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森に住むもの

その部屋は奇妙な作りをしていた。

窓がないのだ、いや、扉もない。

まるで外の世界から切り離された空間のようであった。


その空間に何かの実験をするような道具が

整然と並ぶテーブルがあり、その前で

一人の老齢の男がフラスコを揺らしていた。


 「ふむ、これはこれで良いようだな。」


そう言うと、フラスコの中身をグイッとあおった。


男の姿は一瞬で若返ったようだ。

先ほどまでの老齢の男とは、いや、

普通の人間とは思えない姿になっていた。

頭の左右に小さめの巻き角があるのだ。


 「では、ファウストの魂よ、

  これまでの享楽を胸に魔界に沈むがいい。

  この体、このメフィストが貰い受ける。


  さて、ここにはもう進歩は見込めぬな。

  異界への門を潜ってみるのも一興だな。」


怪しい光を宿した男の目の前で、

蠢く文字の紋様が輪を描いて回り始めると、

強い光を放ち、男の姿を飲み込んで消えるのであった。




巨大大陸の世界樹の森は進行する方向が分からなくなる、

迷いの森としても有名である。

探知能力に優れたものでも抜け出せなくなり、

力尽きることも珍しくないほどだ。


 「くそっ!あの女冒険者共

  何処まで行きやがったんだ!

  寝込みを襲って美味しく頂いてから

  奴隷化の魔道具をつけて奴隷商にでも

  売り飛ばしてやるつもりだったのに。


  全部お前のせいだ、ランド!」


目つきの悪い大剣を背負った男が

前をゆく弓を肩にかけた細身の男に怒鳴った。


 「そうはいうが、寝ずの番をするはずのあんたが、

  酒を飲んで眠りこけたのも悪いんじゃないのか。

  まぁ、かくいう俺も一服盛られた気がするけどな。」


 「馬鹿かてめえは!耐毒性の防具つけてる俺達に

  薬なんぞ効くわけないだろうが!

  魔法だ、魔法!

  あいつら俺達に魔法かけて行きやがったんだよ。

  でなけりゃ、今も見失うなんてこと

  あるわけないだろ!」


口論を続けながら森の中を進む二人の前に、

急に一軒の小屋が目に入って来た。


屋根から何やら細い煙が立っている。

中に人がいるようだ。


 「おい、ランド、

  ちょっと来い。(小声)」


二人は一旦小屋から距離をとって、異様な身の軽さで

高い木の上に登って行った。


 「ランド、お前ここからあの小屋を見張っていろ。

  今から俺が向かってみる。

  中から男が出てきたら、迷わず射殺せ。いいな?」


 「ああ、小屋ごと頂くんだな。

  ちょうど休憩するには良さそうだな。」


 「頼んだぞ。」


そういうと男はひらりと木から降り立ち、

ゆっくりとした足取りで小屋に向かって行った。


木の扉のようなものがあり、男がノックをすると、

スッと戸が開き、中から木の棒を持った男が現れた。


 「どちらさんかな?」


その声を言い終えた途端、木の上から矢が放たれていた。

動いた様子もなく、矢が打ち払われてしまった。


その対応能力を見ても戦意を失わず、男は大剣を

振り抜き、木の棒を持った男を両断する力を込めた。


重厚な大剣を振うために、男は身体強化の魔石を使い、

さらに加速した動きが出来る風魔法のこもった魔石も

重ね使いしていた。

初見のものであれば、

ほぼ確実に仕留められる重く早いその一撃を

小屋の男は木の棒で軽く打ち払い、

返す手で男の目をつき潰していた。


そのまま木の棒を押し込まれた男は、絶命したようだ。


小屋の男が弓の放たれた木の方を見上げた時には

そこに気配は無くなっていた。


 「いい逃げ足じゃな。」


その声を聞いて小屋の中から二人の女性が現れた。

 

 「匿って頂いただけでなく、倒して追い払って頂いて

  ありがとうございました。

  これ、少ないですが受け取ってください。」


女性達はギルドで臨時パーティ編成の声をかけられて

一緒に森の素材収集の依頼を受けたのだが、

夜になって不穏な気配を感じ取り、睡眠の魔法を放って、

男達を眠らせて逃げてきたのであった。


ショートカットのボーイッシュな女性が

小屋の男に渡した皮の袋には銀貨が入っているようだ。


 「いやいや、お嬢さん方、

  わしは何もしておらぬのと同じじゃ。

  それにそのような物を貰っても使う事がない。

  ここで自給自足出来ておる。

  その気持ちだけで十分じゃよ。


  気を付けて行きなされ。」


笑顔でそう話す男は皮の袋を押し返すと、木の棒の先で

死んだ男の体を器用に持ち上げると、

ヒョイっとした動作で森の中へ放り投げたのであった。


とんがり帽子をかぶった如何にも魔法使いの女性が

申し訳なさそうに口を開いた。


 「あの〜、重ねて厚かましいのですけど〜

  森の出口が分からないんです〜

  それで〜出来たら出口までこのお金で

  護衛もお願いできませんか〜。」


 「ふむ、そうじゃな。

  ここで放り出すのはいかんよな。

  良かろう、久しぶりにギルドのある街まで

  出てみるとするか。」


 「うわ〜いいんですか〜

  ありがとうございます〜

  それじゃあ、街に着いたら〜

  何か食事でも奢らせてください〜。」


 「いや何、少しばかりの蓄えもあるのじゃ。

  気にせんでくれ。

  どれ、これを持って出るのも久しぶりじゃな。」


男はそういうと何処からか大小二振りの鞘に入った剣を

腰紐に刺して扉を閉めると、森の出口に向かって

歩み始めるのであった。

女性達はその後をついて歩き始めた。


 「あの〜先ほどその剣って何処から出されました〜?

  もしかして〜アイテムボックスとかお持ちですか〜?」


 「そのようじゃな、念じれば取り出せるし、収納できる。

  便利なものじゃな。」


 「いいな〜その能力があると採取にも役立つんですよね〜

  出来たら、一緒にパーティ組みませんか〜?」


 「いやいや、わしは一人の方が気が楽でな。

  まぁ、これも縁じゃ。採取の時の護衛くらいなら

  いつでも声をかけてくれれば良い。

  そうじゃな、報酬ならうまい酒を一口貰えれば

  十分じゃ。」


 「良いんですか〜、じゃあ、とびっきり美味しいお酒のお店を

  ご紹介しますね〜。

  ところで〜先ほどの腕前からすると〜

  かなり高ランクの剣士様かと〜

  

  私、ベアトリスって言います〜魔族の魔法使いです〜

  彼女も魔族の短剣使いのヴァーレンって言います〜

  お名前をお聞きしても良いですか〜?」


 「これは失礼しておった。

  名乗りが遅れるとは、わしもまだまだ未熟者よの。

  わしは、そうじゃな剣士でギルドに登録しておるな。

  名は卜伝と申す。」


そういうと男はいつ抜いたか分からぬ剣を振り抜くと、

目の前の木立が両断され、弓を構えて

隠れていた男が縦に切り裂かれて倒れたのだった。


 「この硬い木をそんな簡単に切るなんて。。」


絶句する女性達に、気にすることでもない風に

笑いかけるとさらに足を進めるのであった。

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