天から降るもの
日が短くなって肌寒さが増したその日、
パティシエの街に空から降るものがあった。
はじめのうちは粉砂糖を撒き散らしたような
細かさであったが、だんだんと陽が傾き、
夜の帳が降りる頃には大粒になっていた。
「こっちにきて初めて見る雪か。
この分だと積もりそうだな。」
「そうね、積もり方次第では
明日は忙しくなるわ。
何だかフワフワと落ちてくる雪って
少し楽しそうに見えるわ。」
「うん、雪の妖精が踊ってるみたいで
楽しそうだな。
雪の精霊っているのかな?」
「この世界ならいても不思議はないわ。
このままこんな風にゆったりとした時を
ずっと過ごせたらいいわね。」
拠点から出て、しんしんと降る雪を見上げていた。
少し感傷的になったサラが後ろに立つセブンに
もたれかかりそうな雰囲気が漂い始めていた。
すかさずその場に割り込んできた声があった。
「はい、ホットココア入ったよ~。
バターサンドクッキーもあるよ~。」
「お、それ一つ頂くよ、パイロ。
あ、ココアにふんわりシナモンの香りするな。
これもいいな。」
普段は目元しか露出していないセブンだが、
何かを食べたり飲んだりする時は、
口元までメタルファイバークロスを下ろすので
端正な顔立ちを見ることが出来る。
パイロにはセブンが笑顔を向けてくれる
このひと時がとても愛おしく感じるのだった。
サラも少しモヤモヤした気分と一緒に
味わい始めていた。
(何だかこのところ変な気分だわ。
パイロの真っ直ぐな気持ちを聞かされてから
何だか落ち着かないわ。
いつかセブンは、武人は誰かと
一緒になる時がくるって思ってはいたけれど、
何だかまだ手放したくない気分だわ。
見ていていつも危なっかしいからかしら?
カミュールさんが言っていた程、
武人がわたしを意識しているように見えないのも
何だかモヤモヤするわ。
何だか不調だわ、一度メンテに入ろうかしら。)
物思いに老けるサラの大人の女性の色気ある雰囲気に
少し嫉妬の目を向けてしまうパイロだったが、
すぐにシヴァの言葉を思い出し、気持ちを切り替えるのだった。
(人に向ける感情、妬みや僻みは
心の美しさを曇らせるものじゃ。
自信を持っておれば、そのような感情に
囚われる事はないのじゃ。
自信を持てぬ程、其方に足りぬものがあるのじゃ。)
(あたいはあたいらしく生きるんだ、
せっかくこの世界で
傭兵以外のことが出来るんだし、
みんなが幸せな気持ちになれるような
ものを作り続けるんだ。
もう人の命を奪って悲しみを
生み出すような事はしない。
もうあんな事二度としたくない!
あたいはもう傭兵じゃない!
パティシエとして生きていくんだ。)
その夜、しんしんと降り続く雪の合間を縫うように、
人々の様々な願いを叶えるかのような大きな流星が降った。
その流星は巨大大陸北部の山の中腹に落ちた。
その衝撃波で山の一部が弾け飛んでクレーターを作っていた。
騒ぎはその流星の核にあった隕石が発端だった。
希少金属オリハルコンを含む隕石だと言う話が一気に広まっていた。
各部族の財力、武力のある者が手に入れようと、
回収部隊を編成し、衝突が発生していった。
欲に目が眩むのはいつの時代も変わらぬものなのかもしれない。
セブン達は当然ながら干渉せず、戦闘が勃発する度に
悲しみが胸によぎっていた。
「そんな顔をして戦況を見守るのであれば、
双方を殴り倒してきたらどうじゃ?」
「ダメっしょ!両方から恨みを買うだけっしょ。
行っちゃダメだよ、セブン。
もう見ないほうがいいよ。
気分落ち込むだけだし。
神様じゃないんだし、見たくないものまで
見なくていいっしょ。」
「あら、それは誤解があるのだわ。
神と言えど見たくないものは
じっくり見たりしないのだわ。」
珍しく拠点の影から冥界の女主人エレシュキガルが現れた。
「またこちらの世界に来ておったのかや?
何かまたあったのかや?」
「そう言うことよ、シヴァ。
あの騒ぎの元凶の隕石なのだけど、
私達の世界の魔石で覆われているのだわ。
この世界には残しておくのは
ちょっと都合が良くないの。
私のいる世界のものを呼び寄せる力が
籠っているから、できるだけ早急に
回収したいのだけれど、地表にある分は
手出しできないの。
セブン、頼めるかしら?」
「お待ちください、エレシュキガル様。
お聞きしてよろしいでしょうか。
異世界の魔石との事ですが、
それは私達が触れても何も問題はないのでしょうか?
近寄っただけで心を乱されて
あの騒動に引き起こされているように思えるのですが。」
「さすが、カイね。
ご明察よ。あれは人心を乱して戦闘を引き起こして
失われた命を吸って成長する、
私の世界の悪魔族の呪いが込められた魔石なのだわ。」
「それは興味深い。
詳しくお聞かせ願えますか、マダム。」
又、拠点の中の影から来客だ。
「あら、メフィストはあんな危険な物の
どこに惹かれると言うのかしら?」
怪しい光を目に灯したメフィストを
エレシュキガルは冷ややかな目で見つめていた。




