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第3話 許してあげても困るみたいです

「それって。酷く無いですか?」


 起きたら何故かターミナルビルにあるチルトンホテルのスイートルームのベッドの上で寝ていた。


 知らない間に医者に見せて治療したらしくお腹と頬と肩の痛みは引いていた。


「いつもは僕を憎んでいる人間を対象にしているんだけど、今回はリサが通ったばかりだったからリサも対象に入れていたんだ。本当にすまない。この通りだ。」


 目の前で那須議長が土下座をしている。隣では同じように頭を下げる白壁さんの姿もあった。


 チイちゃんがグルグル回っていたのはリサを憎んでいたかららしい。知りたくなかったな。そんな感情があの可愛いチイちゃんにあること。


「もう頭を上げて下さい。那須さんも白壁さんも。お二方とも何も悪く無いんですから。ね。白壁さん。」


 あまり偉い人を貶めると逆恨みされて大変なことになるからな。さっさと許すことにする。まあ言外に『貸しですよ。』と目線を送ったところ、真っ青だった顔が元の顔色に戻り、頷いてくれたので良いことにする。


 流石にあの警備員まで庇えないけど、那須議長のことだ。そんなには酷い扱いにはならないだろう。


「それではワシの気が済まない。貴殿はグァムのリサ様の元に行くんだったな。まさか、あのプロジェクトに。」


 リサが白壁少将にゆっくりと頷くと戻っていた顔色が真っ青になった。忙しい人だ。


「そうですね。どうしても何かをしたいと仰るのでしたら、白壁さんにグァム州の地球連邦軍を案内して貰おうかな。」


 白壁少将は1日交代で日本州とグァム州の『ゲート』の警備責任者をしているそうだ。


「良かった。グァムに来てくれるんだね。本当に良かった。」


 那須議長が僕の手を握り締めている。なるほど、もう嫌だと言い出すと思ったんだな。グァムにはケンちゃんも居るからね。これで行かなかったら、親友どころか友だちもやめられそうだ。


「ええっ。私が案内しようと思っていたのにぃ。」


 さっきまで涙を目いっぱいに溜めて泣きそうな顔で佇んでいたリサが文句を言う。


 もう懲りたのだ。これだけ愛されているリサを連れて基地を歩き回ったら、周囲と軋轢を生んでしまうに違いない。学校の比じゃないと思う。


「チイちゃんはどうする? 怖かったよな。加奈さんには僕の方からシッカリと伝えておくから、帰っても大丈夫だよ。」


 もう一つの懸念材料がチイちゃんだ。今回、リサに悪感情を持っていることが知られてしまった上、グァムでリサと諍いなんか起こせばチイちゃん共々、制裁を受けかねない。できることなら連れて行きたくない。


「私も行く!」


 やっぱりそう言うよね。


「リサにお願いがあるんだ。チイちゃんと仲良くしてくれるかな。」


「私、チイちゃんと仲良しだよ。先週の休みの日もデザートバイキングに行ってきたんだよ。」


 憎まれていることがわかってないらしい。


 先週ボディガードと居なくなったと思ったら、そんなことをしていたんだ。リサは幾ら食べても太らない体質で甘いものも平気で大量に食べる。そんなリサをチイちゃんが見たら恨みたくもなるわな。


「チイちゃん。リサは見ての通り、空気が読めないんだ。許してやってほしい。」


「何よそれ「煩い!」」


 泣いたカラスがもう笑った状態のリサを叱ると涙目に戻る。付き合い切れん。


「私もリサさんと仲良くする。それで良いんだよね。」


 その日はチルトンホテルに宿泊し、明朝改めて『ゲート』を使うことになった。


 ホテルのレストランで夕食を頂く。白壁少将お気に入りのレストランで野生味溢れるジビエを得意とするらしい。チイちゃんと白壁少将はオススメのジビエのコースをリサと那須議長と僕はシチューのコースを頂くことになった。


 流石にお腹を殴られているので消化に悪そうなジビエのコースは遠慮しておくことにした。


「やあ料理長。今日のお肉は一段と野生的な味だね。」


 白壁少将が隠蔽しようとしたことはバレないと安心したのだろう。凄い健啖ぶりだ。軍人だけあってこういった料理のほうが性に合うらしい。


「これはこれは新太郎様にリサ様、白壁様もようこそいらっしゃいました。丁度、良かった。今日のお肉はAクラスのハンターが複数人で狩った獲物ですので、滅多に出ないんですよ。」


 奥からやってきた料理人がコック帽を取ると尖った耳が現れる。ヴァーチャルリアリティ空間で自由に姿形を変えられるようになっても根強い人気を誇るエルフのコスプレーヤーのようだ。多分ハーフエルフかな。


 真日本国憲法ではどういった趣味を持っても差別してはならないという条文も追加されており、多くのコスプレーヤーは仕事場でもファッションの一部としてこういったグッズを使用している。それにしても良く出来ているなあ。耳がピコピコと動いている。


 しかしAクラスのハンターだなんてVRMMOの世界の話のようだ。未だに野生のままの未開の地があるんだな。


「あゆむくん。美味しいよ。はい。あーん。」


 チイちゃんは僕にどうしても食べさせたいようで、その美味しさをコンコンと説明する。


「あーん。・・・なるほど、美味しいよ。でもお腹を殴られたから、これで止めておくよ。」


 あまりにも美味しそうな説明に涎が零れそうになったので一口だけ頂いた。ハーブが上手く臭みを消しているが歯ごたえは抜群で噛めば噛むほど味が出てくる。


「そうだった。ごめんなさい。」


 チイちゃんと白壁少将の顔が曇る。


「ううん、いいんだ。ごめんな。思い出させてしまったよね。」


 白壁少将は気にしなさすぎだよ。まったく。


「新太郎様は随分久しぶりですこと。」


「200年ぶり・・・くらいかな。」


 コールドスリープを使っている那須議長はわかるが目の前の女性は200歳を過ぎているようには見えない。なるほどロールプレイング中なんだな。


 ファンタジーの世界観ならハーフエルフは200歳を越えていてもおかしくない。


「是非、本店にも寄ってくださいね。母が首を長くして待っておりますわ。」


「もう5年も経てば、全てを後世の人たちに引き渡せる。そうなったら、茶飲み話をしに寄らせてもらうよ。」


     ☆


「なんでリサもチイちゃんも部屋に残っているんだよ。」


 結局何の肉か分からなかったがシチューを平らげ、デザートも済み部屋に戻ってきたのだが、何故かリサとチイちゃんが一緒に付いてきたのだ。


「緊急事態だったからメイドも連れて来れなかったのよ。だから着替えるのを手伝ってもらおうと思って。」


 リサがチイちゃんの前だというのに不穏なことを言い出す。いつも手伝っていたかのように聞こえるじゃないか。確かに脱ぐのは手伝っていたけど、それは自分で脱ぎにくいピチピチのブラウスを着る所為なのに。


「私は女将さんからお世話するように仰せつかっているんだから、あゆむくんの着替えを手伝うね。」


 チイちゃんが近寄って来てズボンのベルトを外そうとしてくる。


「それ、おかしいよね。何故2人して息ピッタリなんだよ。」


「私たち話し合ったの。チイちゃんと。」


「そうリサさんと話し合って決めたの。仲良く半分こしようって。」


 夕食が終った後、仲良く化粧室に消えたと思ったら、そんな話し合いが行われていたなんて思わなかった。


「何だよ。半分こって。止めろってパンツは自分で脱ぐ。じゃないくてトイレで着替えてくるから。リサも何をジッと見てるんだよ。」

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