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第9話 騙されているわけじゃないようです

「リサ。本当にめげないね。」


 昨夜は驚きの連続だったけど、加奈さんにあれだけ言われて大人しかったリサが翌朝にはケロっとした顔で起きてきたのだ。


 金髪碧眼のプリンセスが半ばはだけ掛けているが浴衣を着て、はんてんを着て、座卓では脇息に寄りかかり、女の子座りをしている。先程から、里芋の煮っ転がしを摘んでは落とし摘んでは落としを繰り返している。あーイライラする。


「何でめげなきゃいけないのよ。私があゆむくんを説得しなきゃ何も始まらないじゃない。」


 それはそうなんだけどリサの知らない間に障害の一つは取り除かれている。まあ言わないけど。


「ご飯のお代わりはどうだ。」


 リサが無言で差しだしたお茶碗にお櫃からご飯をよそう。クダサイくらい言えんのか。


「それに他人行儀だった。あゆむくんの喋り方が変わったもの。少しは進んだと思っていいんじゃない。」


 そういえばそうだ。余りにも遠慮無しに踏むこんでくるリサに呆れてしまったからだな。


「小さい1歩だな。」


 冷たく言い放ってやる。これまでの経緯からすると甘いことを言えばつけあがるからだ。


「ああん。もう。」


 可愛らしく言っているが、もう騙されんぞ。


「言っておくがな。昨夜の出来事を学校で言いふらしたら絶交だからな。」


「絶交って、まだ交際もしてないよ。私たち。」


「・・・そういう態度ならもういい。」


「じょ、冗談よ。やあねえ。」


 とにかく裸を見たとか見ないとかそんなことを学校で言いふらされたら最悪退学。それでなくても、うちの高校の男子学生からは目の敵にされかねない状況である。


 昨日の奴らはまだグループが小さいし、逆に他の男子学生から目の敵にされているグループだがら何を言っても無視されるだろう。


「じゃあ着替えるから手伝って!」


「出て行っての間違いじゃないのか?」


 食事が済み、リサが目の前で浴衣を脱ぎだしたので後ろを向こうとしたところで止まる。コイツ本気で羞恥心というものが無いのだろうか。


「そんな訳無いじゃない。那須家に貰われてきて以来、自分で着替えたこと無いのよ。」


 そういえばリサはお嬢様だったな。しかし、今時そんな人間が居るのか。


「ちょっと待て。養女になる前はどうだったんだ。」


 うっかり騙されるところだった。確か9才で養女になったと聞いている。十分に1人で着替えが出来る年齢だ。


「へへ。あのね。うちの親。ネグレストだったらしいの。だから、何をしていたか全然記憶がないのよ。それに私が服を選ぶと乳母は怒るのよ。この間は私のお気に入りのオレンジ色のブラウスの下に黒いスパッツを穿こうとしたら怒られたわ。」


 そんな明るい顔で深刻なことを言うなよ。思わず同情しちゃったじゃないか。


「それは酷いな。僕が選んでやる。だが着替えるのは自分でやれ。教えてやるから。そんなんじゃ旅館の女将にはなれないぞ。」


 同情してほしくて意図して言っているわけでも無いようだったので適当に誤魔化す。


「うん。」


 そういえば、昨夜も浴衣の合わせを反対にしていたし、胸元がはだけていたのも誘惑していた訳では無いらしい。本当に着替えができないんだ。まさかパンツを後ろ前反対に穿くとか冗談だろ。


     ☆


「中で待っていてくださればいいのに。」


 旅館の玄関口で加奈さんたち従業員にお見送りされて、外に出ると渚佑子さんが待ち受けていた。


「いや今来たところだから。」


 加奈さんか誰かが連絡して『ゲート』で来たのかな。


「じゃあ2人とも掴まって!「わぁーーっ。」」


 言ったのと殆ど同時に腕を掴まれるともう目の前は学校だった。これからずっと行きと帰りはこれなのだろうか。物凄く心臓に悪い気がする。


「おはよう!」


「おはようケンちゃん。昨日はごめん。」


 校門の傍で円頓寺謙一郎に捕まった。そのまま校門の脇へ引きずり込まれる。同じ塾に通っており、『黄昏のフォボス』に誘ってくれた友人だ。昨日もゲームをする約束をしていたのだけど、那須議長に捕まったから約束を守れなかったんだ。


「いいよ。いいよ。あのナスシンと一緒だったんだろう。後で話を聞かせてくれよな。」


 この友人は那須議長の大ファンでプロ野球選手時代に付けられたという愛称で勝手に呼んでいる。僕が知る那須議長の知識もこの友人から植え込まれたと言っても過言じゃない。


「もちろん。」


「それよりも桜木グループが揃いも揃って転校するそうだぞ。知っているか?」


 桜木グループといえば、昨日僕に因縁を付けてきたグループだ。


 僕は後ろのリサの方へ振り返る。いや、リサには教えていない。ということは・・・渚佑子さんの方を向くとニヤリと笑われた。どうやらケンちゃんの話し声が聞こえたようだ。声が大きいからな。


「実は・・・。」


 ケンちゃんの方へ向き直ると昨日の出来事を話した。どんな圧力があったか解らないが僕たちを襲った人たちは排除されたらしい。改めて蓉芙コンツェルンの大きさを感じ取る。


 渚佑子さんが恐がられているのも分かる気がする。徹底的に容赦無いんだな。あれくらいのことで転校に追い込むなんて。『ちんまい姉ちゃん。』って言われたのが気に触ったのかもしれないけど。


「げっ。あゆむの傍から離れて外野に徹するつもりだったんだけど、俺も排除されるのか?」


 そんなことを考えていたのか。まあ明らかに僕の傍に居たら被害を受けるよな。友人をやめると言い出さない分マシかな。


「うん多分。あの人全校生徒の顔と名前を覚えているみたいだよ。桜木グループも名乗ったわけじゃないもの。」


「拙いじゃん。」


 ケンちゃんが僕を引っ張って渚佑子さんの前に立つ。


「あゆむくんの親友の円頓寺謙一郎と申します。よろしくお願いします。」


 おいおい。幾ら怖いからって、挨拶する相手が違うだろ。しかも親友に格上げされている。男に媚びをうられてもなあ。


「知ってる。」


 ボソッと喋るのがある意味怖い。友人も顔が引きつっているようだ。


「あっ。そうだリサ。夏休みにグァムに行くときにケンちゃんも一緒でもいいかな?」


 何かフォローしようと今思いついたのだが、意外といい案だ。どうせ傍に居て貰えるのなら、徹底的に引きずり込もう。


「もちろん、いいわよ。」


「おいおい。お前はいいかもしれんがボッチの俺が1人寂しくリゾート地なんか行ってどうするんだよ。」


 どうやら僕たちがバカンスのために2人で旅行に出掛けると勘違いしているようだ。


「違うんだ。地球連邦軍の見学をしないかと誘われているんだが無理そうなら「行くよ。行く行く。」」


 よしゃー嵌まった。友人は地球連邦軍志望だから乗ってくると思ったんだ。向こうに着いて、本物の『ミルキーウェイ』の操縦が出来ると知ったら、どんな顔をするだろうか。一緒に那須議長に会ったりしたら、どんな態度なんだろうな。


 今から楽しみだ。

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