第11話 家族を助けたいようです
「僕が公爵ですか?」
「そうだ。皇女の婿ともあろうものが無役では格好がつかぬ。今このときから、お主はあゆむ・服部・ハート公爵と名乗るが良いぞ。」
「はい。お受け致しました。」
強制的らしいので素直に受けておくことにした。
「但し、公爵を襲名するには実績が必要である。そこにおるロバートの初代ダイヤ公爵は、銀河連邦から『ミルキーウェイ』の技術を持ち出した技術者だった。現宰相のアンタッソの初代クラブ公爵は、銀河連邦から『バリア』の装置を盗み出した宇宙盗賊だった。」
アンドロメダ銀河帝国の技術って銀河連邦のパクリなんだ。
「それで地球製の『ミルキーウェイ』を僕が持ち出したことにするんですね。」
「そう思っておったんだが。ここにおいてある外装と今解析中の動力コア以外は小型軽量化している技術は凄いが特段新しい発明品が組み込まれているわけではなさそうだ。何故我が軍の熟練パイロットが後れを取るほどの能力を発揮できるのだ?」
そういえば20世紀には日本が21世紀には中国が技術をパクリ小型軽量化に勤しんだから特にアジア系の企業はこういったことは得意なんだよな。
オリハルコンを製造しようと思えば最終段階で魔力を投入する必要があるし、ヴァーチャルリアリティ時空間を利用しようと思えば、地球にあるスーパーコンピュータと空間連結魔法で直接接続する必要がある。
機密の塊だと思っていたがアンドロメダ銀河帝国からすれば、元々持っている技術なんだ。取られたとしてもなんら問題の無いものだったんだ。
「この外装は地球で最も硬い物質とされていますがその製造方法は技術者では無い僕にはわかりません。ですが僕は『ミルキーウェイ』を30倍の速度で操作できます。」
「な・・・30倍だと。何故だ。地球人は身体能力で劣ると聞いておるぞ。」
「詳しい理論はわからないのですが脳の視覚中枢に直接映像を送る装置で見た情報を元に判断した情報が『ミルキーウェイ』に伝わる仕組みです。」
士官学校で習った僕が知っている技術的な情報を話しても問題無いはずである。
「その装置は何処にあるのだ?」
「僕が被っていたフルフェイスタイプのヘッドギアに組み込まれてます。」
那須議長にとって僕は邪魔な存在だったのだ。愛娘をかどわかした憎い男。だからあのとき止めなかったのだ。地球から遠く離れた地に追いやるために。
「なるほど、そういうことだったのか。よくぞ教えてくれた。それだけ教えてくれれば十分に公爵になる実績となり得る。後は我が国の優秀な技術者が全て解析するはずだ。」
いや違う。あの謀略を得意とする人が。あの人を陥れるのが好きな人間が何も仕掛けずに地球製『ミルキーウェイ』を手放すはずが無い。
「そうそう忘れておった。この外装に描かれている紋様なのだが何かわからぬか?」
僕はその紋様・・・いや転移魔法陣を見たときに悟った。やはり那須議長は最低最悪な性格をしている。この転移魔法陣で自分で戻ってこいというわけだ。道理で月基地から火星基地まで何往復も転移魔法陣を使わせるわけだ。このときのための練習だったらしい。
そのときだった。下のほうから、ず・・・ぅんと地響きのような鈍い振動が伝わってきた。
ま、拙い。
『ミルキーウェイ』の動力コアは月基地にあるその数1万とも言われる超小型核融合炉のプラズマを発生する際の起爆剤として使用されている核燃料を真空下でも低温を維持するための冷却水を空間連結魔法で繋ぎ動力としている。下手に解体しようとすれば核物質が漏れてくるかもしれないのだ。
つまり那須議長はチイちゃんをアンドロメダ銀河帝国の皇女と知っていて僕と地球製『ミルキーウェイ』を送り込み、解体させることで帝国内に甚大な被害を負わせようと企んだのであろう。
やっぱり那須議長にとって僕は捨て駒だったらしい。この外装に描かれている紋様を僕が見る前だったら、アンドロメダ銀河帝国と運命を共にしてもいいと思っていた証拠だ。
あの人の思う通りにさせてやるものか。何か無いのか。僕にとって最善手はいったいなんだ。
「報告します。科学技術庁第1技術解析部で爆発が発生。その影響が地下原子炉に届いた模様。陛下至急ここから退避してください。」
地下に原子炉があることも折込済みなわけだ。動力コアから核物質が漏れれば、メルトダウン同然で原子炉に到達する。下手をすればこの惑星が滅ぶこともありえる。
「アンタッソ。何処に逃げろというのだ。それができるなら、どんな褒美でも取らすぞ。」
飛び込んできた男はこの中の誰よりも背が低く狸のようにポンポコなお腹をしている。チイちゃんが嫁ぎたく無いのもわかる。
「陛下。その御言葉を忘れないでくださいよ。」
「あゆむ殿にはあるというのか?」
「はい。この紋様の上にお乗り頂けますか。」
こんなわけもわからないものの上に乗ってくれるかどうか。例え命が掛かっているとはいえ5分5分といったところだ。
「あゆむくん。これって『ゲート』なの?」
流石に素直に従ってくれないかと躊躇する姿を見て諦めかけたところでチイちゃんから援護射撃がかかる。
「そうだ。おそらく月基地に繋がっている。チイちゃんだけでも乗ってくれないか。」
おそらく月基地側では那須議長が待ち構えているだろう。僕が皇帝一家を送り込めば人質にするつもりなのだろう。でもここで死ぬよりはずっと良い。
「父上、さあ一緒にお乗りください。母上も兄上も姉上もロバートも。」
チイちゃんが思いつめた顔で陛下を引き摺っていくと次々と皇帝一家が転移魔法陣の上に全て乗った。
そして僕も転移魔法陣の上に乗り込み魔力を注ぎ込んでいくとあの独特の浮遊感に襲われたのだった。




