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第10話 友人が見て気付いたようです

「痛い。いい加減にしなさいよ。」


 僕が避けたので白い手袋がリサの顔に当たる。


「避けるなよ! 卑怯者め。」


 性懲りもなく授業中に士官候補生がチョッカイを出してくる。那須議長には即刻通報して欲しいといわれているが僕はそこまで性格は悪く無いつもりなので出来る限り穏便にやり過ごす。


「地球連邦憲章第10条第1項民族的宗教的習慣は同一民族、同一宗教内で行うべきで他の民族、宗教に対して行えば、どんな正当な行為であろうと違法行為とみなす。従って貴方たちに取って手袋を投げつけて決闘の申し込みを行う行為は正当であっても、僕たちの民族にはそんな習慣なんて無いんです。寄って軍に通報しますが宜しいでしょうか?」


 報道の自由の名の下や冗談が冗談にならない表現に対する常識を定義した条文で最低でも懲役刑とされている。当時は表現の自由に対する検閲だとか論議になったがそもそも表現の自由さえ無い民族、宗教もあるのだ。それ自体が民族的宗教的な習慣を侵害しているとされた。


 元々が正当性も無い表現に適用される場合が多かったためか。現在においては民族的宗教的考慮加味した表現を行うのが一般的になっている。


 だが仮にも地球連邦軍に所属する士官候補生が地球連邦憲章を犯せば、天に唾を吐く行為であり厳罰の対象になっても可笑しくは無い。


「私が買うわ。そのケンカ!」


 せっかく相手が怯んで引いてくれそうだったのにリサがぶち壊してくれた。これで何度目だろう。


「君たちも『ミルキーウェイ』パイロット候補生ならば、戦闘訓練で堂々と戦いなさい。わかったね。」


 そして大概、中田広報官が決闘の方法について仕切り始める。同じパイロット候補でも階級は少佐なんだから決闘を止めろよ。


 今回の相手は3人でこっちはケンちゃん、僕、リサの3人が戦うことになった。


 格納庫から訓練用の機体が出される。訓練用と言っても塗装がされていないだけで装備は全く同じだ。かこには機体にダメージを与えない訓練用の武器もあったそうなのだが、避けるという動作がおざなりになる傾向があったため廃止になったらしい。


 訓練用のフィールドは1キロメートル四方の仕切られた空間で行う。


 まずはケンちゃんが行く。これまでの戦歴は10戦3勝とあまり良いとは言い難いがここ5戦では2勝と徐々に勝ち星があがってきている。


 エリート中のエリートである士官候補生はゲームなんぞやらなかったのだろう。『黄昏のフォボス』を出た当初からやり続けているケンちゃんのほうが『ミルキーウェイ』を滑らかに操作できているのだが、如何せん相手は戦いのプロとして養成されてきたこともあってか、相手の方が躊躇が全く無いのが大きい。


 目の前の戦いでも手数はほぼ互角ながら相手のほうが芯で捉えている分、ケンちゃんのほうが被ダメージが多い。


「そこまで!」


 ケンちゃんの機体に対するダメージが90パーセントを超えたところで中田広報官の制止が入った。


 そのときだった。突然、キュウウンキュウウンと警戒音が鳴ったと思ったら、相手の機体からボール状の何かが飛び出してきた。


 それはフィールドの壁にぶつかり停止するとハッチが開き、中から人が出てきた。どうやら緊急脱出ポッドのようだ。


 緊急脱出ポッドとは最終隔壁であるコックピットのすぐ外側にひびが出来た場合に操縦者を強制的に排出するシステムだ。


「肉を斬らせて骨を絶つだ。」


 負けたケンちゃんが機体から降りてきてポーズをつけて言い放つ。


「ケンちゃん。何を格好つけてるんだよ。」


「機体の構造を熟知した俺様に敵うヤツなど居ないのだ! はっはっは。」


 どうやら、親父っさんところでコックピット付近にダメージを与えるために一点突破以外に方法が無いか調べてきたらしい。


「でもケンちゃんの負けだよ。」


 そんなことをしていたのか。道理で被ダメージがいつもよりも多いと思ったんだ。


「ええっ。どうしてっ・・・。」


 一体何を驚いているんだか。


「だって勝負はダメージが90パーセントを超えたら負けだもの。そういうルールでしょ。」


 戦闘訓練では強制的に基地に帰還させられるわけじゃないがそこで戦いは終わりとなる。


「ええっ。なんとかなんないの?」


「ならないよね。」


 チラリと対戦相手の方を見るがバツが悪そうな顔をしているが『負けた』と言い出す気配は無い。


 良くある漫画なら、ここで『試合に勝って勝負に負けた』と言い出すところだろうがそんな日本人的な言い回しなんてここでは期待するほうがおかしい。


「しかし、良く考えついたな。実戦では有効かもしれんぞ。」


 ここで中田広報官のお褒めの言葉が入る。


 確かに相手のコックピットまでダメージを与えれば、向こうのパイロットを殺せるかもしれない。機体は部品交換すれば直るがパイロットはそういうわけにはいかない。


「へへっ。」


 ケンちゃんが少し得意げに鼻の下をこする。


「銀河連邦から取り寄せた情報の中に敵のロボット兵器の情報もあったはずだから、上手く使えば有効打となるかもしれん。だが気をつけろよ。偶に無人機体もあるという話だからな。」


 中田広報官が絶妙な・・・上げておいて落とすという・・・爆弾を投下した。ケンちゃんは開いた口が塞がらないようだ。


もちろん戦闘訓練もあります。

主人公は授業だけで良いと思っていたようですが・・・。

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