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第2話 地味なプレイが評価されたようです

「ありがとうございました。」


 僕は助けて貰ったハーフの女性に頭を下げる。


「いいえ。当然のことをしただけですから。それに先程の『ライトニングブラスト』と『再発進短縮』のコンボも素晴らしかったので、声を掛けようとしていたところだったの。」


 あの対戦映像を見て少し想像を働かせれば、簡単に思いつける程度のコンボなのである。


 ただ映像的に華々しくないし、実際にプレイしてみると解るがゲームプレイ的にも地味なコンボなので誰もやりたがらないのだと思う。だから素晴らしいと言われるとは思わなかった。


 それにしても綺麗な日本語だ。イヤリングタイプの自動翻訳機の出番は無さそうなので鞄にしまっておく。


「『Y2(ワイツー)』さんにそこまで言って頂けるほどのものでも無いですよ。」


 プレーヤー『Y2』。


 『黄昏のフォボス』のプレーヤーのトップランカーの一人で世界レベルの競技大会で優勝した経験を持っている。こんな可愛らしい女性とは思わなかったが時折度肝を抜くコンボを開発して披露した映像が公式サイトに載せられていることが良くある。


 そのプレイは限界まで課金アイテムを使用した華々しいものでスクリーンの中を縦横無尽に走り回り、相手を霍乱するスタイルで僕の地味プレイとは天と地ほどの違いがある。


 先程、そのアカウントをスクリーンに見つけたときには、まさかと思ったが本物のようである。まあこのゲームで使われているアカウントに同じ文字列は使えないので『ワイツー』とか『YTWO』とか、あやかったアカウントを使っている人を良く見かけるのだ。


「私のことを知っているのね。」


「ええまあ。こんな可愛い女性とは思わなかったですけどね。」


 プレイ内容からすると物凄く活動的なイメージだ。噂で女性だという話は聞いていたけれど、陸上競技でもしているような女性を想像していた。


 喋り方や周囲にボディガードが居るところをみると何処かのお嬢さまっぽい。あらゆる意味で雲の上の女性過ぎて、ありきたりな言い方しか想像できなかった。


「あらお世辞も言えるのね。本当に高校生? 今日はもう時間が無いのだけど、もっとお話してみたいわ。SNSのアカウントを交換してくださる?」


 その場で僕と彼女はSNSのアカウントを交換した。


     ☆


「ただいま・・・。」


 街外れにある一軒家。勝手口から入り、台所に立っている女性に挨拶をする。


 ここは両親の友人という女性の住まいで本人は有名な小説家だという。


 両親は僕が中学校に入った年に州内の航空機事故で死んだ。父親は即死で母親は1ヶ月ほど生きていた。昏睡状態だった母親が奇跡的に目を覚まして後見人に指名したのがこの女性だ。


 両親の友人にしては若い。当時30代前半の女性だったので初めは遠慮したのだが、母親の強い意思に負けて同居することになった。後で知ったのだが両親の兄妹たちはお金に汚いらしく保険金を狙っていたらしい。


「今日のお手伝いは何?」


 この家の軒続きに大きな旅館があり、彼女はその女主人でもあるのだ。実際には殆ど使用人たちに任せっきりで重要な客に挨拶に行くだけだそうだけど。


 僕は旅館で手が足らないところを手伝ってアルバイト代を貰っている。


「帰ってきた早々何なの。お小遣いならあげるって言っているでしょ。無理しなくてもいいのよ。」


 保険金のことを知った僕は全てのお金を彼女に預け、養子縁組をして貰った。万が一、僕が死んだときに良くしてくれる彼女にお金が渡らないなんてことになってほしくないからだ。


「加奈さん。僕は自分で働いたお金で遊びたいんです。」


 時折『貴方は騙されている』と言いに来る親戚が居るが彼らに騙されたくないのである。欲を言えば僕の所為で婚期を逃した彼女と結婚したいのだが言えないでいる。


 だから早く自立して堂々とプロポーズできるようになりたいのだが、OLDTYPEの僕には世間の風は冷たい。一流企業のホワイトカラーは例の脳から直接伝達できる仕組みを使ったヴァーチャルリアリティ時空間で仕事をしている。


 僕の目標はブルーカラーの中でも20倍のヴァーチャルリアリティ時空間をフル活用できる食糧生産工場だ。工場ではAIによるオートメーション化が進んでいるが植物や動物といった生き物を扱う工場では人間によるコントロールが必要。だからこそ『黄昏のフォボス』では華々しく活躍できずともOLDTYPEの僕が活躍できる地味な役割をすすんで受けているのだ。


     ☆


 『Y2』さんが直接会って話をしたいという。


 なんか中身はラブレターのようだった。それもテンプレートそのまま。おふざけかなと思ったけど、ラブレターなら断るにしても無視するわけに行かない。


 指定された場所は銀河連邦から供与された技術を元に地球向けの技術開発を行なう蓉芙コンツェルンの会議室だった。


 銀河連邦が侵略する前に建設されたという高層ビルのオフィス部分にそれはあった。300年以上の歴史があるらしい。当時の高層ビルは100年ほどしか持たなかったというから、この建物こそが銀河連邦の技術を使い、維持されているのだというのがもっぱらの噂だった。


「改めて自己紹介しましょう。リサ・ローランド・那須。役職は沢山あるのだけど、このビル内だと蓉芙コンツェルンの副総裁が一番上かな。」


 思わず絶句してしまう。雲の上どころじゃない。銀河連邦の技術を自由に使える蓉芙コンツェルンは地球連邦そのものと言っていい会社で他の会社は全てその下請けと言ってもいいくらい巨大な権力を持っている。


「ちょっと。ちょっと待ってくださいよ。蓉芙コンツェルンの総裁ってコールドスリープで眠ってらっしゃるのですよね。ということは蓉芙コンツェルンの事実上のトップ・・・。」


 コールドスリープ技術は既に確立されていて地球連邦でも重要人物が使用しているという噂だ。


「良く知ってるのね。大抵は優秀な部下たちが大半の物事を決めているから、何もすることは無いけどね。一種の名誉職かな。」


「しかも那須って。まさか地球連邦の那須新太郎議長の娘さんですか?」


 地球連邦の初代議長は地球各国を一つに纏め上げた日本の宗教家だったが、2代目には世界中のテロリストを撲滅したヒーローの那須新太郎氏が300年に渡って就いている。


 彼も時折しか公式の場に出てこないのでコールドスリープを使っているという噂だ。


「養女なんだけどね。」


 血の繋がりも無く。この地位に居るということらしい。しかもこの若さ。何者なんだ。そして一体、そんな人物が僕に何の用事があると言うのだろう。


 突然の出来事に自分が座っている場所の底が抜けたような感覚が襲ってきて背中が凍り付いてしまった。

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