第4話 愛人がいると思われているようです
「あー疲れた。」
ようやく部屋に戻って来れた。あの後、マイヤー様と一緒にリサの友人だということをパーティーじゅうの人たちに説明していったがどれだけの人が信じてくれただろうか。それを噂として広めてくれるかは全くの未知数だ。
「お疲れ様。来週も頑張ってね。」
リサが気軽に言う。
「やっぱり来週は僕も出なきゃならないのか。」
来週のパーティーは気が重い。綺麗な女性が大挙してやって来るのは目の保養になって良いと思うが。僕の側室候補だなんて。
「何よ。もう怖気づいたの?」
「僕は日本人なんだぜ。側室だの愛人だの受け入れられないってわからないかな。」
現代の日本人で側室を持っているのは天皇家の人々だけだ。真日本国憲法が制定する以前から側室を持っていたのは綾仁陛下だけだったが、日本国憲法下でも側室を持ってはいけないわけじゃない。天皇家の人々が明治以降自主的に側室を持たないようにしていただけである。
高卒に対して一流企業が門戸を開けるようになっても人口減の勢いが止まらなかった時代は男女に関係無く甲斐性のある人間は愛人を持ち多くの子供を作ることが推奨された時代もあったが、日本の人口が1億人前後で推移するようになってからは、1夫1妻制に落ち着いている。
「無理よ。皆の前で堂々とチイちゃんとキスしたし、渚佑子さんと腕を組んだりしたもの。正妻公認の愛人が居ると思われているわ。」
「渚佑子さん・・・もなのか?」
「渚佑子さんを知っている人物なら、なおさらあゆむくんを次期総帥と思うでしょうね。」
リサが次期総帥とズバリ言ってくる。そんな器じゃないんだけど。
そういえば、白壁少将も渚佑子さんの名前を持ち出した途端に動揺していたよな。それほど知る人ぞ知る人物なんだな。
「なんとかならないのか?」
「なんとかって次期総帥のこと? それなら大丈夫よ。現総帥が生きているかぎりは絶対にならない。それに5年に1度起きてきて、蓉芙コンツェルンの未来像を描いてみせるだけの人よ。次に起きてくるのは2年後かしらね。」
「違うよ。来週のパーティーでそんな役目を押し付けられることだよ。」
その全てを断るつもりだけど、目の前に垂涎の容姿の女性が出て来た場合、本当に断れるだろうか。欲望に負けないだろうか。
それに今日だけで終るとは限らない。この先どんな手管を使って迫ってくるかわからないのだ。
「そんなに嫌なの? 全面的に協力してくれるなら、出来ないことは無いけど。」
「何でもするよ。だから助けてくれ。」
それこそ、地球連邦軍に入って火星へ行けと言われれば行くのもいい。リサだけでも不相応なのに側室だとか有り得ない。
☆
「リサ。初めから、お前。この積もりだったな。」
秘策があると聞き、リサについていった先はフェアリーズドライブのリサたちのドレスを選んだ店。
「なんのことかしら。総帥として不適格になればいいんでしょ。あゆむくんの女除けにはこうするのが一番いいのよ。」
僕が選んだドレスは僕が着るために用意されたものだったらしい。総帥として不適格どころか男性として不適格の烙印を押されてしまうと抵抗したが『何でもする』と言ったことを出されてはどうしようも無かった。何であんなことを言ったんだろう。
「せめて、トランクスを穿かせてくれないか。」
幸いロングドレスだったのでスースーするほどでは無いが心許なくて仕方が無いのだ。
オフショルダーのドレスは身体にピッタリとして胸パッドも1枚で済んだ。特殊メイクで胸を作るという案もあったらしい。このときばかりは心底胸元が開いたドレスを選ばなくて良かったと思った。
「ダメよ。あゆむくんが選んだドレスじゃあラインが出ちゃうもの。Tバックが良いんだけど女性物のショーツにしてあげたでしょ。それで我慢して頂戴ね。」
初めTバックと言われたときには首を括ろうかと思ったが、次に布地の広いパンツが出て来たときに思わず了承してしまったのだ。嵌められたらしい。それでも女性らしいラインを出すのだとかで、お尻にパッドを入れられてしまった。
それから1週間掛けて特訓が始まった。一番の難関はハイヒールを履いて歩くことだった。しかも笑顔を振り撒きながら歩かなくてはいけないらしい。
ペンギンか子鹿のような足取りで毎日ふくらはぎが吊るくらい歩き回っている。
もちろん化粧もする。当日はホテルのメイクアップアーティストが綺麗に仕上げてくれるというが自分でもある程度手直しできるようにしなくてはいけないらしい。
次話からいよいよ山場に突入します。
リサが話すのを嫌がっている本当の理由とは一体何か。
総帥とは一体どのような人物なのか。
今、この地球で何が行われているのか。
そして、銀河連邦、アンドロメダ銀河帝国との関わり合いは!




