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第5話 ミサイルが飛んでくるようです

あれだけ前話の後書きで煽り文章を書いておいてなんですが・・・・主人公の女装から入ります。

嫌いな方は読み飛ばして・・・スルーしてくださいね。

「これが私。」


 パーティー当日の朝。ロングヘアのウィッグを付け、メイクを施し、ドレスを着て、ハイヒールを履いた自分が鏡の前に立っていた。


 自然と女性言葉が零れ出す。


 そのままクルリとターンをしてみせる。特訓の甲斐あって綺麗なターンだ。


 全くの別人だ。これなら僕を知っている人間がニュースに流れた写真を見てもわからないに違いない。いやわからないでほしい。しかもパーティーの参加者も僕を知らない人たちばかりだ。


「・・・あゆむくんよね。凄い。ここまで化けるとは思わなかったわ。」


 部屋に入ってきたリサがポカンと口を開けたまま固まってしまう。隣では同じくチイちゃんも固まっている。チイちゃんは再始動できていないみたいだ。


「ワーオ。ワンダフル。ビューティフル。キスしていいですか?」


「いいわきゃねえだろ。」


 続いて入ってきた中田広報官が飛びついて来ようとするが寸前で渚佑子さんに止められている。助かった。


「でも君とチイちゃんのエスコート役は俺だよね。今日はなんて幸運な日なんだ。」


 これは本当だ。リサは人波を泳いで笑顔を振りまかなくてはならないらしい。


「チイちゃんにセクハラすんなよ。」


「あゆむくんって本当に俺のこと色情狂か何かと勘違いしているよね。」


「違うのか?」


「違うよ。それにどちらかといえば、あゆむくんのほうが俺のタイプだ。」


「・・・ホモだったのか?」


「その姿でそれを言うかな。違うよ。君の今の胸のように小さい胸のほうが好みなんだ。」


 うわー。胸の大きな女性は対象外という真正のロリコンらしい。ヤバイよこの人。


「エ・・エスコートするだけだからな。触ったりするなよ。」


 思わず視線を避けるように両手で胸を隠す。男に胸を触られたからってどうってことは無いんだが、万が一触られて感じてしまったら自分を許せなくなりそうだ。この人って恋愛経験値高そうだものな。どんなテクニックを持っているか、わかったものじゃない。


「ふふふ。じゃあ行こうか。」


 今の笑いはどういう意味なんだろう。なんか見透かされているみたいで嫌だな。


 中田広報官の手は僕の腰に触るか触らないかの位置に置かれている。


     ☆


 またあの長い廊下を歩いていく。今日のカメラマンの数は一段と増えた気がする。フラッシュがハレーションをおこして真っ白になっているところを中田広報官にエスコートされて堂々と歩いていく。


 第一関門を突破したらしい。


 会場に入ると恰幅のいい男性と若い女性で埋め尽くされていた。それも背が小さくて胸が大きい女性と背は中ぐらいで胸が小さい女性にハッキリと分かれている。


 中田広報官の趣味はバレているらしい。きっと奥様がそうなのだろう。


「あゆむくんの役目は中田さんに側室を押し付けられないように仲睦まじいところを周囲に見せることよ。よろしくね。」


 それは・・・。僕に死ねと。


「中田さんの役目はあゆむくんのエスコートだけど、もしも私の親友を泣かせたら、どんな手段を使ってでも引き離すからね。」


 一応僕に手を出さないように釘は刺してくれるらしい。


「リサ。僕に中田広報官のガードをさせるつもりで連れてきたんだな。」


 リサの親友である中田広報官の奥様を悲しませないために妊娠中の奥様の代わりにガード役をさせるつもりだったんだ。


「それだけじゃないわよ。あゆむくんの御披露目もしたかったし、少し息抜きもしたかったのよね。」


 全部、リサの欲望じゃん。


 そのときだった。遠くのほうからアラーム音が鳴り始めると会場中の携帯端末のアラーム音が鳴りだした。


「地震? いやここは月基地だから違うよね。なんだろう。」


 リサのほうを向くと顔色が真っ青になっていた。僕は彼女を抱き締めながら、ポーチに付けられたキーホルダー型の携帯端末に手を触れると右目だけが簡易ヴァーチャルリアリティ空間に入り込む。


 超小型の携帯端末はディスプレイの代わりにヴァーチャルリアリティ空間に映像が投影されてそれを視認する。


 そして携帯端末を操作して、アラーム音の正体を突き止めた。


「リサ。大丈夫だ。いつものEARTHアラートの誤報だよ。」


 数年に1度くらいあるのだ。地球に危機が訪れると銀河連邦から通知がくるらしい。隕石だったり、強力な宇宙線が降り注ぐとかで1時間以内に建物内に避難して半日はその場所で待機しなければならないことになっている。


 そのほとんどが間違った情報でいまどき信じている人間なんて1人も居ないが従わないと即実刑の対象になることから、渋々従っているのが現状だ。


「・・・誤報・・・じゃないの。本当・・・なのよ。・・・ここは危険だわ。部屋に戻りましょう。」


 誤報じゃないってどういうことなんだろう。リサの余りにも真剣な表情に僕は何も聞けなかった。後はホテルの誘導員の指示に従ってパーティー会場を後にした。


     ☆


 インペリアルスイートルームに戻るとそこにはマイヤーさんと那須議長の姿があった。


「リサちゃん。大丈夫? こんな結果になって、ごめんなさいね。」


「だって・・・あと2年は・・・残されているはずだったのに・・・。」


 今にも崩れ落ちそうな姿のリサを支えて手近なソファーに座る。


 あれっ。チイちゃんが居ない。何処に行ったのだろう。まあホテル内には居るよね。


「アンドロメダ銀河帝国の軍事惑星から発射されたミサイルがこちらに向かっているわ。どうしても、あの人の力が必要なのよ。わかってね。」


 マイヤーさんから、とんでもない情報がもたらされる。外銀河から飛んでくるようなミサイルなんて想像を絶する威力なのだろう。そんなものが地球上に落とされたら、1度に数億人規模で人が亡くなるに違いない。


「ミサイル・・・なんですか?」


 火星でのロボット兵器同士の戦いどころじゃない。いや、ある意味、後方からの援護射撃という意味では当然のことなのかもしれない。


「そうよ。今までも何度もミサイルが飛んできているのよ。銀河連邦に加盟してから100年の間に地球が50回は壊れた計算の量のミサイルが降り注いでいるの。ただここ200年では数年に一度、十数年に一度だったの。それが・・・。」


 前回、EARTHアラートが鳴ったのは3年くらい前だったはずだ。本当ならあと十年は大丈夫だったはずなのだろう。


「脅かしておいて悪いが地球は50年前に完成したバリア装置により守られている。ミサイルの目標はこの月の核融合炉らしいんだ。どこからか情報が漏れたらしい。バリア装置は地球にある発電所でなんとか維持可能だが人々の生活はそう言うわけにはいかない。暴動も考えられる。だから、あの人の力がどうしても必要なんだ。わかってくれリサ。」


 この事態を収拾する手段が残されているらしい。そしてそれはリサが顔面蒼白になるほど、嫌なことらしい。

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