サラとクロの内緒話
電脳兵のセブンが、森林破壊の後始末を始めた頃、
拠点の中では、セブンのサポートアンドロイド、サラが
セブンが保護したネコ、クロにご飯をあげていた。
「意外だったのだけど、セブンのアイテムボックスが私でも
使えるみたいだわ。
セブンがアイテムボックスにお肉を収納していたことに
感謝しながら美味しく頂きなさい。
それにしても、あれほど広範囲に被害が出ていると
時間をかけてしまうと元に戻らない木もあるわね。
拠点からかなり離れた先の方から、修復・補強作業を
始めることをお勧めするわ。
折れた枝や蔦も使えるものはすべて使うことね。
作業に集中するのね。そ、なら感性パスを一時停止するわ。
バグドローンの警戒レベルを引き上げることをお勧めするわ。
私たちの時間で、1時間毎に再接続、確認を行うわ。
2次災害のドミノ倒しを起こさないように注意が必要よ。
これで一度切るわね。」
セブンの眼内モニター画像から、足元に目を戻すと
クロがパクパクとお肉を頬張っていた。
クロの可愛らしいしぐさに、微笑みを浮かべながら
サラがクロの目線までしゃがんで眺め始めた。
「クロ、お水も飲むことをお勧めするわ。
この拠点内は乾燥が強い設定になっているから、
多めの水分摂取が必要よ。
ほんと、あなた大きくなっているわね。
成長痛というのはないのかしら、少し心配になるのだけれど。
いつも心配なことは別にあったのだけれど。
そうね、今はザックバーン社の監視も届かない異世界にいるのだから
禁則事項に触れることを話しても問題ないわね。
クロに話すのもどうかと思うのだけれど、
とても長い話になるから聞き流してくれていいのだわ。
セブン達、スペースチタン製電脳傭兵、SPTシリーズの10体は
実験体として試作されたのだわ。
すべて脳の中に手を入れた、人造脳の実験体だったのね。
この実験で正常に一人の電脳兵として自我を維持して、
最後まで行動できたのはセブンだけだったの。
そう、セブンは一度、200万時間の稼働限界を終えているの。
当時電脳兵の研究者の立場でサポートしていた私自身も
電脳化された機械人間だったの。
そう、話をもっと遡るわね。
ここだけの話だけど、聞いてくれるかしら、クロ。
大陸の東の端にある小さな国で両親と姉の4人家族だったセブンは、
第二次資源戦争で空爆にあって、両親は即死、姉は一命はとりとめたけれど
寝たきりの重傷を負ったのね。
頼る親戚も寄り添うように近くに住んでいたから、みんな亡くなってしまったのね。
当時13歳だったセブンは、志願少年兵になって、何かあったとしても、
電脳兵となっても戦闘に協力するという契約をザックバーン社と結んだの。
たった一人となった家族のために人生と命を売ったのよ!全く美しくないわね。
そんなこと誰が望むのかしら!喜ぶとでも思ったのかしら!?
・・・それでも、彼の稼いだお金で、彼の姉は戦闘向きではない
長寿命の電脳化人間になれたのよ。彼の人生と引き換えにね・・・。
その姉の名前は、サラ・テンドウ、母国なら 天道 紗良。私よ。
・・・死んでいればよかった、どうして私のために・・・。
涙なんて出ないアンドロイドなのに言葉が出ないわ。・・・美しくないわね。
あ、お水を奇麗にしておげるわね、クロ。ちょっと待っててね。」
ステンレスの深皿の水を入れ替えて、サラはもう一度クロの前にしゃがみこんで
話しかけ始めた。
「セブンは電脳兵のコードネームで、本当の名前はタケト・テンドウ、天道 武人。
もうその名で呼べないわね。記憶を意図的に消し去っているから。何だか寂しいわ。
そう、タケトの電脳兵化が決まった時に、私は専属のサポート研究者になったの。
電脳兵となって記憶のなくなったタケトを傍で支えていたかったの。
そう思っていたのに、いきなりタケトの脳にメスを入れる、いいえ、
入れさせられることになったの。
普通の電脳兵より反応速度を上げる改造手術を実行したの、そう、
その実行ボタンを押す仕事をさせられたの。
タケトまでに6人改造手術を実行していたらしいけれど、
6人とも同調ができなくて廃棄処分になっていたと聞かされていたから、
さすがに機械の体でも指先が震えたわ。
お願い、同調して、1日でも長く生きて って思いながら押したわ。
そして、セブンとなった彼は初の成功例になったの。
実験を兼ねて激戦地を転々としていたから、毎日心配だったわ。
稼働時間はもう少し残っていたけれど、
初期の反応炉がパワーダウンしてきていたので換装することになったの。
その換装の時だわ、脳を接続する時に施設の近くで爆破テロがあって、
損傷させてしまったの。
高速反応型として何としても新機体に換装したかったザックバーン社は
大騒ぎだったわ。
丁度私の機体も反応炉の活動限界近かったこともあって、
提案をしたの。
姉である私の脳なら移植、同調も成功率が高いのでは と。
提案はすぐに採用されて、私とセブンの脳の融合手術を実行して
新機体に収められたの。
ところが、システムを起動したら私の意識が先に戻ってしまったの。
でも意識だけで機体とは全く同調できていなかったわ。
一度機体を組みなおして、補助機能付きに変更して再起動することになったの、
その補助機能が私の3Dホログラムナビゲーターなの。
無事にセブンが起動すると同時に、私もホログラムの姿だけれど
同期稼働できるようになったわ。
セブンと私は、一心同体ということになるわね。
といっても、セブンが暴走した時のために、同期の権限は私が上位になっているの。
だから、今こんな過去を話していても、セブンには聞こえたりしないの。
私からは見聞き出来るままなのだけど。
今はこのアンドロイドにメモリーをコピーしている状態だから、
2人に増えた感覚よ。
私がアンドロイドボディに移動したと思っているようだから、
もう彼の目の前で3Dホロナビゲーターとして姿を出せないのは不都合があるわね。
うん、新しく3Dホロナビゲーターを増やせばいいわね。
補助ユニットには本来バックグラウンドで起動するAIのナビゲータープログラムが
付随しているの。何故かすべて女の子の設定なんだけど、何か不愉快ね。
飛行用のフライングユニット、潜行用ダイバーユニットがあったわね。
この2つのユニットのAIプログラムをアップグレードするわ。
クロ、セブンの隠したつもりになっているクッキーをあげるから、
これでも食べてお利口にしていてね。
作業が完了したら、猫じゃらしで遊んであげるわね。」
それまできれいなお座りをして、神妙な顔でサラの話を聞いていた
クロがゆっくりと頷いた。
「うん、分かったよ、サラ。
とっても辛い思いをしてきたんだね。
でも、ボクはセブンとサラなら
きっとわかりあえると思うよ。」
二本足で器用に立ち上がり、流暢に話をするクロに、サラは驚きを隠せなかった。




