精霊達の思い
巨大大陸のほぼ全土が雪化粧をしている。
昨年は雪が全く降らなかった反動の様に
各地で大雪の記録を更新している。
結界の張り巡らされた世界樹の森には
比較的少ない雪が積もっている。
「これだけの雪があれば、
全ての氷室の中も埋まりましょう。
春を過ぎても昨年のように
水不足で困ることはないでしょう。」
「そうだな。
昨年末から冬将軍の精霊達は
頑張っているようだな。
では我らも雪の中でしか咲かぬ
雪中華を探すとしよう。
ジラン、この雪でもキラーファングは
冬眠しておらぬはずだ。
希少植物の採取班に同行する討伐隊の
指揮を頼むぞ。」
「はっ、では早速編成にかかります。」
森人族の族長グランの指示を受けた副族長のジランが
集落の中に駆けて行った。
ヒクイドリなどが使う火魔法で負った火傷を
跡形もなく直してしまう薬草となる花を
探しに行くようだ。
森と共に生きる彼らには季節ごとに
集める薬草、果実がある。
冬には火魔法系の傷に効く氷属性の草花を、
春には睡眠魔法に耐性のある毒属性の草木の葉を、
夏には凍傷などの氷魔法系に耐性のある植物の茎を、
秋には乾燥などの黒魔法系に耐性のつく果実類だ。
「これだけ雪があれば、昨年は取れなかった
雪中華も取れるであろう。
これがあるのとないのでは
狩りの生還率が違う。
頑張ってくれている冬将軍の精霊達には
感謝だな。」
薄闇迫る集落の空を飛び交う揺らめきを見上げた
グランはそう言葉に出して感謝の目を向けるのであった。
『コトシハ チカラガ ワイテクル
マダイケル モットフラソウ
シッカリユキヲ フラセヨウ
ワレラノ シメイダ』
冬将軍と呼ばれる雪の精霊達は、
力の限り大陸内を駆け回り大地を凍えさせるような
雪を降らせ続けている。
『イノチノ トウタダ
イキノコルモノハ ツヨクナル
イキノコレナカッタ モノノブンマデ
ツヨクナル
ツラサヲ シルモノハ
シラナイモノヨリ ツヨイ
ワレラハ センベツスルモノ
フユショウグン
アラガエ イキトシ イキルモノヨ
ワレラニ アラガイ ツヨクナレ』
空を飛び交う精霊達はその様なことを
口遊ながら各地を回っている。
彼らはやがて力つき、雪の涙という
魔石になって地に落ちる運命だ。
それでも雪の精霊としての誇りを持って
命の力を使い続ける聖戦のようだ。
その聖戦に挑むものがいる。
風の精霊を率いる火属性を併せ持つ、
特異種の風の大精霊だ。
だが、その大精霊がまだ世界樹のもとで
引き籠もっていた。
『ジイジ オイラニハ ムリダヨ
ナンデ オイラヲ オイテイクノ
オイラヒトリデ デキナイヨ』
この特異種の大精霊はまだ若く
未熟な感じのする雰囲気を漂わせ、
世界樹の根元で風の光石と変わっていく
大きな精霊の横で悲しんでいるようだ。
この未熟な精霊の親達は一昨年の精霊狩りで
連れ去られ戻ってこなかったのだ。
引退した祖父にあたる風の精霊が
面倒を見て来たようだが、本来一度しか使えぬ
代変わりの秘術を再び使い、ついに世界樹のもとに
帰っていくようだ。
『泣くのではない、新しき風の大精霊よ。
全ての命は巡るもの。
君には新たな命を芽吹かせる
大いなる力が備わったのだ。
さあ、この大地に新しい命の風を
吹かせなさい。』
『ムリダヨ
デキナイヨ
ナンデ ボクナノ
ソンナチカラ ホシクナイ
ヒトリニシナイデ
ドウシテ ボクナノ』
『それは君の背負った運命だよ。
君のお父さんもおじいさんも
背負い続けてきたものなんだ。
その答えを知るためにも
まず、立ちなさい、風の大精霊よ。
そして見上げなさい、空を。
君と共に冬将軍と戦う運命を背負った
風の精霊達と共に行きなさい。
今も君たちの到来を歯を食いしばって
耐え忍んでいる命達がいる。
彼らを助けられるのは君達だけだ。
君は一人ではない。
あんなに多くの仲間がいる。
これから訪れる苦楽を共にできる
仲間がいるんだ。
顔を上げて行きなさい。
君のお父さん、おじいさんが守り伝えてきた
誇りを胸に行きなさい。
戦い終えた時、君は君の背負った運命の
意味を知ることになるだろう。」
世界樹の精霊が風の大精霊を立たせて、
空に向かってその背を押し上げた。
体より大きな透明の羽を広げた大精霊は
待ち構えていた風の精霊達に手を携えられ
白み始めた空に向かって飛んでいくのだった。
その日、巨大大陸中に強風が吹き荒れたという。
重く降り積もった雪解けを推し進め、
大陸中の命を祝福するかのような
暖かな風、春一番が吹いたという。
北部の永久凍土のような氷の湖も
この風で溶かされると、中からびしょ濡れの
天使達が身震いしながら飛び上がってきた。
すっかり戦意を失っている天使達は
何事もなかったかのように
虚空に向けて消えていくのだった。
ただ一人、南の方角をひと睨みしたもの以外は。
その天使の影に潜んだものがいることを
その者は気付いていなかった。




