第1話 彼女を待たせているようです
お待たせいたしました。
「危険。ついていく。」
渚佑子さんに月まで『ゲート』で送って貰った。到着先はチルトン・イン・ザ・ムーンのインペリアルスイート。蓉芙コンツェルンで100年先まで押さえてあるらしい。
渚佑子さんはいつも通り帰っていくんだと思っていたのだが、今回はボディーガード役も兼ねているらしい。
荷物を置いて暫く休憩を取ったあと出掛けることになった。
行き先は世界でも指折りの高級ブランドのブティックが建ち並ぶ通り。通称フェアリーズドライブ。
今回、僕の衣装は士官学校の制服で良いのだが彼女たちはドレスを新調するらしい。しかも僕に選んで欲しいという。
「僕の好みで選ぶのか?」
「そうよ。あとで一般参加で友だちも来るんだけど、その子の分もお願いしたいの。」
行われるパーティーは蓉芙コンツェルンの総帥の直系が行うもので、2日間に渡って行われるらしい。1日目は身内だけで行い、2日目は蓉芙コンツェルンの取引先向けに行われるらしい。
「いやそれは無理じゃない? その人のことを知らずに決められないよ。」
「普段、ドレスなんか着ない子なのよ。でも私とお揃いなら着てくれると思うのよね。・・・そうね。身長はあゆむくんくらいかな。あゆむくんの好みじゃないと思うくらいスレンダーな身体つきをしているわ。」
めちゃくちゃ巨乳好きと思われているらしい。
僕と同じくらいの身長でスレンダーな身体つきねえ。ボーイッシュな感じなのかなあ。
想像してみる。
うっ自分の女装姿になってしまった。気持ち悪い。
しかも既婚者じゃないと下着をつけないか極力ラインが見えないものをつけるらしい。双丘が無ければパカパカしていて少なくとも胸元が開いたドレスは着れない。身体のラインがわからないゆったりしたものかな。残念だけど。
チイちゃんはアッサリ決まる。ひたすら胸に注目が集まるタイプだ。お腹まで切れ込んだドレスは下が寸胴でも気にならない。むしろチラリと見せる筋肉質の太ももがたまらない。
リサは何を着せても似合うので逆に困る。いっそのこと、シースルーはどうだいというと渚佑子さんに睨まれた。ヤッパリダメみたい。
結局は店員さんが勧める流行に沿ったドレスになった。
「あっ。コレコレ、これがいいよ。スレンダーな彼女にさ。」
リサが流行のドレスを着替えていくうちの見つけたのが、オフショルダーと呼ばれるタイプのドレス。片側だけ肩紐があるドレスは色白だという彼女にピッタリだと思う。
「渚佑子さんはドレスを着ないの?」
いやそんなに睨まなくても無理強いはしないけどさ。
「正装。あるからいい。」
そして出てきたのは裾を引き摺るほど長いマント姿。確かに何処の国のかはわからないが勲章までついている。正装には違いない。違いないけど違うよね。
「それは、パーティーで女性が着る衣装じゃないでしょう。」
「ダンスも踊れる。」
「そういう問題じゃない。折角、キレイなのに何故隠すんだよ。そうは思わないかリサ。」
少女じゃない渚佑子さんに美少女と言っても失礼だが、『美少女』が一番ピッタリくる。
「ほら渚佑子さんは男の視線で汚してはいけないというか・・・。そっと、しておこうよ。」
「そうなのか? そうだ。じゃあ、着物なんか。良いんじゃないかな。」
真っ赤な振り袖が漆黒の髪の毛に似合いそうだ。
「何故、貴様がその顔で言うんだ。貴様はあの人じゃない。違うんだ。」
「そうよね。真っ赤な振り袖を着たら日本人形みたいよね。振り袖なら持っているんじゃない?」
渚佑子さんは頷く。持っているらしい。
いや違う。そうじゃない。
小さい見た目で考えちゃ駄目だ。大人の女性なんだから、渋めの柄の襟から見える白いうなじから色気が漂うような。そんなシックな装いでも十分に綺麗に見えるはず、正統派美人だ。
「違うよ大人の女性ならもっと渋い柄でも似合うよね。白粉も薄めでいいよ。」
「なんで? 渚佑子さんは永遠の美少女だよ。汚しちゃ駄目でしょ。」
美少女なのはわかるけど、永遠の美少女って何処のオッサンだよ。
「リサこそ何を言っているんだ。渚佑子さんも1人の女性だよ。好きな男性もいるだろう。リサのその一言で縛り付けているんだ。生涯結婚させない気かよ。いくら何でも酷いぞ。」
多分だけど、渚佑子さんが主として仕えているのはリサだと思う。そのリサにそんなふうに言われてしまったら結婚なんかできるはずも無い。何でこんな単純なことがわからないんだ。
もちろん世界中の有名ブランドが集まるフェアリーズドライブだから、着物もあった。そこに強引に渚佑子さんを連れ込む。
「これを私に?」
嫌だとは言わない。それで十分だ。溜め込んだ小遣いと士官学校の教職代をリサに前借りしても、西陣織のレプリカが精一杯だったが、それをプレゼントした。
加奈さんの女将姿で目が肥えていたのだろう。見立てた着物を着た渚佑子さんが現れるとリサもチイちゃんも溜め息しか出ないほどの美人に仕上がっていた。
「どうだリサ。」
「あゆむくんが大金をはたいて買ったプレゼントを渡す相手が私でもチイちゃんでも無いというのは気に食わないけど。参ったわ。」
うん。ごめんなリサ。チイちゃん。
謎は深まるばかり。
一部の読者様は察してらっしゃると思いますが・・・。




