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第5話 無理して微笑んでいたようです

「ちょっと待ってよう。あゆむくんが帰ったら私どうすればいいの?」


 引き止めたのは、リサでも那須議長でも無くチイちゃんだった。


「ゴメンゴメン。そうだよね。ちょっと拗ねてみただけなんだ。あんな酷い扱いを受けたのに来るのが当然みたいな扱いされるのが嫌だったんだ。」


 これ見よがしに言ってみる。とりあえず那須議長の顔を立てて引いてはみたものの腸が煮えくり返っていて治まらないのだ。何故、僕はこの場所に立っているのだろう。


「すまない。緊急時以外は使わないようにするから。」


 僕は那須議長のその言葉にカチンとくる。


「それは危険なときがあるということじゃないですかっ。」


 どうしたんだ僕、上手く感情が制御できない。


 そのとき、チイちゃんが庇うように那須議長と僕の間に立った。


「昨日からあゆむくんずっと頑張ってくれていました。少し疲れているんだと思います。まずは宿舎に連れて行ってください。2人で生活してみます。しばらくはソッとしておいて頂けませんでしょうか。」


 僕は疲れているらしい。


「だが男性宿舎に女性は・・・「リサさんはどうなんですか?」・・・それは・・・。」


 チイちゃんはダメでもリサは良いらしい。特別な権限があるのだろう。


「わかりました。今日1日はグァム島のホテルで生活します。明日までに用意しておいて頂けませんか。それから貴方たちはあゆむくんの友人のつもりみたいですか、周囲の方々はそう思っていてくれません。今でも周囲の方々は私たちのことを異分子かそれこそテロリストみたいな視線を向けています。このままではあゆむくんが了承しても周囲の方々が排除に向かおうとするでしょう。」


「何だと貴様。誰に向かって意見しているつもりだ。」


 傍についていた1人の兵士イヤ階級章からすると士官候補生が進み出てくる。


「待ちなさい。僕の認識不足だったようだ。わかった。明日までに用意させよう。グァム島のホテルもこちらで用意させてくれ。なんとかそれで・・・。」


 今にも殴りかからんばかりの迫力に怯むとスッと那須議長が間に割り込む。


「大丈夫ですよ。1日リサさんから離れて2人で過ごせば元に戻ってくれます。信用して頂けませんか?」


「だって。私だって一緒に居たいのに。」


 またしても空気を読まない発言を繰り返してくれる。本当に疲れた。


「リサ。我慢しなさい。しばらくはずっと一緒に居てあげるから大丈夫だ。」


     ☆


 何かずっと寝て居なかったかのようにグッスリと寝た。いつの間に潜り込んできたのか僕の腕のなかに暖かな温もりがあったのが良かったのかもしれない。


「あゆむくん。起きた?」


 その温もりが起き上がって伸びをする。そこで初めてお互いが裸であることに気付いた。


「うん。」


 周囲は既に真っ暗だ。あれから12時間以上経っているらしい。


「サンドイッチがあるけど食べる?」


「お腹はすいていないみたい。」


 随時食べてないはずなのに胃も動いていないらしい。


「そう。もうちょっと寝よう。ほらあゆむくんの好きなオッパイを触っていてもいいから。」


 チイちゃんが珍しく食べ物の話はしてこない。そんなに美味しくないのかな。それにしても凄いオッパイ好きだと思われているようだ。


 促されるままに眠りにつき、起きるともう朝だった。


「起きて起きて。やっぱりリゾート地のホテルだね。ブレックファーストの量がハンパじゃないよ。もう食べられるでしょ。お腹が鳴っていたものね。」


 チイちゃんがブレックファーストの内容を詳細に話し出すとお腹がグーグーと鳴き出した。久しぶりかも知れない。こんなにもお腹がすいたと思ったのは両親が死ぬ前だったかも。


 そうか両親が死んでから、イロイロと自分の中に溜め込んでいたんだ。今回自分の身に降りかかった出来事でキャパシティーがいっぱいになったんだな。


「食べたら、浜辺に行こうよ。おニューの水着を買ったのよ。超大胆なヤツ。絶対にリゾート地でしか着れないようなヤツよ。」


 チイちゃんは喋りながらもせっせと無口になってしまった僕の世話を焼いてくれる。


 お腹いっぱいで浜辺のデッキチェアでお昼寝だ。チイちゃんの水着は普通のビキニだったけど、彼女にとって精一杯なのだろう。恥ずかしそうにしている。


 それに意外とデブでもポッチャリでもなかった。リサほどくびれて居ないにしても見苦しいことは無い。厨房では毎日寸胴鍋を洗っていたというから、むしろ手足に程よく筋肉がついていて驚いた。


 昼寝が済むと街に出掛けていく。日本語を話せる住民が多くて驚く。学校で習った英単語と日本語のチャンポンで十分だった。


 そこで軽めのランチを頂くとホテルに戻ってベッドに入る。チイちゃんが魔法でも掛けてくれているみたいに幾らでも寝られた。


 目を覚ますと何か話し声が聞こえた。チイちゃんが誰かと喋っているらしい。何かを報告するような喋り方だ。


「チイちゃん。誰だったの?」


 チイちゃんが部屋の扉から戻ってきた。僕が起きていたことに驚いていた。起こしてしまったと思ったみたい。


「・・・うん。那須議長の使いの人だった。もう出られるかだって、せっかちだね。」


「それで?」


 自分でも頭がスッキリしているのがわかる。だけど那須議長やリサの顔を見た途端に何かが吹き出しそうで怖い。


「明日の朝、迎えに来てくれるそうよ。大丈夫・・・だよね。」


 チイちゃんが心配そうに覗き込んでくる。不安だ。不安だけどチイちゃんにここまでして貰って、立たなきゃ男の子じゃないよね。


「うん。大丈夫だよ。」


 ちょっと無理して微笑んでみるとチイちゃんは安心してくれたようだ。

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