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第9話 ファンタジーの住人だったそうです

「でも何故『Y1』と『Y2』だけがそんな酷いコストを払わなければいけないんですか?」


「俺がこの宇宙に地球人以外に人間が居ると知ったのは地球連邦を作り上げる10年程前のことだ。以前からある筋から地球に危機が迫っていると警告を受けていた俺は宇宙からの来訪者に備えて準備してきた。ある種の人々からは悪魔だと罵られても星間航行技術を持つ彼らには当時の科学技術では対抗できないと悟った俺は科学技術と魔法の融合を行ってきたんだ。」


 いきなり語り出した『Y1』。その表情は真剣そのものだった。口を挟むのを許さない迫力だ。


 確かに2万年の歴史により、銀河連邦の持つ技術は地球の科学技術など足下にも及ばないほど進んでいる。本当なら一方的に侵略を受ける側の人間、それが地球人だったのだろう。


「地球連邦を組織化して、友人を犠牲にしてまで銀河連邦に加盟を果たし、そこで俺の役割は終わったと思ったのだが、実際は違っていたのだよ。侵略され奴隷同然の扱いを受けたとしても銀河連邦の庇護下だ。バリア装置も彼らが設置してくれるだろうし、駐留軍を置いて他の勢力から守ってくれたはずだったんだ。」


 アンドロメダ銀河帝国のことなのだろう。


「それでは植民地支配を受け入れるべきだったというんですか?」


 それは無理だろう。銀河連邦の侵略行為により、数千万人単位の人間が亡くなっている。奇跡的に和平が結ばれなかったら、最後の1人になるまで戦い続けたであろうことは想像できる。


「ああ。今のように、いつミサイルが降ってきて、全人類に死が訪れるかわからない状況では無かったはずだ。俺は何処で間違ったんだろうな。だが例え選択が間違っていたとしても、突き進むしか道は残されて居なかったんだ。銀河連邦の基礎技術だけでも追いつくのに千年単位の時間が必要だと悟った俺はとにかくバリア装置だけでも開発設置を急がせた。だがどれだけ急がせても250年300年と時間が必要だったんだよ。」


 この人が何歳なのか、わからないが150歳が人間の限界だと言われているのだ。絶対的に寿命が足りない。


「それでは、今までにリサのような人々が沢山居たのですね。」


 この人の魂が宿った人との間で何度も魂の行き来が繰り返され、その人が死ねば次の人。


「いや違う。冷凍後すぐに保存して解凍すれば生き戻れたんだ。だがリサのときだけは数分遅れたんだ。そうだったよな渚佑子。」


 ああそうか。冷凍後すぐに解凍すれば生き戻れるんだった。


「はい。私がリサさんに重い十字架を背負わせてしまったんです。」


「そんな言い方をするな。リサも心の底から感謝していた。あれはあれで結果的にOKだったんだ。」


 そういえば、親に虐待されていたと聞いたことがある。『Y1』の魂が偶然リサの身体に宿り、『蘇生』魔法で生き戻ったときに救い出されたんだな。


「その所為で貴方の『記憶』が何度も失われてしまうなんて悔やんでも悔やみきれないのです。」


「終わったことだ。もう言うな。きっと俺が君のことをからかいでもしたのが原因なんだろう。何を言ったか覚えていないが悪かったよ。」


「ちょっと待ってください。もう一つ質問しても宜しいですか? 渚佑子さんと那須議長はどうやって300年以上生きているのですか?」


 重い空気を吹き飛ばすように最後に残った疑問をぶつけてみる。


 ああごめんなさい。せっかくのラブシーンを邪魔しちゃってごめんなさい。渚佑子さん怖いからそんな睨まないで。


「彼らは『勇者』と呼ばれる人たちなのだよ。それぞれがそれぞれの手段で寿命を延ばしている。彼らは異世界から召喚されたときに神からスキルを貰っている。『翻訳』『鑑定』『状態』『箱』といったスキルのほかにユニークスキルを貰っているのだよ。」


「ちょっと待ってくださいよ。魔法だけでもいっぱいいっぱいなのに異世界召喚ですか。」


「そうだよ。因みに俺は異世界の人間だよ。彼らのことは彼らに聞いてね。プライバシーもあるだろうから全部答えて貰えるとは思わないほうが良いと思うよ。」


 最後の質問だったはずなのに疑問が一気増えてしまった。これはどうしたらいいのだろう。


「もしかして、マイヤーさんは本物のエルフなんですか?」


「おいおい。質問するのはそこなのか? ここは僕に質問をぶつけるところだろ。」


「那須議長に質問しても、正しい答えが返ってくるとは限らないじゃないですか。都合の悪いところは、はぐらかされるに決まってる。」


「マイヤーは本物のエルフだとも時間さえ許せば俺の生まれ故郷を見せてあげるよ。しかし那須くん随分と信用されているようだね。俺も騙されたもんなあ。性格がねじ曲がって1周回って真面目に見せていただけとは思わなかったよ。」


 『Y1』も善良そうな仮面に騙されたクチのようだ。


「それにしても、あのミサイルが反転する魔法は凄いですね。あの紙には呪文か何かが書かれているんですか?」


「あれは異世界の魔法陣と呼ばれるものでね。反転の魔法陣と転移の魔法陣が組み合わせてあってね。初めに触れた物や魔法などを反転してくれるんだ。300年以上前に作ったものなんだけど、隣国に日本の領空侵犯のミサイルをバカスカ撃つ国があってね。いつか使ってやろうと作ったものなんだ。」


「へえ、それでどうなったんですか?」


「地球連邦設立直前にミサイルを撃ったときに使ったよ。少し飛びすぎて今の中国州まで飛んで行ってしまったんだ。酷い失敗作だったな。」


 歴史の教科書で読んだことがあるぞ。唯一無二の友好国に撃ち込んだことで徹底的に殲滅されたけど、他の国々は見てみぬ振りをされてしまったと書いてあったなあ。自業自得だから仕方が無いよな。


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