第6話 ミサイルはなんとかできるようです
「あゆむくんもリサを説得してくれないか。このままでは強制執行するしかないんだ。」
なかなか首を縦に振らないリサに業を煮やしたのかこっちに振ってくる。全く何も説明も無しにこの状況を買えというらしい。一体、どんな悪徳商法だよ。
でもまあ、僕にできることなら何でもやってみよう。多くの人々が悲しむのは見たくないからな。
「リサ。そんなにも嫌なことなのか? どんなことがあってもリサを守ってみせるよ。してほしいことがあるのなら、何でも言ってくれ。」
もう大盤振る舞いだ。この先に何が待っていようとも僕にできることは君を守ることしかない。
「よくもまあ。そんなことを言えるわね。この後、どんな要求をされるか、わからないのよ。」
「命を差し出せと言われても差し出せるよ。そんなことでリサが救われるのならね。」
「・・・ああもう。これじゃあ私が悪者じゃない。わかったわよ。わかりました。じゃあ、あゆむくんのこれからの1ヶ月いや1年を頂くわね。」
「うん。一生でも大丈夫だよ。」
「それじゃあプロポーズみたいじゃないの。」
「うん。僕はそのつもりだったけど。」
「そうよね。そう言う人だものね。パパは憎まれ役をよろしくね。あゆむくんをこの世界から奪い取ってきて私に頂戴ね。そういう役は慣れているから楽勝でしょ。」
「ああわかった。あゆむくん。とりあえず1ヶ月間はリサに付きっきりになると思ってくれ。士官学校や高等学校、そして『織田旅館』の説得はこちらでやっておくよ。」
「ところで何故、那須議長はここにいらっしゃるんですか? 確かスペースコロニーを離れられないと言っておられましたよね。」
ミサイルの事前情報があったのなら、なおさら地球連邦軍の本部で指揮を執っているはずだろう。
「いやぁ。中田くんをガードするアイデアを出したのは僕なんだ。だから結果がどうなったか早く知りたくてね。コッソリとやってきたわけなんだよ。今日の御披露目はオジャンだけど、1ヶ月後には仕切り直すからね。そのときは頑張ってくれよ。」
うわー最悪だ。この人。僕が嫌がるのを承知の上でそんなアイデアを出すなんて。
「まさか。那須議長がホモだなんて。」
「はっはっは。君も言うね。もし目覚めたら言ってくれ。初めては僕が相手をしてあげよう。もちろん性転換してからだけどね。」
性転換をすれば男だろうが何だろうが構わないらしい。身の危険を感じるどころじゃないぞ。
「では私は地球であの人を起こしてきます。あゆむくん。くれぐれもリサのことよろしく頼みます。」
渚佑子さんが立ち上がる。
「あゆむくんへの説明はあの人に任せるから、よろしくと伝えておいてください。」
那須議長が渚佑子さんに伝言を頼んでいる。まだまだ説明は先のことになるようだ。
「また立ち会わないつもりなんですか?」
渚佑子さんが片眉を上げる。
「ええあの人に会いたいと思う人々の邪魔になりますからね。それに念のため当分リサについていてやりたいんですよ。ああっ。あゆむくんが信用できないとかいうわけじゃないんですよ。あゆむくんが1ヶ月間寝ずに付きっきりというわけにはいかないでしょうから交代要員ですよ。リサには僕とあゆむくんだけしか居ないんでね。」
「マイヤーさんはどうされます?」
「私もここで待っていることにします。あの人の活躍はこの特等席から見守ることにします。それにあの人と阿吽の呼吸で手助け出来るのは貴女しかいないもの。よろしく頼みましたよ。」
「はい。必ず、ご期待に沿えるように致します。では失礼いたします。」
渚佑子さんはそう言うとその場から消えた。『ゲート』で何処かへ移動したらしい。
その後、地球連邦軍の将軍たちが入れ替わり立ち替わりやってきて那須議長と協議をしている。
その話ではここが作戦司令部となるらしく部屋に各種機材を設置していく。その1つの映像装置に望遠鏡が撮影したミサイルが映し出されている。これは現実なんだ。ミサイルが本当に月に向かってきているんだ。
怖く無いかと言われれば嘘になる。でも僕の居場所はここリサの隣しか無いんだ。
「怖くなったのかい?」
僕の肩に中田広報官の手が置かれる。
「中田広報官こそ、奥様のところへ行かなくて良いんですか?」
「ははは。今、リサの近くを離れたら、三行半を突きつけられてしまうよ。それだけは避けたいのが本音。だけど俺も男なんだ。こんな事態を間近で見れるチャンスを棒に振れるほど冷淡にはなれない。不謹慎かもしれないけど興奮しているよ。」
そのときだった。突然、リサの身体が僕に寄りかかってくる。おかしい。揺すっても反応が無い。呼吸はしているようだが急に気を失ってしまったかのようだ。
「リサ。リサ! リサっ!!」




