第7話 出会いは仕組まれたようです
「余裕だったね。25倍のヴァーチャルリアリティ時空間。」
宇宙軍士官学校で『ミルキーウェイ』パイロットとなるための基礎教育課程のその殆どがヴァーチャルリアリティ時空間で行なえるようにプログラミングされており、通常空間で半年掛かる課程を詰め込み式で1週間ほどで完了した。
ヴァーチャルリアリティ講義については生徒たちと共に自身もさらに上を目指す訓練に取り組んでいる。まずは腕試しに21倍から25倍までをリサについて徐々に上げていったのだ。
「20倍の資格を取ってから5年が経過しているからな。」
未成年者の20倍を超えるヴァーチャルリアリティ時空間の利用は研究機関を除いて、身体の成長の妨げになる恐れがあるという理由で法律で禁止されているのだ。
両親は遺伝子学者という立場で申請をしていたらしいのだが、両親が亡くなってからは両親が残した研究成果を元に20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で更なる訓練を積むだけだった。
その訓練の成果がようやく実を結んだのである。
「この後、どうするの?」
「もちろんリサと同じ30倍まで挑戦するつもりだよ。夏休み中に到達できて27倍くらいだと思うけどね。」
25倍を挑戦した感覚だと26倍も到達できそうだったが更に上に到達するには訓練が必要な感じだったのだ。
講義を受ける生徒たちのための訓練メニューも両親の残した研究成果を元に生徒と共に作り上げている。
「何を言っているのよ。25倍でも凄いのよ。地球で私以外は未到達の領域だったんだから。」
「リサが居るから助かっているよ。1人で挑戦するのと2人で挑戦するのでは随分違うよ。」
全くの手探りで進んでいくことを考えれば先導者が居るのは心強い。ひとたび失敗すれば廃人になりかねない。ちょっとでも問題が出そうならリサが何とかしてくれるのだ。
「私は身体中に付けられたセンサーと研究者や渚佑子さんが身体の近くにいてくれたもの。」
研究者はわかるが、何故渚佑子さんがついているのだろう。
ヴァーチャルリアリティ空間内でも『ゲート』を使えるのか?
まさかね。
「ケンちゃんが来る来週には『センサーネット入力』装置が使えるようになりそうでホッとしているよ。」
もちろん『センサーネット入力』装置に対応するための微調整も行っている。大まかにはヴァーチャルリアリティの長時間利用者の調整でいいそうだが25倍のヴァーチャルリアリティ時空間のための微調整も必要なのだそうだ。
「ケンちゃんが来たら、スペースコロニーでの地上戦闘ができるわね。」
このスペースコロニーでは、地上と同じように1方向に重力が働く仕組みになっており、ほとんど地上に居る場合と変わらない。従ってケンちゃんとスペースコロニー内部を一通り見学した後はいきなり、『ミルキーウェイ』の実機に乗って貰い戦闘訓練に参加して貰うつもりである。
「でも『黄昏のフォボス』の操作感覚がそのまま使えるとは思わなかったな。」
『センサーネット入力』装置の微調整は『ミルキーウェイ』に搭乗しながら行ったのだが、ゲーム筐体を操作したときの動きがそのまま使えたのだ。
「それはそうよ。宇宙軍の『ミルキーウェイ』パイロット養成向けに開発したシュミレーターだもの。本当はあんなに課金アイテムを作るつもりじゃなかったのよ。でも遊撃隊をゲーマーからスカウトするに当たって、ある程度流行させる必要があったのよ。それで担当者が頑張っちゃったみたい。」
「それじゃあ、トップランカーが遊撃隊にスカウトされたの?」
「実装備できそうなアイテムを使うトップランカーには殆ど声を掛けたわね。」
そうだよな。時間を戻すというような理論上絶対有り得ないだろうというようなアイテムから、両手を叩く度に相手の動きが止まるというような冗談アイテムまで、どうやっても再現出来ないようなアイテムが目白押しだものな。
そんな冗談アイテムでもある種のアイテムと組み合わせることでトンでもない最強のコンボが生み出されたりするから、販売中止になったアイテムやルールが変更されたアイテム、余りにも最強過ぎて限定解除の大会でしか使用出来ないアイテムになったものさえあるのだ。
そんな中、実装できそうなアイテム使いを探すほうが大変だ。
「もしかして僕も?」
「そうよ。あんな地味なコンボ良く見つけたね。盲点だったわ。」
あのゲームセンターでの出会いは偶然を装っていたらしい。あの時点でコンボ使用履歴からヴァーチャルリアリティに登録されている個人情報まで分かっていたという。
「地味で悪かったな。高校生の小遣い程度じゃ、あの程度が精一杯なんだよ。それでも、あのコンボを見つけるまでに幾ら使ったと思っているんだよ。」
「そうよね。脳みそが柔らかい世代ほどお金を持っていないということに気付いたときには、高価なアイテムが溢れていたのよね。それで安いアイテムを使ったコンボを派手な映像として公式サイトから流してみたんだけど、焼け石に水だったの。」
なるほどリサが『Y2』として活躍していたのには、そんな裏があったのか。
「しかし、チートだよね最大20倍と思われていた『黄昏のフォボス』のヴァーチャルリアリティ時空間を30倍のヴァーチャルリアリティ時空間でプレイングしていたなんて、そりゃあ限定解除の競技会で優勝できるに決まっている。」
「仕方ないじゃない。幾ら注目を集めるためだと言っても競技会で管理者権限でズルする訳にはいかないんだから。」
当初は衝撃がある当たり判定の範囲をリサだけ狭める案もあったようである。幾ら何でも過保護過ぎるだろう。