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第1話 真面目に答えても殴られるようです

「チイちゃんが。どうして?」


 成田空港のチェックインカウンターへ大きなスーツケースを押すチイちゃんがやってきた。


「どうしてもこうしても無いでしょ。私もチイちゃんも地球連邦軍への入隊は反対なの。グァムではリサさんにはメイドが付くんでしょ。だったら、あゆむくんの身の回りの世話をしてくれる人間が必要だと思ってチイちゃんを派遣することにしたのよ。」


 世界で1位2位を争うくらい治安の良いグァム州へ行くというのに加奈さんがわざわざ見送りに来たと思ったら、そんなことを考えていたのか。


「そんなっ。自分のことは自分で出来るよ。」


 恥ずかしい。年頃の男の子だということを理解していないな。チイちゃんに下着まで洗って貰ったらどんな顔をすればいいんだか。


「そうかな。新太郎様の話では毎日ハードスケジュールでクタクタになるそうよ。マッサージの得意なチイちゃんに疲れを取って貰えば、随分違うと思うわよ。それにあゆむくんが情に流されないようにシッカリと見張っていて貰わなくちゃいけないからね。」


 いつの間にか那須議長と交流を持っているらしい。


 どうやら既に話を通してあるようだ。


「わかりました。わかりましたよ。」


「チイちゃん。リサさんの方が1歩も2歩もリードしているみたいだから頑張ってね。『織田旅館』の皆はチイちゃんを応援しているからね。」


 なんかイロイロとバレているようだ。どこから仕入れてくるんだ?


「はい。頑張ります。」


「ちょっと待って。リサを旅館の女将にする話は何処にいったんだ。」


「あれは冗談よ。冗談抜きにしてもリサさんは無理じゃないかな。」


 加奈さんが遠い目をする。


 まあ旅館内でもイロイロやってくれたからな。平気で上に長めのブラウスだけの下着姿で出歩いたり、どうやればスカートを掃き忘れるんだか。


 『疲れた。』が口癖で何処でもマッサージを強要してきたし、パジャマ姿はデフォルトで休みの日はずっとその姿だったりしたからな。


「加奈さんもデフォルトは浴衣姿じゃないか。」


 しどけない格好で色っぽいと思っていた時期が懐かしい。良く考えると年がら年中だもんなあ。


「あれはパッと着替えれるように・・・って、何を言わせるのよ。」


 見送りに来た旅館のスタッフが驚いた顔をしている。旅館内では完璧な女将姿だからなあ。


「まあそれだけ、旅館を自宅のように思って使ってくださったんだよ。」


 リサは昨日、完璧なプリンセス然としてた格好で渚佑子さんと旅館を出て行った。


「あゆむくんのお世話はやり過ぎ、甘やかし過ぎなのよ。例えお客様でも締めるところは締めなきゃ。」


「じゃあ、旅館の跡取りとしては不合格だったの?」


 あれだけ頑張ったのに。イロイロ役得だった面は否定しないけどね。


「ギリギリ合格かな。グァムではチイちゃんの働く姿を見習って精進するように。」


     ☆


 成田空港の第5ターミナルビルの出国審査の窓口を通過した時だった。


「あゆむくん。待ってぇ。何処にいるのよ。」


 すぐ後ろに居たはずのチイちゃんがその場でグルグルと回っている。


 その姿に驚いているとすぐに空港の警備員がやってきた。


 身分証を提示してくる。警備員の姿をしているが地球連邦軍の兵士のようだ。


「その方の同行者ですか?」


「ええそうです。」


 知らない振りをしたいが一生恨まれそうだし、すぐにバレるに違い無い。


「地球連邦憲章第516条第26項につき、テロ予防の緊急処置として拘束します。付いて来て頂けますか?」


 地球連邦に対して悪意を持つ人間は『ゲート』を通れないという教科書に書かれていたことが目の前でおきている。しかも僕が当事者らしい。


「あ、はい。わかりました。」


 ここで抗っても仕方がない。何が何だかわからないがテロリストに間違われているようだ。周囲から数人の警備員たちが駆け寄ってきているが雰囲気は険悪そのもので少しでも抵抗すれば暴力を振るわれそうだった。


 僕はシッカリとチイちゃんの手を握り締めて警備員の後を付いていくと真っ白なテーブルと椅子が置いてあるだけの部屋に連れ込まれた。


 そのまま椅子に座らされて、後ろ手の状態で拘束された。チイちゃんも同様だ。そして扉が閉じられた。


「あれっ。ここ何処。何で私拘束されているの?」


 チイちゃんがようやく元に戻ったようだ。さっきのは一体、何だったのだろう。実はチイちゃんがテロリストなのか?


 職員の手でゆっくりと身体検査が行われる。荷物は全て目の前の大きなテーブルに出されていく。


「止めてよ。下着まで引っ張り出さないで!」


 チイちゃんが涙目になりながら抗議をしている。僕の荷物は既に渚佑子さんが持って行っているので簡単な手提げ鞄が一つだ。その中身も丹念にテーブルの上に広げられていく。


「チイちゃん。抵抗しないほうがいいと思うよ。」


 混乱しているのだろう状況を上手く掴めないチイちゃんが声を張り上げている。


「あゆむくん。あゆむくん。あゆむくん。」


 チイちゃんが涙をポロポロこぼしている。


「うん。傍にいるから大丈夫だよ。泣かないで。」


「服部あゆむ。貴方に聞いたほうが早そうだ。黙秘権はあるが行使すると自動的にテロリストと認定されるので心しておくように。そうなれば潔白を証明できるまで拘束されることになる。」


 とりあえず尋問が始まるらしい。


「はい。」


「貴方は誰に招かれてグァム州に渡ろうとしたのか?」


「リサ・ローランド・那須さんです。」


 突然、警備員に顔を叩かれる。


「そんなはずは無い。嘘を吐くな。」


 嘘臭く聞こえるのはわかるが本当のことだから、そう言うしか無い。


「でも本当「そんなわけあるか。貴様のような奴にお会いできる御方じゃない。軽々しく御名前を出すんじゃない!」」


 ついこの間まで僕もそう思っていたんだよな。真実だとわかっていても理解できる。理解できるけど殴ることは無いじゃないか。リサが皆に愛されているということなのだろう。


「他に地球連邦に知り合いは居ないのか?」


「・・・・・・。「どうなんだ!」那須新太郎様です。」


「・・・・・・ふざけるな!」


 今度は警備員が椅子を蹴飛ばしたらしく。地面に転がり落ちる。何とか頭は打たなかったが肩を強く打ちつけてしまったようだ。

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