第9話 パイロット候補生は謝りに行きたいそうです
「あゆむくん。食べてないんだって?」
地球上でも銀河連邦の本でも見たこと無い装飾の部屋で目を覚ました。どうやらアンドロメダ銀河まで連れて来られたらしい。
「あっ。チイちゃん。」
「失礼な。プリンセス・チーとお呼びしろ。」
何処でもいるんだな。こういうタイプの兵士。あの警備員さん元気かな。謝りに行かないといけないよな。
へえ、チイちゃんは本物のお姫様なんだ。こっちのお姫様はガサツじゃないみたい。でも本性はわからないか。
「うるさいよ。どっか行って頂戴。」
やっぱり性格が違うみたいだ。
「ですが野蛮な地球人とお2人でなんて危険です。」
「・・・連れて行って。」
扉のところに控えていた色違いの制服を着た兵士が口を挟み続ける兵士を連れ出していった。王族の親衛隊といったところだろうか。しかし、こちらの人間は僕よりも身長が低く堅太りだ。何か親近感が湧くよな。
「私はあゆむくんほど甘く無いの。それで何故食べないの?」
有無を言わさず罰を与えるところなんて、チイちゃんとは思えない。あのチイちゃんは幻だったんだね。
「僕が生かされているということは何らかの利用価値があるということだよね。でもこれ以上他人に迷惑を掛けたくないんだ。」
チイちゃんの目的は地球製の『ミルキーウェイ』を奪い取ることだったのだろう。利用価値が無いのなら僕は不要だろう。殺されていたに違いない。
「違うわよ。『織田旅館』の皆が優しくしてくれたお礼にあゆむくんを一生面倒みたいの。本当は帰してあげたいんだけど、そうもいかなくてごめんね。」
地球はスパイに取って活動し難いところだったらしい。全ての情報がDNAと結び付いて簡単には詐称出来ない仕組みになっていたらしく。住むところを探すのもひと苦労だったようだ。
そういえば施設に入る際に必要な指を入れるタイプのDNA確認で未登録の場合、指を挟まれるという都市伝説があるがアンドロメダ銀河帝国軍のスパイが捕まったのかもしれない。酷く間抜けな光景だけど。
その点、『織田旅館』はアナログな履歴書だけで採用していたし、チイちゃんは住み込みだったから天国みたいな環境だったようだ。プリンセス・チーにとっては酷い環境かもしれないけど。
あれっ?
厚生年金と雇用保険と健康保険は強制加入だったよな。雇用するときに受けた健康診断で取得したDNAで登録するはずだ。
だったら、ワザと泳がされていたのか。
那須議長はミサイルが飛んできた時、なんて言った?
近くにスパイが居ると言っていたはずだ。あれがチイちゃんのことだったら?
リサが意識を失い『Y1』が出てきたときには排除された。
『織田旅館』に送っていった渚佑子さんは知られると困ると言ったじゃないか。
チイちゃんがコックピットに乗り込んでいることを那須議長に報告したのに、降ろすように指示しなかったじゃないか。
チイちゃんの目的が地球製『ミルキーウェイ』を奪うことだと知っていてワザと放置した?
何が目的だ。ワザと旧設計の機体を渡して間違った情報を植え付けたのか。
違う。旧設計でも十分に機密情報の塊だったはずだ。
僕の知らない情報が多過ぎて判断出来ない。
謀略を得意とする那須議長が何も仕掛けずに機密情報を渡すとはとても思えない。
僕は助かるのか?
いや無理だろう。太陽系から外に出たことが無い地球人がいきなりアンドロメダ銀河まで連れてこられたのだ。ここは本当にアンドロメダ銀河なのか?
「此処は何処?」
「やっと質問する気になったのね。ここはアンドロメダ銀河帝国の首都星『アンドロイダー』よ。地球から250光年以上離れているわ。逃げ出そうと思っても無駄よ。」
やっぱり無理だよな。でも何かがあるはずなんだ。それに縋ってみるしか無いようだ。
「この建物は何?」
「皇帝の住まいよ。地球の常識では信じられないかも知れないけど、直径1キロくらいの円錐形の建物の天辺に皇帝が住んでいるわ。」
「僕の『ミルキーウェイ』も此処にあるの?」
「そうね。この建物の中心部で今頃、科学者たちによって分解されているんじゃないかしら。とにかく食べて頂戴。何なら私が作ってあげましょうか。地球と同じ食材は無いけど似たようなものならあるから。」
「うん。お願いするよ。」
とにかく望みを捨てないこと、まずは食べることが大事だよね。
「早く元気になって頂戴ね。まだあゆむくんは皇帝の物だから早く引き取りたいの。この子のためにも。」
そう言ってお腹をさする。
「えっ。もしかして僕の子供?」
そんなバカな。チイちゃんとエッチしたのは半年近く前の話だ。それが本当ならもっと目立っていたはず。
「もちろんよ。帝国人は地球人より子宮が大きいの。だからリサみたいにくびれて無いの。」
なんだかんだといって、その辺りは気にしていたらしい。女の子だなあ。
今日の投稿はこれで最後となります。
正月休みも終わりましたので、少々ゆっくりとしたペースとなりますが
引き続きご愛読のほど、よろしくお願いします。




