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とある酒場にて

巨大大陸は、電脳兵のセブンが錬成で

構築したリニアメトロの交通網の発達に伴い、

各メトロ駅の周りは栄えるところが増えていた。


特に南のダンジョンの近くでは

世界樹の森が近いこともあり

討伐の難しい魔物や希少な植物が

収穫できるとあって、様々な人種が

冒険者として活躍している。


南のダンジョンから世界樹の森を迂回するように

南下したところに、ユグドという名の港街が

それなりに栄えつつあった。


街の中には巨大大陸内から移り住んできた

冒険者達が集うギルドを中心にして

周りには宿や食事処、酒場などが点在していた。



その街中の一軒の酒場の中でこんなことがあった。



その日は空が燃え上がるような夕焼けで

街のもの全てが赤く染まっていた。


店の中で赤ん坊の泣き声がしていた。


 「おい、マリー!

  そのうるさいのを何とかしやがれ。

  酒がまずくなるだろうが!。」


カウンターの真ん中にどっかりと腰をかけた

隻眼で顔や腕に切り傷のあるガタイのいい男が

隅の席で赤ん坊を抱く女に声を荒げた。

カウンターの向こうでは店のマスターらしき男が

グラスを磨きながら、また始まったという顔をしていた。


 「あんたの方がうるさいんだよ。

  赤ん坊は泣くのが仕事なのさ。

  この子は仕事中ってことなのさ。


  あんたもこの子を見習って

  仕事してくりゃいいだろ。

  さっさと行っとくれ。」


マリーと呼ばれた女はそう言い返すと

トンガリ帽子を揺らしながら

赤ん坊をあやし始めた。


その間もマスターは聞こえぬ素振りで

店の開店準備を進めていた。



 カランッ


軽い鐘の音と共に扉が開き、

店の中を赤く染めていった。


 「いらっしゃいませっと、

  お出迎えさせて頂きたいところですが、

  外の看板の通り、まだ準備中でございます。」


入って来たのは背中の丸まったボサボサ頭の男のようで

準備中の看板を見落として店の戸を開けて来たようだ。


 「いや、ちょうどいいんだよ。

  準備中だからこそ、いいんだよ。」


そんな意味不明なことを口走りながら、

男はカウンターの男の左隣に座った。


 「ガライさんだね?

  奥さんの出産と同時に冒険者を引退した

  凄腕のガライさんだよね?」


 「お前誰だ?

  なんで俺のことを知っている?

  今はしがないギルドの新人教育担当だ。

  見ての通り、今は時間外だ。

  明日ギルドの方に出直して来な。」


冒険者ギルドでは、新人冒険者の生還率向上と

負傷率低減を兼ねて、一定の強さになるまで

訓練を受けさせてから依頼を受けられるシステムを

採用していた。


 「いや、明日はないんだよ。

  今日で終わりだから。」


男がそう言い放つと、左手でマスターの

右手でガライの心臓を細剣で突き刺した。

いや、ガライはとっさに左腕で受けて止めていた。


 「何しやがる!」


両手の細剣が突き立ったままでノーガード状態になった男を

ガライは身を捩りながら右手で殴ろうとしたが、出来なかった。


もう一本の左手が伸びて来て、ガライの心臓を一突きにしていた。


 「あ、あんたー!」


叫ぶ女の額に向けて、もう一本の右手が振られ、

細剣が貫いて後ろの壁に突き刺さった。


 「ふぅ~依頼達成~っと。

  今月は厳しかったから闇ギルドの依頼は

  懐にありがたいよ。


  さて、子供は奴隷商人にでも売るかな。


  っと、その前にこの元魔法使いの女が換金してた

  魔石の金も頂戴しとこうっと。」


この4腕の暗殺者は、普通のギルドでの依頼分だけでは

遊び回るには稼ぎが少ないため、表立って活動をしていない

暗殺や人攫いなどの犯罪行為の斡旋をする闇ギルドから

時折依頼を受けては散財して日々を暮らしていた。


今日は、ガライの暗殺依頼を受けており、

身辺調査をしていたところ、ガライの妻が赤ん坊を連れて

魔石を売り払っている姿を目撃し、その金を奪うことも

企んでいたようだ。


冒険者は結婚して子供が出来ると引退するものがほとんどだ。

ガライの妻はかつてはガライと同じパーティで

中クラスの炎魔法の使い手としてその名を知られる腕利きであった。


暗殺者は女の死体の懐から金貨の入った袋をにやけながら取り出すと、

泣いている赤ん坊を床に放り投げて、カウンターの上で絶命している

ガライの体を店内に適度に灯された魔石灯の明かりを頼りに

漁り始めていた。


 「魔石を持たない魔法の使い手など素人と同じだよ。

  毎度あり~っと。

  今日はどの娼館に行こうかな。


  っと、依頼の確認はギルドプレートだったな。

  あったあった。

  さて、帰ろうかな。」



 「いや、君は帰るんじゃなくて行くべきだよ。」



ギョッとして後ろを振り返った暗殺者の目の前には

赤ん坊を左手で抱いた真っ黒のマントを羽織った男の姿があった。



 (そんなばかな!俺には魔力探知能力もあるんだぞ!

  後ろを取られて気付かない筈がない!

  ・・・こいつ、魔力が全くない!

  あり得ない!普通の人族でも少しはあるんだ。

  死霊系の魔物でもあるんだ、ないはずがない。。

  何者なんだ、こいつ。)


 「君が知る必要はもうないよ。

  そこから行きたまえ。」


男が指を差した先には、血の流れた跡があった。

ガライの体から流れ出たものであろう。

よく見るとそれは流れた跡ではなく、

今も流れ出ているようだ。


暗殺者は、その血の流れを見たと同時に、

目から光がなくなり、全く音を立てることなく、

まるでそこにはいないかのように静かに歩みを進め、

血の流れを越えて、当然のように姿が消えていった。


そのあとには、暖かな毛布に包まれてすやすやと眠る

赤ん坊だけが店の中に存在していた。


その静寂の中、床を流れていた血の跡は

まるで意志があるかのように流れ続け、

ゆっくりと消えてゆくのであった。


翌日、街にはガライ夫妻と店のマスターの暗殺事件として

報じられ、新人冒険者から人気のあったガライの暗殺は

一騒ぎとなっていた。



白い靄の中で少し慌てるものがいた。


 「お父様、とても困ったことになりました。」


 「どうしたんだい、ヘル。

  地獄門の方はあの者達に任せておいて

  問題なかったのではなかったかい?。」


 「いえ、そのことではないのです。

  あの、地獄からあのお方が

  門から外に出てしまわれたようなのです。」


 「それは大変なことだよ。

  うっかりしていた僕も悪かったね。

  うん、この世界のオーディンに話しておくよ。


  どうするかな?シヴァにも伝えておこう。」



少し離れた靄の中でも異変に気づいたものがいた。


 「こんなことが起こるなんて。

  今度ばかりは彼らでもどうにも出来ないと思うわ。

  それでもどうにかしてくれる事を祈っているわ。


  ベルザンディ、スクルド、大変なことになったわ。

  ハーデスが解き放たれてしまったわ。」

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