第11話 派手なプレイはお預けのようです
「凄いよ。ケンちゃん。なるほどロボットの構造を熟知しているケンちゃんにしか出来ない技だね。」
今までダメージを分散する事ばかり考えていたけど発想の転換だ。そう言われてみるとコックピットを中心としてパーツが接続されているのだから、ガードし易いような同じ場所の攻撃よりも通りやすくなるのは確かだ。
「ケンちゃんって頭良いのね。」
リサはもっと頭が良いイメージだったのになあ。
「そうお。もっと言って、もっと言って!」
落ち込んでいたケンちゃんが立ち上がって胸を張ってみせる。
全くすぐに調子に乗るんだから。扱いやすくて良いんだけどね。
「僕も同じ作戦で行ってみるよ。」
ケンちゃんの攻撃方法を聞いて思いついたことがあるのだ。これが成功すれば面白いかもしれない。
「難しいんだぞ!」
確かに何処か1点に向けて角度とかを計算しながらの攻撃は大変そうだ。でも分散攻撃で守りにくくするという案は使い易いと思うんだよね。
「確かに難しそうだよね。でも僕なりのやり方にアレンジしてみるよ。」
「何か案があるのか?」
「うんまあね。上手くいったら面白いものが見れるよ。じゃあ僕の番だから行ってくるね。」
☆
僕の攻撃は25倍のヴァーチャルリアリティ時空間の利を生かすのが主流だ。相手のモーションを見た後でも十分に時間があるので判断を変更していくのだ。勢い直線的でカクカクした動きになる。
出会い頭に攻撃を貰うことはあっても、ほとんど被ダメージが無い代わりに、与えるダメージも少ないのが欠点なのだ。
基本的なやり方は変えない。レイピアを持って、相手の攻撃を回避しながら狙った数ヶ所にレイピアを突き出す。一点突破だとそこを守られてしまうが複数箇所ならガードが間に合わない可能性が高い。
よし入った。
オリハルコンでコーティングされているとはいえ、どうしても関節部分につなぎ目があるのだ。その1ヶ所に深くレイピアの先がめり込む。そしてすかさずビームライフルに持ち替えて穴が開いた箇所にぶち込む。
1分間に20発の弾丸が機体内部に吸い込まれていった。
すぐにキュウウンキュウウンと警告音が鳴り響くと緊急脱出ポッドが背中部分から排出されるはずが中々出て来ない。
「そこまで! 救護班出動求む。」
中田広報官が少し焦った様子で止めに入る。
攻撃を止めて後方に下がって待っているとやがて整備工場長の親父っさんが姿を見せた。
「これは誰が?」
「あっ僕です。」
僕は機体から出て親父っさんのところへ行くと攻撃方法を伝えた。
機体内部からみると機体の外側とコックピットにオリハルコンが使われており継ぎ目に被弾しないかぎり、ビームライフルの弾丸とは言えどもコックピット内部には入り込まないのだがその他の金属に対しては貫通していく。
つまり外周部のオリハルコンとコックピットのオリハルコンに跳ね返りながら推進力が続くかぎり貫通していくのである。丁度、人間の耳の穴から散弾銃をぶっ放したみたいなもので周囲の頭蓋骨に跳弾しながら内部の脳みそを破壊尽くすのである。
「それはまたエグいやり方を考えついたな。脱出ポッド出口の周囲に弾頭のオリハルコンが食い込んで出て来やがらねえじゃねぇか。」
士官学校の授業で習ったのだが、ビームライフルの弾丸が間違って味方に当たっても貫通しないようにコーティングのほうが弾丸よりも硬く作られているそうだ。
「どうなるんですか?」
拙いな。最後は脱出ポッドがあるからとかなり長い間、引き金を引いていたのだ。1・2発で止めておけば良かったかも知れない。
「全部解体して取り出すしかねえぞ。これだけ破壊し尽くされていたら10日は掛かるな。」
10日間も脱出ポッドの中に閉じ込められたままのパイロットはどうなるんだ?
「それじゃあ、中のパイロットは餓死ですか?」
中に居るパイロットは死なないと思ったから出来る技だ。幾ら決闘だからと言っても殺したくはない。相手はどう思っているか知らないが。
「そんなわけないじゃろう。士官学校で習ってないのか? コックピット内部には1年分の非常食が入っているぞ。まあ排出口も閉じているから、糞や尿の臭いは溜まっていくばっかりじゃがの。」
そうだった。宇宙空間で回収されるまでの間生きていられるように非常食が乗せられてはいるのだった。尿は循環して飲み水に変わるが糞と尿の臭いは毎日外に放出される仕組みになっているのだ。
「あゆむくん。スッゴくカッコ良かったよ。ところでどうやったの?」
これだ。リサは僕を上回る30倍のヴァーチャルリアリティ時空間の持ち主だ。僕が出来る技はほとんど出来ると言っても過言じゃない。
「まさか真似しようなんて思っているんじゃ無いだろうな。見ていなかったのか? 相手は脱出ポッドの中に閉じ込められたんだぞ。」
「だって。弾倉にある弾丸を全て撃ち込んだら気持ちいいと思わない? 相手はこの私をバカにしてくれたんだから、これくらいの報復は当然よ。」
弾倉にある200発の弾丸を全て撃ち尽くす気らしい。怖ええよリサ。よっぽど手袋を投げつけられたことを根に持っているらしい。
その日のリサの対戦相手は機体背中の脱出ポッドの排出口が開かず、警告音さえ鳴らず、機体内部はグチャグチャで解体するのに1ヶ月は掛かるという話だった。
そしてこの手段は地球連邦製『ミルキーウェイ』の設計変更にもおよび、暫くの間訓練では禁じ手となってしまった。結局、地味に少しずつダメージを与えるしかないようだ。




