神殿での宴席
電脳兵のセブンがハーデスと共に闇に消え去ってから
数日経ったある日、憔悴したサラの元に
一通の圧縮メッセージが届いた。
解凍して中を確認したサラは
涙を流しながらクロに抱きついていた。
解凍されたメッセージには、
冥界で一仕事終えたら返して貰えること、
拠点のある街まで送って貰えること、
何柱かの冥界の神様も一緒に来られること、
スイーツやお酒を楽しみにして
来られるので用意しておいて欲しいと
だらだらとしたメッセージが書かれていた。
最後の行には、
心配かけてごめん、一応生きてるよ
と書かれていた。
「何と、冥界の神々が顕現すると言うのかえ。
ここであれば、人目につかぬ。
蓮、宴の用意をするぞえ。」
「かしこまりました、シヴァ様。」
「あ、あたいも新作頑張るよ。
カーラさん、お手伝い頼めるかな。」
「お安い御用なのです。
でも、冥界の神様って何を食べられるのです?」
「神殿のお供えと同じ気持ちで作れば良いのじゃ。
要は心じゃ。心を込めて作るのじゃ。
マロングラッセを希望しておくのじゃ。」
「そうですね、神様への供物としての心が
私も一番大切だと思います。
おはぎもいいと思いますよ。」
「スイーツはパイロ様にお任せいたしましょう。
私は闇人族の方から分けていただいた神酒で
カクテル系をお出し出来る様に用意しておきますね。」
「カイさんって、そのスーツ姿だとバーテンダーっぽくて
かっこいいな。
うん、あたいも男装の麗人になってみるよ。
サラさんもどうかな?」
「うん、そうね、給仕に専念するのだから、
そのスーツで統一した方がしまりがあっていいわね。
いらっしゃる神様方の好み次第では
お料理も考えておいた方が良いわね。
そうね、蓮、和風のお料理ってどうかしら?」
「いいと思います。
おつまみにもお出し出来るような和風のお惣菜を
たくさん作ってみましょう。」
「でも、神様方はいつ来られるのです?」
「2、3日はかかりそうってあったから、
早くても明日以降になると思うのだけれど、
用意は早めにしておく方が安心なのだわ。」
「うむ、早速宴席の用意から始めておこう。
カーラと私は宴席の間は警護につく。
よいな、カーラ。」
「あれ?ご一緒してご相伴に与らないのです?」
「我らは神兵なのじゃ。
護衛の任は光栄に思うのじゃ。」
「お師匠様が鬼に見えるのです。(小声)」
シヴァ神がホストとして対応するとして、
ブリュンヒルドとカーラの神兵二人が警護につき、
サラと蓮が給仕に専念し、パイロが甘味、
カイが酒類の担当をする割り振りで話がまとまったようだ。
約一名が不満を持っているようだが。
冥界の裁きの間で、ハーデスの助けもあって
本来はここには来ない異界の亡者の裁きを終えたセブンは、
ほっとしたのも束の間、背後からとてつもない強い力で
左肩を押さえられた。
驚いて振り返ると、今にも破裂しそうなくらい血管が浮き出た
タルタロス神のいい笑顔が浮かんでいた。
「あ、いえ、わ、分かります。
何もおっしゃらなくても分かります。
えっと、ここであの方を召喚して良いのでしょうか?」
そう語りかけると、肩を掴んでいた手を離し、腕組みをし、
うんうんと頷いておられた。
「では、ちょっと、この席を降りさせて頂きますね。
オン バサラ ヤクシャ ウン
金剛夜叉明王よ、我に力を!」
金剛牙の印を結んだセブンが、法門を開き、
金剛夜叉明王を召喚した。
いきなり10mの巨人サイズでやる気満々の気分の明王が顕現した。
闇に包まれた空間の先にいい笑顔が浮かんでいるのを見つけて、
後ろ向いて立ち去ろうとした。
さすが冥界の王と思わせる速さで、明王を同じサイズになると同時に
左肩に手をかけて明王の逃げ足を封じたのだった。
死んではいないが、死んだような目をした明王が
首が軋むような心地なさで嫌そうに振り返り、
死んだような顔をしたまま、いい笑顔のままのタルタロス神に
引きづられていくのであった。
セブンは、ハーデス、エレシュキガル、ネルガルと共に
目線だけで見送るのであった。
「さて、今の間なら地上に出ても良さそうね。
どうかしら?
あなたの街の方へ向かってもいいかしら?」
「あ、確認させてください。
ハーデス、またメッセージの送信頼めるかな?」
「ああ、お安い御用だよ。
前の分と合わせて美味い酒を
2杯奢ってもらうことになるがね。」
「うん、楽しみにしてくれてていいよ、
あの闇人族の神気の混ざった酒は格別だから。
じゃ、これを送って欲しいのと、
返事が来たら繋いで欲しい。」
しばらくすると、サラからお待ちしておりますと
返事が返ってきた。
エレシュキガルが手土産を持つと同時に、
4人は揃ってパティシエの街の神殿の
闇に移動したのだった。
夕焼けに薄紅色に染まった神殿の奥の柱の影から、
凄まじい神気と共に4体の影が現れた。
「「「ようそこ、我らが街へ。」」」
男装の麗人と化したサラ達が息の合った挨拶で出迎えてくれた。
シヴァがエレシュキガル一行に挨拶すると、
エレシュキガルから手土産を渡され、恭しくレンが受け取り、
皆が席に歩みを進め、宴会が始まるのであった。
エレシュキガルはパイロのスイーツのバイキングを始め、
ブリュンヒルドを見つけると、腕を引っ張って一緒に食べ比べに
参加させたりしていた。
よだれが垂れそうな顔をした亡霊が神殿の門番をしていたという。
セブンはサラに謝ると同時に抱きつかれ、
少し戸惑ったのだが、さすがサラである、
すぐにハーデスとネルガルに挨拶をし、
カイのいるバーの方に誘導していた。
3人は仲良く酒を飲み交わし、カイの作る絶妙なレシピの
カクテルに舌鼓を打つのであった。
そう、この3人はどこか似たところがあるので
すぐに馴染んで長年の友人のような雰囲気になっていた。
サラはそんなセブンに一度だけため息を向けたが、
その後は場を盛り上げるよう給仕に専念していた。
ふと、みるとネルガルが気持ち良さそうに
転寝を始めていた。
「あら、随分と楽しいお酒を飲んだのね。
この人がこんな幸せそうな顔でうたた寝するなんて
何世紀ぶりかしら?
私にも一杯頂けるかしら?
オレンジ系のお酒があれば有難いのだけれど。」
ピンクグレープフルーツのような果実と共に
酸味の効いたカクテルをカイが作り出すと、
その香りにエレシュキガルもご満悦の様子で
貴婦人らしく優雅に飲み始めていた。
「時にセブン、あなたは彼女と結婚してるのかしら?」
サラの方を見つめながらエレシュキガルが
そんな爆弾を投げつけてきた。
一滴も飲んでいないはずのサラが急にアルコールが
回ったかのような真っ赤な顔になってしまった。
「いや、サラは俺の姉さんなんだ。
そう言うのじゃないよ。」
「何を言っているのかしら?
お互いに気持ちがあるのだから何も問題ないのだわ。
いいかしら?
惹かれ合う気持ちと互いを思う気持ちがあれば
それだけで十分な条件を満たしているのだわ。
そんな様子だと、彼女に随分と寂しい思いを
させているようね。
それは罪よ、セブン。
幸せになるのが怖いのでしょう?
勇気を出しなさい。あなたは戦士なのでしょう?
戦いなさい、そして絶対に勝ちなさい。
あなたは自分で自分の運命を止めているのよ。
いいえ、彼女の運命まで一緒によ。
理解できたかしら?
そ、じゃあ、これはお祝いの杯ね。」
「貴婦人の仰る通りだよ、セブン。
勇気を出し給え。
君は彼女を幸せにする義務があるのだよ。
出会った時から惚れていたのだ。
君の臆病は罪以外の何物でもないよ。
頑張り給え。私からも杯を。」
「ちょっと待ったーー!!」
スイーツを作っていたパイロが涙目で
その場に割り込んできた。
(頑張るのじゃぞ、パイロ。)
シヴァから暖かい目で応援を受けながら、
自分もセブンと一緒になりたいと力説を始めるのであった。
「女の戦いか。何か思い出すような気がするのじゃ。
嫌な思い出だと思うのじゃが。」
「えっ?お師匠様も男を取りあったことがあるのです?」
「なんじゃ、その目は!
言いたいことを言うてみい!」
セブンを取り合う女の戦いに
キラキラした目のエレシュキガルと
このリア充めという顔をしたハーデスが
生実況のドラマ人間模様を見守るのであった。
(なんだこれ?どうしてこうなった?
勘弁してくれよ、全く。
恋愛とかそんな感情
マジで元々ないんだけど。。
ほっといて欲しいんだけど。)
旅に出たいなぁと現実逃避を始めたセブンであった。




