第二話
採用されたので俺は真壁裕太の指示に従い、裏の工房へ案内された。工房には竈や様々な道具、農具に剣や盾などものすごい量の器具があった。めちゃくちゃ圧倒されていると、真壁裕太が元気よく言った。
「さあてと!今日は農具の修繕に取り掛かるか〜!」
「農具の修繕?あの、俺、農具の修繕とかした事が無いのだけど大丈夫かな?」
すると、真壁裕太が俺をきょとんと見る。
「修繕した事が無いのは当然じゃない?むしろ、僕は剣とか盾じゃないのかと言われるかと」
そう。ファンタジーではよくあるのだが、鍛冶屋はべつに武器や防具だけを直すのではない。農具やら一般の用具も直すのが鍛冶屋なのだ。
「だいたいはわかる。農具やら直すのも鍛冶屋だし。だけど・・・、した事がないから教えてくれるかな?」
「い・・・いいけど、がっかりしない?せっかくの異世界なのに、とか?」
「い、いや・・・?それよりも教えてくれるんだろう?頼む!俺が鍛冶に対してへっぽこなのはわかってるんだ。だけど、ここで従業員やる以上は最低限、学びたいんだ!」
パアッと笑顔になる真壁裕太。
・・・たぶん、ホントにこれで従業員が集まらなかったのか。
「うん!じゃあ、ちゃんと責任を持って教えるから!一緒に頑張ろ!」
「おうよ!よろしく頼むぜ、旦那!」
と、俺と真壁裕太は互いにニカッと笑うと農具の修繕を一緒にするのだった。
その夜、農具の修繕を終えた俺は真壁裕太こと旦那の夕飯を頂くことにした。台所の近くにあるテーブルと一緒にあるイスへ座る。今日のメニューは野菜スープにお肉、パン。めちゃくちゃ美味しそうだった。
『いただきま〜す!』
二人で手を合わせて食事をする。なにせ2日ほどきのみやら魚しか食べてないのでこれがもうほんっとに美味い。
「旦那は確か異世界転生だっけ?」
そう俺が言うと着ている制服を寂しそうに見て言った。
「うん、僕ね病気で亡くなったから。だから、学校すら行けないままこの異世界で丈夫な身体が欲しいって神様に願って転生したんだ」
「・・・いや、すまん。俺が制服着てる時に喜んだのってそういう理由だったのか」
俺は制服を寂しそうに見ている旦那へ言った。
「き・・・着てみる?俺のでよかったら?今は営業終了時間だしさ。少しぐらいはいいんじゃないかな?」
「い、いいの!?」
椅子から立ち上がる旦那は嬉しそうな表情を浮かべた。
「いいよいいよ。今日の就職先のお礼に。それに旦那、ずっと着たかったんだろ?俺はそういう奴にもこの制服を着てもらいたいな」
「・・・ありがとう!」
俺はとりあえず手近にある旦那の鍛冶の作業着へ旦那は俺の制服へ着替える。
旦那はくるくると自分の背中を見てすっごいいい笑顔をした。
「似合ってる?ねえねえ、僕の制服姿、とっても似合ってる!?」
嬉しそうな表情をする旦那へ俺は「似合ってますぜ、旦那!」とグッドサインをしたのだった。