第9話 友人を見て気付いたようです
「ええっ。丸ごと交換なんですかっ。」
やはりというか当然というか。なんだかなあ。
ケンちゃんがやってきた。白壁少将にお願いして地球連邦軍の見学をさせて貰っている。
一般の見学コース以外にもいろんなところを見せてくれる。その中でケンちゃんが一番興味を引いたのは蓉芙コンツェルンの中核企業の1つである六菱重工の整備工場だ。
そこにはオーバーホール中の『ミルキーウェイ』が置いてあった。
「ああ、もちろんだとも。どの機器にどれだけダメージが蓄積されているか分からないから、コンピューターのデータの移し替え作業を行った後は動力コア以外は全て交換だな。」
アニメの影響なのか。ケンちゃんは『ミルキーウェイ』搭乗者が整備できるものと信じ込み、産業用ロボット整備技師や建設機械ロボット整備技師、航空機整備技師などの資格を取りまくっていたのだ。
士官学校での知識では、宇宙空間で動作することを前提とする『ミルキーウェイ』はコックピット内部の空気が抜けないように何重もの安全装置と共に密閉性も確保されている。
修理部品の内部に1カ所でもひびが入っていれば、その密閉性が確保できないという理由で必ず何重もの検査を通り抜けた新品のみが使われることになっている。
ガックリとケンちゃんが膝をつく。いかに自分がロボット兵器乗りとして見当違いなことをしていたことがわかったらしい。
「だったら訓練用の機体はどうなんですか?」
それでも諦めきれないのか質問を続ける。
「ここはスペースコロニーだから訓練用と言えど、いつ何時外で作業しなくてはならなくなるかもしれんのだよ。搭乗者の教育が一番費用がかかっておるんじゃ。その搭乗者の命を奪うようなことがあってはならんことじゃ。」
六菱重工の整備工場長さん・・・ご多分に漏れず、親父っさんと呼ばれているらしい・・・は呆れもせず、次々と質問を浴びせかけるケンちゃんにゆっくりとしかし、シッカリとした口調で説明を続けている。
「じゃあ。試作用の機体とか無いんですか?」
ケンちゃんはまたしてもアニメネタを持ち出す。特別な機体とか万能型の機体とかがあると思い込んでいるようだ。
「それがの。銀河連邦の人間は地球人の約5倍の重力に耐えられるらしくてのう。機体の潜在能力はもっとあるんだが地球人に合わせてストッパーがかかるようにしてあるんじゃよ。地球人が宇宙空間に合わせて進化したとしても数千年はこの機体で十分じゃろうて。」
「はあ。」
「なんじゃ。整備もできるパイロットを目指していたのかのう。」
「はい。そうなんです。」
「無駄じゃないぞ。パーツの交換作業だけでも専門知識は必要だ。自分の出番以外のときに整備員を手伝えるパイロットなんぞ。貴重な存在じゃろうて。それにの。内部構造を知っていれば、ダメージを分散することもできるかもしれん。そうなれば、それだけ長時間戦えることになる。他人よりも長く宇宙空間で戦っていれば戦績も残せる。」
がっかりした様子が気になったのか。工場長さんが助言してくれている。
「そ、そうですよね。」
やっと自分のやってきたことが認められてケンちゃんの顔に笑みが戻る。
だがそれはそんなに容易いことじゃない。今でも十分にいろんな攻撃を想定したダメージ情報の統計及び分析が行われており、その蓄積された情報を凌ぐほどの功績を残さないと一蹴されて終わりになりかねない。
まあそんなことを言っても恨まれるだけだから言わないけど。
そこでやっと気付く。リサが格納庫で呆れていたことを。
なんて恥ずかしい。本物のロボット兵器を目の前にして、アニメーションの設定を持ち出して質問している。
ついこの間の僕自身だ。うぁあ。外側からみるとこんなにも滑稽なんだ。気をつけようっと。
☆
「良かったなケンちゃん。」
あまりの必死さに可哀想になったのか。ケンちゃんにパイロットの適性が無ければ、六菱重工での雇用を約束して貰った。しかも、地上限定だが稼働テストのパイロットもやらせて貰えるらしい。
「まあな。」
「僕が痛い目にあって取ってきたコネだから、後で旅館に貢献してくれよ。」
「お前。本当に『ミルキーウェイ』のパイロットにならないつもりなんだな。勿体ないよ。」
まあケンちゃんならそう言うよな。あれだけ痛い目、酷い目にあって、しかも那須議長の株もだだ下がりの状況下では例え那須議長に頭を下げられても頷けない。あとはリサが本当の理由を教えてくれるか否かなんだよな。
僕は白壁少将の視線を気にしながら、空港であった出来事や士官学校であった出来事を話す。別に口止めされていない。那須議長もケンちゃんのことは知っているはずなので問題ないだろう。
「流石はナスシンだ。それで議会の連中の勢いが弱くなったんだな。凄い凄いよ。」
そう言えば、ケンちゃんは那須議長の大ファンだったな。株が下がるどころか上がってしまった。どんな悪役キャラでもヒーローには違いないらしい。なんか、グジグジと考えているのがバカバカしくなってきた。




