第11話 赤ちゃんプレイをしたいそうです
インペリアルスイートから廊下で出る扉を開けてみると案の定、いつもリサを警護している滝の水さんがいた。そのまま中に入ってもらう。
完璧な計画犯だな。言い訳もできまい。
「何時間前から待機していたんですか?」
「はい。1時間前には来て待っていろという指示でした。」
丁度、『Y1』が入ってきた後くらいだな。
「ねえねえ。あゆむくん。これは何。何を調べているの?」
滝の水さんが楽しそうに聞いてくる。この人はどっちの味方だろうな。
「ええ。リサの代わりに那須議長の悪行の考察ですね。徹底的に調べておかないと。この人のことだから、口先だけでごまかしてしまうかもしれませんから、しっかりと『Y1』の『記憶』に残しておいて貰わないと。」
「止めてください。お願いします。あゆむくん。わかっててやっているでしょう。本当に怖いんですよ渚佑子さん。」
今度は那須議長が僕に縋って懇願し出す。よほど怖い目にあったらしい。不老不死の身体を持っていて、人の心を逆なでするような行為ばかりを繰り返していればキツいお仕置きが待っているのは目に見えているだろうに懲りないんだな。この人は。
「大丈夫ですよ。全てのお仕置きはリサが戻ってきてからの話です。リサの分も上乗せする必要がありますからね。」
「大丈夫じゃない! 灰にされたこともあるんだぞ。あの時は赤ちゃんからやり直したんだから。大変だったんだから。」
凄い。灰になっても復活するんだ。しかし、そこまでされてしまうようなことをやらかしたんだな。自業自得としか言いようが無い。
「どうせ貴方のことだから、赤ちゃんプレイを堪能したんでしょ。」
「そうそう。天使の微笑みで彼女の心を鷲掴み・・・何を言わせる!」
「そういえばチイちゃんが居ないんですが、誰か知りませんか?」
「そうそうチイちゃんみたいなオッパイを絶妙な舌遣いで・・・ごほん・・・うん彼女ならお帰り頂いたよね渚佑子さん。」
皆の視線が痛かったのか。ようやく自分を取り戻した那須議長が答えてくれる。
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。ええ、『織田旅館』まで送り届けておいたわ。これ以上、知られる訳にはいかない。」
渚佑子さんの凍りついた視線を浴びて那須議長が萎縮しつくしたところで答えを返してくれる。ああ疲れた。
「その辺にしておきなさい渚佑子。いま那須くんに外れて貰っては困る。卑劣な謀略を仕掛けられるのが彼の持ち味だからな。これで最前線を月周辺にシフトできるとでも思ったんだろう。その間に火星軌道にバリアを築いてしまえばいいと。」
「ちょっと待ってくださいよ。もしかして、ワザと情報を漏らして・・・。そんな・・・。」
那須議長の顔を見るとニヤリと笑われてしまった。
「2年後に予定していたことを少し早めただけだよ。余りにもタイミング良く全てのコマが揃ったんでね。月基地建設が最終段階を迎えたし、リサをあゆむくんに任せられたし、スパイが近くにいることもわかっていたから。タイミングが良すぎて罠かと思ったくらいだ。」
「そのためにどれだけリサが傷ついたか。」
「もちろん、わかっているとも。だがリサは許してくれるさ。そのためにこれまで愛情を注ぎ続けてきたんだ。次は君の番だよ。人を愛するが故に選択を迫られたとき・・・きっと僕の気持ちがわかるよ。」
酷い。言い切ったよ。この人。
「そんなのわからない。わからなくていい。僕は欲張りなんだ。一粒たりとも零すものか!」
「若いね。まあいいだろう・・・欲張り過ぎて肝心なものが取れないなんてことにはならないでくれよ。」
「全くもう那須くん。そうやって露悪的に相手を奮起させようとするのは止めなさいといつも言っているだろうが。」
はあ。乗せられてしまったみたいだ。この人たちみたいな権力も無ければ、魔法も使えず、謀略も使えない。ようやく『センサーネット入力』装置が使えるようになったばかりのヒヨッコが言うセリフじゃあ無いよな。
でも言ったからには成し遂げてみせる。もう誰も傷付いて欲しくないからな。




