電脳傭兵 異世界に転移する
小さな砂嵐が舞い踊る砂漠地帯の一角で、地下へ潜る拠点を構えた敵の組織に対して
包囲した電脳傭兵部隊が攻撃を開始した。
その5分前、入り口から中へ入りこむような揺らめきがあった。
「さて、ステルスモードで中にちょこっと炸薬仕掛けてくるか。」
まるで、隣の家に回覧板を届けるかのような気軽な感覚で、
さらっと殺戮兵器を仕掛けようとするこの者、セブンは電脳化され、全身を兵器化された電脳兵士だ。
セブンのような電脳兵士は、何かの事故か、病で命を落とすと同時に、
意思表示システムで電脳兵士化に同意があれば、即座に改造がなされて誕生する。
世界各国は、人口が減り続けるような状況においても戦争をやめることがなく、
戦場に出る兵士を確保する手段として電脳兵士を作り出し、戦場に送り出すようになっていた。
余剰兵士を抱えた国は、電脳兵士を傭兵として貸し出すビジネスも手掛けている。
セブンもそんな電脳傭兵の一人だ。
今回の拠点攻撃には、偵察と潜入破壊工作に最適化した兵装で参加していた。
体は脳の一部を除いてすべて機械化されており、大気中の微量の水分の摂取で
安定稼働できる反応炉からのエネルギー供給のおかげで、200万時間の連続戦闘が可能だ。
「200万時間戦えますって言われてもなぁ。どんだけブラックなんだ、この組織。
逃げようにも他の生き方も知らないしなぁ。
まず、IDが人間じゃないし死人扱いだとどこにも行きようがないから戦場を渡り歩いてるけど。
はぁー、なんか虚しさが理解できるようになってきたな。
あー、これやばい、再調整されないように気合い入れるか。人形にはなりたくないな。」
そう、彼ら電脳兵士はIDがない死人として一旦戸籍情報が削除されている。
併せて、過去の記憶をきれいさっぱり消してくれているので、自分が誰なのか理解できず、
発狂して暴走する者もいるが、ほとんどが強制再起動をかけられ、
再調整されて自我の薄い兵士になって戦場に投入されていく。
セブンはどんな任務でもひょうひょうと、傍から見ると冷淡に戦闘をこなしてきていたので、
組織内からは無表情のセブン、無情のセブンと酷い言われようだ。
「無情とか言われてるけど、少年兵とか相手にするのはちょっとへこむんだけど。
今回もいないといいなぁ。反射的に撃ってしまう自分が怖いよ。」
内部に侵入するとすぐに土嚢の山があり、それを越えると敵の武装兵士が警戒しているが、
作業優先のため、兵士達をすり抜けるように坑道のような穴通路を進んで行くと、左右に分かれていた。
侵入前にバックパックから展開していたバグドローンの情報から
右奥に兵器庫があるのが分かっていたので、
そこに起爆用の炸薬をセットするだけの簡単なお仕事だ。
「おいおい、やばいマークの弾頭が箱から出た状態で普通に置いてあるんだけど。
こんなのあるって聞いてないよ。」
脳内でぶつぶつとこぼしながら、やばい弾頭から離れたところの通常弾頭の横にお土産を紛れ込ませた。
「左側って、地下空洞の集会場っぽい感じになってるみたいだけど、ちょっとだけ見学してみるか」
二股まで戻ってまた左側の空洞らしい敵兵の集まっているポイントまで移動する。
ライトが点々とたかれており200人近い武装兵士がわらわらと集まっていた。
暗視モードで見渡すと、空洞の左奥の方に祭壇のようなものが見えた。
そこに微弱な熱反応があった。
「 ん? 小さい反応だな。子供サイズの電脳兵でもないな。なんだろ?」
音も立てないサイレンスモードでゆっくりと接近すると、そこには丸まった毛玉のようなものがあった。
「サーモセンサーでは体温が低いな。弱ってるのか?
うーん、巻き込みたくないな。うーん、しょうがない、外まで連れ出すか。」
何がしょうがないのか分からないが、簡単なお仕事には記載のなかった小動物の保護を実行し、
ゆっくりと撤退行動に移った。
入り口の土嚢前まで来た瞬間にそれは炸裂した。
「シュッ! ボーン!!」
という独特の炸裂音で、あたり一帯を溶鉱炉のように焼き尽くす改良型燃料気化爆弾だと
即座に認識したが、眼内モニターには、耐熱シールド展開時間はなく、
回避不能というアラートが出ていた。
「やばい弾頭だけ回収するのが目的だったのかよ。俺の潜入の意味って。。
あーこいつだけでも助けてやりたかったな。
悪いな、毛玉ちゃん。そういうことで一緒に逝ってくれ。」
何がそういうことかも分からないまま、強烈な熱風に吹き飛ばされるように、
全機能がシステムダウンした。
「み~ み~」
何かとても小さな消え入りそうな鳴き声のようなものが聞こえる。
地面に丸まって横たわった状態でシステムが再起動している。
再起動したこと自体がびっくりだ。
「まじか、あの高熱で溶けなかったのか?
『全システム自動確認開始。異常部位自動修復機能起動。バグドローン展開開始。』
再起動の自立システムが動いたか。何にもないといいんだけど。
ていうか、この地面砂じゃない感じなんだけど。」
システム確認が完了し、全機能に問題なしと眼内モニターに表示され、同時に修復箇所なしとも
追記されていて、ほっとした。
反応炉に異常が発生すると周辺が吹っ飛ぶ可能性がるので、自動確認が完了し、
修復されないと身動きできないプログラムになっている。
ちなみに修復不能な異常があると回収機が飛んできて廃棄処理される。。
プレスはいやだぁー。まぁ、回避できたようなので今は安心だけど。
ふと、抱え込んでいる手の中を見ると、手のひらサイズの黒い子猫のようなものと目が合った。
「よ、お前も無事だったか。
とりあえず、戦場から撤退するか。」
胸部の炸薬パックを開いて空いているところに子猫を入れて表面に防砂シートをかけてやった。
周りの情報をドローンから集積してオートマップ化・・・。完了しない??
・・・あれ、位置情報ないんだけど、って言うか
「ここ 何処なんだよ!
メモリーにない植物いっぱいの森って!?
ぺんぺん草一本生えてないような砂漠は何処行った!
何で20m以上ありそうな木立の中って!
敵も味方も何もないって、そんな馬鹿な!!」
あー落ち着こう。一気に反応炉が暴走しそうな気がしたけど落ち着こう。
きっと爆風ですげぇ距離吹っ飛ばされたに違いない。うん、そうに違いない。
バグドローン、仕事しろ!オートマップはよ!!
「み~・・・」
あ、ごめん、うるさかったな。何か食べるものないか探すかな。
電脳兵は食料不要なので携帯食とか持ってないのが普通なんだよな。
普通は・・・。俺はおやつ好きなんだけど。
食べても燃料炉系に放り込まれるだけなんだけど、たまに食べてしまう。
いや、気が付くと食べてしまっている。
なので、隠しおやつがある。
確か、手榴弾ホルダーの奥にサツマイモ系ベースのクッキーがあったはず。
あった!成分確認。ネコ用じゃないけど害もないはず。
「ほれ、クッキーでもお食べ。」
においをかいでからかじり始めた。小さな口なので食べにくそうだ。
少し砕いてやるといい感じで食べ始めた。
このサイズだとミルクが必要なのでは?と思っていたが普通にクッキーをかじっているので
いいのかなと思いつつ、鳥系の肉を手に入れようかなとも思い始めた。
その矢先に、眼内モニターにオートマップが展開した。
バグドローンは頑張ったようで周囲100kmの円形表示になっていた。
「・・・な、なんじゃこりゃーー!! 100km円内全部森って!!
砂漠化の進んだ地球のどこにそんな場所あるんだよ!!見たことも聞いたこともねーよ!!」
だめだ、反応炉が暴走する前に脳内の血管が切れそうだ。落ち着こう。
温暖化が進んだ地球は、極地の氷が溶けて、さらに砂漠が広がり保護区画以外では草木は育たなくなっていたはず。
資源を求めて宇宙資源探査に出て、木星付近のスターダストベルトの中から新発見の物質が見つかったから、
資源不足は何とかなっているものの、炭酸ガス濃度対策は各国の継続事案になっているような状況だ。
こんな森があったらどこの国も所有権をめぐってもっと激しい戦争になるだろう。
「まずいところに飛ばされたもんだな。・・・いやいや、待って。
メモリーにない植物ってどうなってんの?過去の分類でサーチしても該当なしって・・
あれっ?影が二重に見えるんだけど・・・??」
ふと、顔を上げて木立の間の空を見ると、雪だるまのような大小の太陽が二つ上っていた。
「・・・いやいやいや、太陽2つって!どこ?ここ地球じゃないよねっていうか、
太陽系じゃないよね。いきなり太陽系外にいるってどういうこと!?」
だめだ、もう無理だ。反応炉が暴走してみている妄想に違いない。
目を閉じて黙想。。。落ち着こう。
っと、何かいきなりバグドローンからの映像共有開始。
自動危険察知機能が起動したらしい。
・・・何か始祖鳥見たいなのが飛んでるのが映ってるんだけど。
・・・火を噴いて何かと戦ってるみたいなんだけど。
よし、考えるのをやめよう。
ぱっちりと目を開いて遠くを眺める目で気を落ち着かせて行動開始しよう。
「うん、まず、何処かわからないけど移動してみよう。
ネコの食料になるものを探そう。
名前、いるかな。黒いからクロでいいかな。悪いな安易で。」
移動だるいなぁ、移動ユニットがあれば楽に動けるんだけど、今は暗殺諜報活動用ユニットなんだよな。
兵装は、標準武装以外だと、指先の高圧縮弾頭銃とバックパックから伸びてくる両肩の電磁砲、
バグドローンとセットで使うマイクロウェーブパルサーだけだ。
ステルスモード、サイレンスモード、暗視モード、サーモモードと忍者のような機能はある反面、
広範囲爆撃やミサイルがないので火力が弱いのが難点だ。
大気解析・重力場・磁場解析を行ったが、地球と変わらない環境でありつつ、少し自転速度が遅いようだ。
1日は28時間くらいになるようだ。開けた場所に出たら植物類の分析を一気にするか。
バグドローンの探索範囲を狭めて高精細探査モードで、植物のサンプル採取、生物、動物の探索を開始しつつ、
始祖鳥がバトルしてるのと正反対の山らしきものが見えた方角へ移動開始した。
ふと見ると、クロはうつらうつらモードになっていた。
「お前だけでも平和に生きられるといいんだけどな。
ま、俺の稼働時間が許す限り守ってやるよ、おやすみ」
安心したように眠り始めたクロを見つつ、食料捜索に力を入れようと思った。
と、眼内モニターに新着圧縮メッセージの表示があった。
お、お仲間か組織に連絡つくなぁと思いつつ、メッセージを解凍展開した。
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送信者:*&%$#‘@+
コメント:こんにちは!っていうか、初めましてだよね。
あなたとその子は訳あって私の世界に転移してもらっちゃいました。
魔法が使えるファンタジーな世界なので、きっと楽しいですよ。
初回特典で魔法が使えるスキルもサービス!
こんな親切な女神の私はきっといい女神だよね。
じゃあ、すぐに死なないように頑張って楽しく長生きしてね~
バイバーイ
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反応炉が溶けるかと思ったわ!誰!あんた誰!!
何転移って!何処なんここ!魔法って!!
・・・魔法か・・いいかも。
どうにもなりそうにないし、とりあえず稼働限界まで動いてみるか。
それから2日ほど移動したところで開けた場所に出た。
「集落!?ドローンに表示なかったんだけど?」
そう思った瞬間、前方の木々の上から攻撃反応を探知した。