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美の競演 乗り越えて磨かれるもの

美の競演が開催されている神殿内には

金色の靄がかかり、出場者達が自分の過去と向かい合い、

今の自分を見つめ直していた。


悲壮な表情でよろよろと立ち上がり、影のように去ってゆくもの、

未来を見据える目をしながら、何かを決意し力強く歩去る者が

続いていた。


<パイロ視点>


(あ、ここってザックバーンの傭兵拠点!?

 何で?あたい又この世界に戻っちゃったの?

 嫌だよ!もう嫌だよ!

 命令されるがままに意味なく人を殺すなんて

 もう嫌だよ!!


 あれっ?あれはあたい?どうしてそこにいるの?

 これって、過去の世界なの?)


困惑するパイロの目の前を電脳傭兵のパイロが

透けるように通り抜けてゆく。


 『よし、傭兵諸君。

  新たな任務だ。

  今回も各自に圧縮メッセージで指令を送った。

  スマートな遂行と達成に期待する。

  では、出撃だ。』


(ダメだよ!その圧縮メッセージに行動を強制する

 プログラムが仕込まれてるから!

 あーー・・・止められない・・・

 悲しみの連鎖の引き金を止められない・・・

 忘れていたのに・・こんな記憶、

 ずっと忘れていたかったのに・・・

 どうして・・どうして? 許してよ。

 

 もう嫌だよ。

 分かってるよ、あたいはどう転んでも殺戮兵器なんだ。

 取り返しのつかないくらい人をこの手で・・・

 そんなあたいが・・・もう無理だよ。


 この世界でもあたいは兵器として生きていくしかないの?

 みんなと一緒に笑いながら楽しく生きてちゃいけないの?


 あたいにもどうにも出来なかったシヴァ様の狂化を

 命がけで止めてくれたセブンのそばにいたい。

 ずっとそばにいるだけでいい、それも許されないの?

 あたいが兵器だから?

 人殺しの力と技しかない機械だから?)


悲しみに暮れるパイロの目の前の情景が切り替わった。

目の前に立つパイロに向かって

獣人族の子供達が駆け寄ってくる。


 『おねぇちゃん!ぼくジェラートがたべたい!』

 『わたし、ソフトクリーム!イチゴあじの!』

 『つぶつぶのシュークリーム』


 『分かったよ、ちょっとみんなお利口に

  そこに並んで待っててくれる?

  おねぇちゃん頑張っておいしいの作ってあげるから。』


(パイロ、これが今のありのままのパイロじゃ。

 このままでいいのじゃ、過去など気にするでない。

 今をこれからをしっかり生きれば良いのじゃぞ。

 パイロを見る子供達の瞳には、

 今のパイロの姿しか写らんのじゃ。

 泣くでない。その思いを乗り越えてこそパイロの美しさに

 磨きがかかるのじゃ。過去の事は皆、美の試練じゃな。

 そう思うて共に生きて行こう。

 きっとセブンを振り向かせられるいい女になれる。

 強く生きる気持ちを持つのじゃ、良いな?)


(うん、子供達見てたら元気貰えて、きっと頑張れるよ。

 シヴァ様ごめんね、あたいこの競演は

 もうこれ以上進めない、今は。

 でも、きっと過去も今も、この先の自分の姿を見ても

 目を逸らさずに見据えていけるように強くなるよ。)


(そうじゃな、今はここまでで良しとしようぞ。)


金色の靄の中からシヴァの胸で泣くパイロの姿が見えてきた。

パイロはセブンをチラッと見つめてから一度俯き、

すぐに顔を上げて、笑顔で 絶対諦めない と囁いて

静かに歩み去って行った。


その最後の笑顔に少しドキッとしたセブンであった。





<沙良視点>


(ここは?まさか!?病室?

 ああっ!あれはわたし?

 

 ・・・そうね、この頃はセブンが、武人が戦場に出てからは、

 人がいないと泣いていたわね。

 泣いて許されるわけじゃないけど。

 わたしの為に命がけで戦場に出ている武人に申し訳なくて。  

 どうしてわたしは生き残ってしまったのだろうって、

 どうして死んでしまえないのだろうって思っていたわね。

 戦場から戻ってくる武人の顔が見たくて、

 無事に戻ってきてくれる事を祈り続けていたわね。)


 『天道さん、ちょっと先生からお話がありますので、

  気をしっかり持ってくださいね。』


電脳化された看護士からそんな声をかけられていた。


 (こ、これは!この後・・・)


 『あー天道さん、弟さんの武人さんの事なんですが、

  今日の戦闘で敵兵の自爆攻撃に巻き込まれて

  内臓をかなり損傷したと連絡が入ってきました。


  大丈夫ですか?気をしっかり持ってください。

  時間がありませんので、

  すぐにご家族の決断と承認が頂きたい。

  

  彼の命を繋ぐには電脳兵化ボディに

  換装する以外ありません。

  電脳兵として引き続きザックバーン社の傭兵組織への

  加入契約を結んで頂ければ、費用は全て社の方で持ちます。


  あなたの治療費用もこれまで通り彼の稼ぎから捻出できます。

  如何です?彼にもあなたにもいい話ですよ?

  又、彼の顔が見たいでしょう?どうですか?』


 (だめよ、その選択で武人は苦しみ続けることになるのよ!

  やめて!楽にしてあげて!

  そんな事をすればずっと泣き続ける日が

  後悔の日々が始まるのよ!冷静になって!)


だが、過去のサラは動揺を隠せず、武人を助けたい一心で

即座に承認と契約のサインをしてしまうのであった。


 (ああっ!どうしてわたしはそんなに愚かなの!

  どこまで武人を苦しめるの?

  こんなわたしが武人のそばにずっといていいの?

  好きだなんて絶対言えない、地獄に突き落としておいて

  そんな事言う資格なんてどこにあると言うの?

  

  駆け寄ってくる子供達でフラッシュバックを起こして

  苦しんでいるのは、全部わたしのせいなのに、

  何もしてあげられない。見殺しにしているようなものね。


  こんなわたしが美の競演だなんて、どうかしていたわ。

  せめてずっとそばにいたいの。何か役に立ちたいの。

  一人で苦しんで欲しくないの。

  わたしを恨んでくれていいの。

  それでも、どれだけ嫌われてもいいの、

  お願い、そばにいさせて、それだけでいいの。

  武人のそばにいないとわたしは存在する理由がないの。)



金色の靄が晴れると、サラは静かに涙を流していた。

その泣き顔のままでセブンに

 ごめんなさい。それでもそばに居させて欲しいの。

そう消え入るような声を残しながら

壇上から降りてゆくのだった。


 「これ、サラ!その顔をするなと言ったであろう。

  しかも泣き顔を見せるな。

  いつもの凛としたサラを演じきれ。」


先に降りていたカミュールがサラの肩を抱きながら

励ましていた。


カイもうなだれて声を上げずに静かに涙を流していた。

非情の策を練ってセブンに実行させていた過去に

後悔していたようだ。

カミュールは二人を励ましながら会場を後にして行った。


壇上には誰も残っていなかった。

過去の、今の自分とじっくりと向き合って

乗り越えられたものはいなかったようだ。


 「ご覧のように第一回は該当者なしとなりましたわ。

  でも、会場の皆様、来年はきっと

  今年より美しくなった彼女達が戻ってきますわ。

  試練を乗り越えたものは必ず磨きがかかるのですわ。

  では、又お会いしましょうね。」


そうアフロディーテが閉幕の挨拶を告げると、

白い靄がかかり、審査員席の神々は靄の中に消えて行った。


パイロ、カイ、サラの涙を見たセブンは胸の中に

違和感を覚えつつ、この会場を中心に神気を混ぜた

霧雨を降らせることにしたのだった。

涙の跡を洗い流すような優しい雨を。

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