エピローグ
EARTHアラートが鳴ると蓉芙コンツェルンの総帥が起きていると知っている人が多いらしく客がひっきりなしに訪ねてくる。
州知事たちがトップバッターだ。普段、州の利益を巡って喧々囂々とやり合う人たちが『Y1』の前では借りてきた猫のように大人しく、彼のどんな言葉も聞き逃すまいと真剣な表情だ。
ときおり『知識』スキルを持つ渚佑子さんが銀河連邦での解決策を提示したりする。
「僕は彼らの敵だからさ。彼らの要求を突っぱね銀河連邦を纏め上げるんだ。意外と大変なんだぞう。」
何も口を挟まない那須議長に聞いてみるとそんな答えが返ってきた。
問題を解決するには予算が必要だ。その予算を握るこの人だからこその言葉なんだろうといつもなら思うはずなのに。
「士官学校の受験生のように卑劣な罠に掛けるのが楽しいんじゃないんですか?」
「まあいいじゃないか。そんなことはどうでも。」
否定しやがらない。
『Y1』が僕をリサの友人として紹介すると知事は満面の笑顔で労いの言葉を掛けてくださった。リサの我が儘っ振りは結構有名らしい。
皆さん一様にSNS交換や州への来訪を強請られたがどうしろというのだろう。
「君のその顔の破壊力は凄いなあ。あの人の顔を見ているだけで癒やされるという人間が多いんだよ。行けば大歓迎されると思うよ。でも行くときは一声掛けて行ってね。その顔を利用しようという輩も多いから長期間拘束されるかもしれないから。」
それって軟禁じゃないのか。
「那須議長も癒される口なんですか。さっきも脂下がっていましたよ。もしかして僕への性転換の薦めも半ば本気だったりして・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・もちろん冗談だよ。」
恐いなこの人。そういえば渚佑子さんが蓉芙コンツェルンの行く末を見るためだけに吸血鬼になったとか言っていたよな。一種のストーカーなんじゃ。
顔を上げると視線が合う。ずっとこちらを見続けていたらしい。思わず抱き締めていたリサの影に隠れる。一種の壁だ。もしかして生涯、この壁が必要なんじゃないだろうか。
次は側室と僕みたいな子孫たち、側室は一部の長寿の種族を除き、その殆どと死に別れているらしいが側室候補が幾人もいるらしい。5年に1度しか会えないのはツラくないのだろうか。
「この社会は銀河連邦の技術を隠れ蓑にした魔法で成り立っている。俺も渚佑子もいつかは死ぬ。だから影から社会を支え続ける魔法使いが必要だ。俺の子孫ならば9割以上の確率で魔法使いになれる。少なくとも銀河連邦と肩を並べられるほどの技術力を持つようになるまでは必要なんだ。」
僕が『Y1』に尋ねてみるとそうはぐらかされた。一応罪悪感はあるらしい。
2万年の歴史を持つ銀河連邦と300年余りの地球連邦。追いつくには千年単位で時間が必要に違いない。気の遠くなるような話だ。
その後、蓉芙コンツェルンの企業に働く従業員の顔を見に行くのだと幸せそうな笑顔で渚佑子さんと共に出て行った。
☆
『Y1』の滞在期間も1週間を切ったある日、とんでもないニュースが飛び込んできた。
例の反転したミサイルが軍事惑星の動力炉を直撃して、地殻マントルを活性化させてしまい。その惑星を死の星に変えてしまったらしい。
どうもミサイルなどの兵器には味方に当たらないようにする装置が付けられていて撃ち落せなかったみたいだ。
そのことを重く見たアンドロメダ銀河帝国が第101方面軍第3駐留部隊を地球方面へ進軍を開始するという情報が銀河連邦から伝えられてきたのだ。
半年後には月基地に到着するらしい。
「どうするんですか?」
部隊は戦艦5隻を擁する小部隊だそうだが地球連邦に取っては十分に脅威だ。
「耐えるしかないだろうな。銀河連邦から応援部隊を送り込むには議会の承認が必要で4ヶ月掛かるという話だし、一番近い部隊から派遣されてきても最低限3ヶ月、中部隊を派遣するならば4ヶ月は必要だそうだ。」
半年後には戦争が始まり、最大2ヶ月間に及ぶ長期戦が繰り広げられるということだ。
「大丈夫なんですか?」
「情報が入ったのがあの人が居るときで助かったよ。全州知事同意の元、僕の議長としての権限強化が図られた。これから1年間、議会の承認を得ずに地球連邦のあらゆる機関を動かせる権限だ。ほぼ独裁体制と言っても過言じゃない。僕の行動を阻害できるのは渚佑子さんくらいだな。」
それでも渚佑子さんのほうが強いんだ。それは頼もしいと言うべきなんだろうな。
1週間後にリサが起きたら、全てを決めなくてはならないらしい。危機的状況であって高揚している自分と戦争などしたくないという自分。2分する自分の心を何処で折り合いをつけるべきなんだろうか。またまだ時間が残されていると思っていただけに未だに決められない自分が情けない。
次章はアンドロメダ銀河帝国軍との戦争編に突入いたします。
投稿再開は明日もしくは明後日あたりを予定しています。
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