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第3話 地味なプレイも必要なのだそうです

 呼吸をするのを忘れていたらしい。突然、肺に入ってきた空気に咳き込む。


「ちょっと。大丈夫?」


 激しく咳き込む僕の背中を彼女が擦ってくれる。驚かされて悔しいやらこんな醜態を晒して情けないやらで僕の心の中は複雑だ。


「・・・・・。・・・・・・・・・・。大丈夫じゃないです。」


 両親が航空機事故に遭ったときも驚いたが、それ以上の衝撃だ。思わず何も悪く無い彼女を睨みつけてしまった。そして会議室を改めて見回してみると四隅には地球連邦軍の軍服を着た人物が直立不動で立っており、油断なくこちらを窺がっていた。


 何故、今まで気付かなかったのだろうか。おそらく壁と同化していて気配が無かったのだろう。そういったことが出来る人物が配置されているのだ。


「自己紹介を続けてもいいかな。次は貴方ね。」


 彼女がにっこりと微笑む。綺麗な女性がこれだけ近くに居て微笑んでくれているのに何も感じない。僕はどうしてしまったんだ。


「服部あゆむ。17歳。日本州千葉県立千葉第1高等学校の2年生です。」


「ご両親は何をしている方?」


「ごめんなさい。もう止めませんか? 全て調べてらっしゃるのでしょう?」


 これだけの権力を持っているのならば、僕のSNSアカウントから僕の知らない事情まで調べ上げてあるはずだ。何か凄くイライラしている。僕はここに何をしに来ているのだろう。それを知らなくては落ち着いていられない。


「まあね。でも貴方から聞きたいの。」


 僕は心を落ち着けるために深呼吸を繰り返してから続ける。


「両親は遺伝子学者でした。既に亡くなっていて、今は両親の友人に身を寄せて暮らしています。『センサーネット入力』装置を使って脳から直接意思をヴァーチャルリアリティに伝達できない。いわゆるOLDTYPEです。」


 両親は自分たちの遺伝子がヴァーチャルリアリティに対して優性なのか興味があり、僕が3歳のころからヴァーチャルリアリティ時空間でいろいろな活動をさせて耐性試験を受けさせてきたのだろう。OLDTYPEと解ったのが両親が亡くなった後だったのは良かったのかもしれない。


「ごめんなさい。言いたくないことを言わせてしまったみたいね。」


「いいんです。もう済んだことです。その僕に蓉芙コンツェルンのトップがどんな用件なんでしょうか?」


「そう急がないで。そう言いたかったのだけど無理そうね。ごめんなさい不安にさせてしまって。」


 途端に悲しそうな顔をする。彼女が悪いわけでは無いことは解っているのだが心が抑えられないのだ。こんなことは初めてである。


 何も経験をしていない只の高校2年生が強大な権力者と対峙しているのだから仕方が無いという思いと殆ど同年代の女性に対する態度じゃないという相反する重いが交錯した。


「こちらこそ、ごめんなさい。僕に相談したいことがあったんですよね。」


 自分でもビックリするくらい、優しく落ち着いた声が出る。後者の意思が強かったらしい。


 少しだけ彼女の顔に笑顔が戻る。


「そうなの。貴方を地球連邦軍にスカウトしたいのだけど。いいかしら。」


 これはこの場所に呼ばれたときから想像していたことだ。『黄昏のフォボス』という宇宙戦争モノのゲームのプレイスタイルを褒められ、実際に地球産『ミルキーウェイ』を製造しているであろう蓉芙コンツェルンのビルに呼ばれたのである。想像しないほうがおかしい。


「お断りします。」


 この回答は既に出ている。加奈さんの傍を離れたく無いのが本音だ。何も話を聞いていないが地球連邦軍ということであれば、派遣先は月基地か火星基地だろう。まさか日本州の警備をやらせて貰えるとは思えない。


 それにOLDTYPEでも20倍のヴァーチャルリアリティ時空間が使える僕にピッタリの仕事が何処かにあるはずだという思いのほうが強い。万が一、地球産『ミルキーウェイ』がゲームと同じシステムならば、OLDTYPEは不利でしかない。本物の宇宙空間ではゲームのようにはきっといかない。


「そうなの。でも諦めないわ。地球連邦軍では君の力を必要としているのよ。」


 彼女の強い意思は伝わってきたが悪意は感じられなかったのでホッとする。権力を使って強引に物事を進めようというつもりは無いようだ。


「それでは失礼します。」


 半ば強引に逃げ出してきたところ、彼女はSNSを通じて情報を送ってきた。それも明らかにトップシークレットばかりで周囲に漏れたらとSNSで情報を読んだときに思わず周囲を見回してしまった。


 やはり火星基地勤務のようで半年毎の交代勤務らしい。そして僕の役目はある意味予想を裏切らないものだった。


 アンドロメダ銀河帝国軍の末端部隊が押し寄せてくるらしい。これだけでも世間に漏れたらパニックになる情報だ。


 相手の装備も『ミルキーウェイ』と同じようなロボット兵器と戦艦だそうで帰り道のエネルギー量を計算に入れて、毎月1週間の攻撃を耐え切らなければならないらしい。


 『ライトニングブラスト』の放電範囲が1万倍拡大した兵器あるそうで、それを基地から撃ちあげるだけの簡単なお仕事だそうだ。


 10人1組で使っているそうなのだが、僕ならば1人で済むらしい。本来なら5人1組で上手く連携できればいいがバラバラで穴だらけの壁になってしまう。人材も使用する機材も消耗品である弾も10分の1で済むということだった。


 もちろん給与も破格だ。10年も働けば一流企業で一生働くだけの金額になるうえ、恩給も着くらしい。


 少しだけ心を動かされたのだがSNSを通してお断りした。


 順風満帆とは言い難いが別にお金に困っているわけでも無い。そんな博打・・・それも自分の命を懸けた大博打を打ちたいなんて思わない。


 その後、何の音沙汰も無く、お嬢様の気まぐれだったんだなと思っていた。しかし、本当の意味で僕の人生を揺るがす驚くべき事件が起きたのは、それから数週間後のことだった。

『そこで断るか?』と思われた方、ゴメンナサイ。

主人公がどのようにして心を動かされるかが、この小説の醍醐味なんです。

もう少し、お付き合い頂けると嬉しいです。

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