇者 を召喚致します。

  勇者 は古来より大魔法が使える異界からの 渡り人 なのです。


  今ここに精霊の血肉をもって異界召喚を行うことお許し賜りたく存じます。」


見ると、神殿前には大きな魔法陣が描かれており、

中央には何かの魔道具のようなもので仰向けにされている

黒い獣のようなものが見えた。


 「その異界召喚とやらで呼び出す 勇者 は

  まこと水の恵みをもたらすのであろうな?

  であるか、では許す、勇者 を召喚せよ。」


 「はっ、ではかかります。」


そう頭を垂れながら返答するアランの顔には歪な笑みが浮かんでいた。


 (馬鹿どもめ。これでこの大陸にはとどめを刺せる。

  先の魔道具の仕込みも上々の出来だ。もう2度とこの地に雨は降るまい。

  何も知らぬ愚か者共など干からびて滅び去るがいい。

  この大陸は我がアトランティス帝国が貰い受ける。

  すべての命を狩りつくした後にな。)


悪魔の思考をめぐらせながら、魔法行使能力のみで魔法団長に上り詰めたアランが

中央部にはりつけにされている黒猫の精霊、ケットシーに歩み寄っていく。


 「精霊には実体剣は通じないのですが、魔法剣なら

  このように切り裂くことができます。」


そう言い放つと、精霊の腹部に魔力で形作られた刃を突き立てた。

どくどくと光る血のようなものが流れ出て、魔法陣に満たされてゆく。


 「異界の神よ、精霊の血肉をもって我が願いに応えよ!

  水の神に愛されれし異界の勇者をここに!

  異界召喚!」


魔法陣が頭上近くまで浮かび上がると、中央部の瀕死の精霊の姿が霧散し、

同時に人影が顕現した。


 (なんだと!?3人も?どういう事だ。

  一人でも御し切れるかどうか怪しい存在のものであるのに。

  まぁいい、上手く使ってやるさ。)



現れた楼蘭兄弟とバスクはこの後、水魔法を使う労の先払いだとして、

王都内で本能のままに奔放なふるまいを繰り返すこととなった。



楼蘭兄弟に娘を乱暴され激高した高位貴族と護衛騎士を

錬金魔法で作り出した機関銃でハチの巣にしたり、

暴挙を諫めようとしたアランやテュールを

酔ったバスクが雷撃で重傷を負わせたりしていた。



アランは結局、第二騎士団、勇者達をうまく丸め込み、

近隣諸国の水魔法使い強奪を唆すことに成功した。


滅ぶ隣国の姿に黒い笑みを浮かべるアランこそ、

遠く離れたもう一つの大陸に栄える超魔法大国、

アトランティス帝国の放った刺客であった。


******************************************************


 (もうダメかもしれない。魔力がほとんど尽きかけてる。

  体を幼くして消費を抑えても、魔力を周りから取り込めない。)


怪我を負ったケットシーは、激しい次元の歪みを感じた後、

幼く小さくした体を震わせて耐え忍ぶしか手立てがなかった。

まさに力尽きかけていたその時、

気配なく近寄ってきていた何者かに拾い上げられた。


そのすぐ後に高熱の風に吹き飛ばされるように意識も掻き消えた。


  

 『我が遣いの子よ。その者達と共に歩め。運命の女神の名の下に』



気が付くと、見たこともない服装の兵士のような男の胸に抱かれ

森の木立に囲まれていた。


 (少し魔力を取り込める。治療を優先しよう。

  でもお腹減ったな、起きて、おい、起きて)


悲しいかな、幼くなってしまった体からは

み~ み~ というか細い鳴き声しか出せなくなっていた。



 「まじか、あの高熱で溶けなかったのか?・・・」


男は目が覚めるとぶつぶつ言いながら動き出していた。

男から感じる魔力波動に心地よさを感じながらケットシーは眠りにつき始めた。


 (あれ?魔力波動が2人分あるように感じるけど

  どうしてかな?

  お腹すいたな。。)



 『私の遣いの子に手を出した代償はしっかり払ってもらうわ。

  彼と彼女には出来る限りの祝福をかけたわ。

  彼の持ってきたチョコって美味しそうだわ。気になる~。

  さぁ、私のケットシーちゃん、彼らの運命を見守ってね。』



欲望・陰謀渦巻く異世界に舞い降りた電脳兵は、

元の世界では回らなかった運命の歯車を、一気に回していくことになるのであった。

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