エピローグ
「ライバルって。リサって僕のことが好きなの?」
変なことを言い出したので部屋に引っ張り込み、リサを問い質す。
「当たり前じゃない。好きじゃなきゃエッチなんて出来ないわよ。あゆむくんが私を好きになってくれれば、地球連邦軍に入隊してくれるかなって。甘いかな。」
僕だって好きじゃなきゃエッチなんてしない。でもここで好きだと告白したら入隊する流れらしい。そんなバカな。
これがビッチな女なら綺麗な女性とエッチできて得したって思えばいいけど、初めてだったのはシーツのシミで確認済みだ。
「好きなら、どうしてっ。・・・どうして、死地に追い込むような真似をするんだよ。僕は最前線で戦うことになるんだろ。そんなに安全なところなのか火星基地は。」
とうとう言ってしまった。
「そう僕は死ぬのが怖いんだ。軽蔑するだろう。何とかいってくれよ。」
リサは目の前でポカンと口を開けたままの状態だ。呆れられたのだろう。リサが何故と尋ねないのを良いことにずっとひた隠しにしてきた感情だ。
「あゆむくん。死んじゃダメ! 火星なんて、行っちゃやだ。」
チイちゃんがドンとぶつかってきた。襖の向こう側で聞いていたらしい。襖が開け放たれている。
その柔らかい胸が僕の腕に押し付けられて歪んでいる。こんなときに何を考えているんだ僕は。
「リサさんの代わりになれるなんて思ってない。もちろん女将さんになろうなんて思ってない。どんな扱いでもいいの。触りたかったら幾らでも触ってもいいの。だから、何処にも行かないで!」
チイちゃんが強引に僕の手の平をその柔らかな胸で包み込む。ある意味正直だな。きっと立派な料理人になって僕と結婚する未来を描いていたんだろうな。
「ちょっと待ちなさい。私の前で何処までやるつもりよ。そっちがその気ならコッチだって。」
リサはそう言って反対側の手の平を自分の胸に押し付ける。チイちゃんのプリンのような柔らかさとは違いゴムマリのような弾力が手の平に伝わってくる。
「いいのかリサ? 僕は今、死ぬのが怖いと言ったんだぞ。」
力んで言ってしまってから後悔する。両側で色っぽい吐息が漏れている。ワザとじゃないんだ。
「私も死ぬのが怖いわよ。あゆむくん1人で死地に向かわそうなんて考えてなかった。行くのは私も一緒よ。」
「えっ。どういうこと?」
「火星基地には私も同行すると言っているの。」
「ど、どうしてリサが?」
那須議長の娘であるリサがどうして一兵卒のような真似をしなくちゃいけないんだ。
「簡単なことなのよ。20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で活動できて、火星基地の重力に耐えられる人間は一握りなの。通常空間で1時間ごとの交代制でも最低4人は必要よ。半年ごとに2交代で8人。それに対して世界中探し回っても適応者は20名足らずなの。60代の退役寸前の軍人を入れてよ。」
違うだろ。聞きたいことはそんなことじゃない。
「でもそれだったら。」
「そうね。権力を使えばなんとかなるかもしれないわね。」
またしても勝手に言葉を返してくる。
「そうじゃなくて、他にも方法があるんじゃないのか。それじゃあ、無理があるだろう。その内数人、亡くなっただけでも破綻してしまうじゃないか。」
それしか方法が無いんだったら、とうの昔にオープンにされていて、20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で活動できる人間を増やしているはずだ。
「別のプロジェクトが進行中よ。それがあれば太陽系に敵は入ってこれなくなるはず。あと3年持てば何とかなるの。私たちは1年訓練を積んで2年間防衛できれば勝利よ。」
それはきっとバリアみたいなものだろう。銀河連邦の主星にそう言った技術が使われているという話を聞いたことがある。
いきなり話が方向転換する。まるでその事を聞かれたく無いように。
「本当に他に方法は無いのか?」
僕はリサの正面に回って目をみて、もう一度質問してみた。
「・・・・。」
僕から視線を逸らした。やっぱり、何か別の方法があるらしい。
「あるんだな。」
「それを聞いたら、絶対軽蔑される。なんて自分勝手な女だと思われる。だから、絶対に言えないの。いえないのよ!」
リサは振り絞るようにそれだけを吐き出すと静かに泣き出した。僕の情けない理由とはレベルが違うようだ。
「わかった。グァムには行くよ。だから最後には、その方法を聞かせてほしい。」
深い深い誰にも言えない理由があるらしい。もっとリサの心に近付けば話してくれるかもしれない。
世界中から8名の中に選ばれたのだ。しかも仕事は地球の未来を守ること。どれだけ探してもこれ以上有意義な仕事は見つからないことはわかっている。でも本音を言えば、本当の理由も知らずに決められるかっ。
この章はこれで終わりです。
次章グァム編は週明けの更新を予定しております。
引き続きご愛読のほど、よろしくお願いします。




