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第7話 ミサイルはお帰りになったようです

「リサっ。リサが・・・。」


「大丈夫だよ。あゆむくん。リサは大丈夫だ。ただこのままの状態が1ヶ月続くだけなんだ。それよりも君は大丈夫かな。僕が言うのもおかしいけど、その姿のままで1ヶ月間を乗り切るつもりなのか?」


 那須議長が僕の反対側からリサを支えるように座る。


 そこで初めて僕がドレスを着たままだったことに気付く。


「本当に大丈夫なんですか?」


「ああ3年前のときもこんな感じだったからね。それに中田くんの目の毒だ。着替えて来てやってくれるかな。彼の理性の紐が切れないうちに。」


 そこで中田広報官が僕の横で両肩に手をかけているのを思い出した。なんかヤバい雰囲気だ。


 普段ならここで軽口を叩いてくれるはずなのに無口になっているのが余計に怖い。


 僕は自分の姿を確認する。動揺したせいかスリットの入った太ももから女性もののショーツが見えてしまっている。これでは誘っているみたいだ。


 立ち上がって服装の乱れを直すと中田広報官と視線を合わせた。なんとも情けない顔をしている。自制しているつもりだったらしい。でも奥様が妊娠中だものな。禁欲中なんだ。


「僕も中田広報官のことを信じています。僕も男の子だから良くわかりますので無理はしないでください。この姿を見るくらいは何時でも見せてあげます。それで我慢してくださいね。」


 リサが聞いたら何というかわからないけど。大の大人を禁欲させることは悲劇を生みかねない。時々発散くらいはさせてあげなきゃね。


「お、俺。トイレに行ってくるよ。」


 中田広報官が席を立つ。早速、鑑賞ブツにされるらしい。まあいいけどね。


「それでは失礼して着替えさせて頂きます。」


 那須議長は何か言いたそうだったが、そこまで責任は持てない。彼には彼の発散手段があるはずだ。


 自分専用の個室に向かうと鍵を掛ける。万が一のことがあってはリサを悲しませるだけだ。自分の身は自分で守るしかないんだから。


 ドレスを脱ぎ捨て、ウィッグを外すと個室についているシャワールームに向かい、メイク落としで丹念に化粧を落としていく。これも何度も練習させられた。初めはリサやチイちゃんの手を借りていたが今では自分1人でできる。


 ああスッキリした。鏡で自分の顔を確認する。まだ何かついている気がするが、それは気分の問題でこれ以上は皮膚を傷つけてしまうらしいので止めておく。


 少し考えて普段着に着替える。本当なら士官学校の制服を着るべきなんだろうが堅苦しい格好をすれば、緊張を強いられることになる。そんなことでは1ヶ月間持たないに違いない。


 最後にトイレに行ってからリサの隣に戻る。


「ああスッキリしたようだね。僕もトイレに行ってくるよ。」


 少し我慢をさせたようで僕が席に戻るとそそくさと立つ。大丈夫だろうか。この人。


 映像装置には相変わらずミサイルが映し出されている。相当な速度が出ているのだろう。周囲に見えている星が一方向に動いて見える。今は火星から10光年ほど離れたところを飛んでいるらしい。


 リサを抱きしめながら、その映像を食い入るように見つめていると、別の映像装置に何かが映りだした。


 どうやら、宇宙服を着た人間が2人が漂っている。


「始まったようだな。」


 いつの間にか那須議長が席に戻ってきていた。


「あれは渚佑子さんと総帥なんですか?」


「そうだよ。」


「何故、『あの人』とか『総帥』とか何ですか。ちゃんと名前があるんですよねえ?」


「そうだな。それくらいなら説明してあげれるかな。あの人は自分をもう死んだ人間だと言っているんだ。だから名前なんて無くていいんだとね。だから、こういった危機の時や5年に1度の打ち合わせのときに起き出してきても決して名前を呼ばせないんだ。神聖視されるのがイヤらしいよ。そこに名前が無ければ宗教は生まれないからね。」


「なるほど、日本人らしいですね。」


 先の大戦以降、無宗教だったり、宗教嫌いの人間が大半だ。葬式仏教と言われているくらい、普段の生活に宗教を取り入れたくは無いのだ。


「そうだな。どの日本人よりも日本人らしいと言えるかな。これくらいだよ。僕が説明できることなんて、あとはあの人に直接聞いてほしい。多分、何でも答えてくれると思うよ。」


 映像装置に視線を移すと2人の前に何かが漂っていたものが一気に大きなものになった。


 カメラのズームが引いていくとそれが一枚の紙であることがわかる。


 2人でその両端を持つと次第に近付いてきたミサイルの真正面に進んでいく。


 あっ危ない。


 ミサイルがその紙に触れたか触れなかったかわからなかったが一瞬ミサイルが大写しになって、次の瞬間には消えていた。


「無事に反転してくれたようだな。」


 呼吸をするのを忘れたかのような手汗握るような光景から一転、隣から息を吐く音が聞こえた。


「反転?」


「そうだよ。向こうを見てごらん。ミサイルの後ろ姿が映っているよ。」


 那須議長が指差した映像装置には確かに反対方向に進んでいくミサイルの姿が映し出されていた。


「あのミサイルはどうなるんですか?」


「アンドロメダ銀河の軍事惑星まで飛んでいくだろうね。多分、撃ち落とされるんじゃないかな。どんな威力のミサイルなのかわからないけど。」


 あの2人が映し出されていた映像装置にはもう何も映ってはいなかった。ただ星たちが瞬いている姿だけが映し出されていたのだった。

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