第1話 地球の未来はゲームで決まるそうです
「大丈夫なんですか?」
なんか最近、このセリフばっかり言っている気がするな。
あれから『Y1』はさらに忙しい日々を送り、眠りについた。リサと僕は士官学校に戻り、予定していた授業を全て終わらせ、予定より1ヶ月ほど遅れた10月初旬に日本州に戻った。
多忙なはずの那須議長が会いたいと言ってきたので、蓉芙コンツェルンの会議室に伺ったのだが中々話を切り出してくれない。
「ああ、アンドロメダ銀河帝国軍が攻めてくることを発表したことかな。報告では今のところ大した混乱は無いようだよ。」
非常事態宣言をした地球連邦議会の議場での演説で那須議長が喋った内容が問題なのである。
確かに大した混乱も無く戦時体制下に移行した。
そうは言っても、民間の部品工場が軍需部品工場、特に『ミルキーウェイ』の交換用の部品の製造に移行していたり、各種エネルギーの優先使用権が軍関係に移行しただけで日常生活にそれほど影響が出てないからだろう。逆に軍需部品工場に指定されたところは盛り上がっているぐらいだ。
税金は10年間限定で消費税が毎年1パーセントずつ上がる決定が下された。それが逆に駆け込み需要を掘り起こしており、好景気になると予測されている。
「そうじゃなくて、『ミルキーウェイ』のパイロット候補生を公募したことですよ。しかも戦争ではリモートコントロールで行うから命の危険性は無いって。まるでゲーム機じゃないですか。現場で働いている兵士たちは命懸けなんですよ。」
しかもゲームセンターにある『黄昏のフォボス』の筐体で実際に装備可能な武器だけの限定版が動作していて、これから3ヶ月に渡り戦闘を繰り広げ、上位ランカーにパイロット候補生の適性試験を受ける権利が与えられるらしい。
地球の未来をゲーム機で決めていいのか?
「あの人に怒られてね。民間人を使うなら、極力命の危険性を無いようにしろとさ。元々あの人は職業軍人には厳しいんだよ。過去に銀河連邦が侵略に来たときなんか、軍の教育を受けた人間は義務があると言って強制徴兵に踏み切ったこともあったんだよ。」
過去の日本人の中には国が費用負担していた軍の大学で教育を受けながら、卒業時に軍に入ることを拒否する人間が沢山居たらしい。そういった人々を真っ先に徴兵した。今でこそ当然と思うことだが、当時は鬼とか悪魔とか責められたらしい。
「士官学校の生徒の中には、わずかですが『サポート係りじゃない』と憤っている人も居ると聞きましたけど。」
万が一、リモートコントロールの機体が動作不能に陥った場合、現場に居る兵士が乗る機体が回収する役目を担うらしい。
「へえ、誰が言っているんだい。そういう人間に兵士は向かないんだよ。兵士というものは地味で表に出ない作業が主なんだ。華々しく活躍するような人間は要らないんだよ。」
どんなに活躍した兵士がいても出世はするだろうが決して名前は出てこないのが普通だ。まるで自分のことを当て擦っているみたいだ。決して表に出てこないが活躍した兵士たちを知っているからこそなのだろう。
「噂ですよ噂。」
「本当だろうな。」
報告したら本当に辞めさせる気だったようだ。危ない危ない。
「それにしても、凄い長蛇の列ができていますねゲームセンター。」
1人1日1回に限定されているが『黄昏のフォボス』に並ぶ人の列ができているそうだ。今まで見向きもしなかったような人たちも並んでいるらしい。まあ初回にランキング1万位以内に入れなかった人は2度と遊べない仕組みらしいが24時間営業のゲームセンターのどの時間でも空いていることは無いそうだ。
ゲームセンター業界は逆に大変だ。1回300円の設定が500円に上げられているがその全てがゲームセンター側に落ちず、開発会社経由で地球連邦に落ちる仕組みになっているようで、24時間稼働し続けても僅かな利益しか見込めないらしい。
練習になりそうな他のロボット兵器モノのゲームの稼働率が上がっているから、文句も言えないらしい。
「相変わらずリサがトップランカーなのか?」
「ええ、平均被ダメージが1パーセントを切ってますから。時折、ド素人が滅茶苦茶に撃ったミサイルに当たって憤ってますけどね。」
「あゆむくんの瞬殺率も凄いときいたけど。」
実は僕もリサもこのイベントに参加を義務付けられてしまった。『Y1』曰わく平等じゃないという鶴の一言で戦争に参戦出来る権利を失ってしまったのである。
まあゲームセンターで並ばず、蓉芙コンツェルンに置かれた専用筐体を使用しているけどね。
それ以降のリサは鬼気迫るほど、『黄昏のフォボス』にのめり込んでいるのである。
「設計変更前の機体設計ですから。」
巷ではド素人相手にあの瞬殺コンボを決めるのが流行っているという。開発した僕言うのもなんだけど酷い話だ。
「それでもトップ10位以内には必ず入っているというじゃないか。」
「25倍のヴァーチャルリアリティ時空間というアドバンテージがあるからですよ。そういったアドバンテージも無い人がリサと僕の間にいつも5人以上もいるんですよ。まだまだですねえ。」
そういう僕も『黄昏のフォボス』にのめり込んでいる。僕のランキングだと1回目に選ばれるか選ばれないかギリギリだから、瞬殺率1位を狙っているのである。
「まだリサには言ってないんだって?」
「選ばれても居ないのに言えるわけが無いじゃないですか。」
『Y1』が再び眠りにつき、リサが起きたあと、リサから本当の思いを聞いてから、僕の心は決まっている。
彼女は怖かったのだ。圧倒的に『Y1』が起きている方が地球連邦に取って良いことだとわかっているが意識を失うことが怖かったのである。
明けましておめでとうございます。
本年も引き続きお引き立てのほど、よろしくお願いします。




