第11話 嫉妬は誤解を生んでしまうようです
加奈さんがどんな聞き方をしたのかわからなかったが、生理とかで体調が悪いわけでも無いらしい。
「このお菓子をあゆむくんが?」
翌日の夕食後にチイちゃんが買ってきたお菓子を出した。曇りがちだったリサの表情が少しだけ明るくなる。旅館と学校の往復だものな。息もつまるよな。僕もそうだから良くわかる。
「うん。まあね。」
お金を出したのは僕だから、そう言っても過言じゃないよな。
「美味しい!」
ミニチュアサイズのフルーツタルトだったせいか。ペロリと無くなった。
「そうか。良かった。何なら僕の分も食べるか?」
「えー。いいわよ。それよりも、こんな美味しいタルト何処で買ってきたのよ。」
口では遠慮しながらも手が伸びてくる。
「チイちゃんが買ってきたんだ。美味しい食べ物に関しては旅館で一番じゃないかな。何なら呼んできて説明させようか?」
僕がそう言うと伸びていた手が止まった。
「なんでチイちゃんなのよ。」
「何だよ。突然、怒り出して。吃驚するじゃないか。」
「チイちゃんの何処が好きなのよ。」
好みのタイプじゃないけど、敢えていうならあの柔らかそうなオッパイが好きだ。だけど、そんなことリサだけでなく誰の前でも言えない。
「どうしても、言わなきゃいけないか?」
「もちろんよ。」
「本人にも誰にも言わない?」
「当たり前じゃない。内緒にしておくわよ。だから言いなさいよ。」
「うん・・・まあ・・・オッパイかな。」
こんなことを言ったのは初めてだ。リサってSの気があるんじゃ無いだろうな。
「私の胸とどっちが好きなのよ。触ってみなさいよ。」
僕の両腕を掴んで自分の胸に持って行く。SじゃなかったMの気があるのかもしれない。僕は恐る恐る触ってみる。手に余る大きさと弾力だ。
「柔らかい・・・。」
「それでどっちが好きなのよ。」
僕はリサの胸を掴んだ状態で押し倒される。受け身もとれない。良かった。お布団の上で・・・イヤ良くない。でも手の中には幸せな感触でもっと触っていたいというか、どうすればこの手を外せるというのだろう。自分の意思とは関係なく、勝手に幸せな感触を何度も何度も何度も。止まらない。
「そうよね。私よね。このまま、私のモノにしちゃいましょう。」
☆
マジか。
告白もキスも済んでないのに一線を越えてしまった。
まあ終わったあとにキスを強請られたので濃厚な口付けをしたけど、どう考えても順番が逆だ。特に貞操を守っているわけでも無いがこんな結末はいくら何でも拙いだろう。
「あのさ・・・リサ・・・。」
「うん。あっ・・・妊娠なら大丈夫よ。ピルを飲んでいるから。シンタローに言われたのよね。誘惑をするのは構わないが妊娠をたてに脅迫するなよって。」
ホッとする。いやいや違うだろう。
しかし、どんな父親だよ。いや養父か。どちらでも同じか。
「いや何故こんなことを。」
「うん。まさか彼女が居るとは思わなかったんだよね。チイちゃんには悪いけど略奪させて貰いました。お互い初めてだったみたいだからチイちゃんと肉体関係は無かったのよね。」
何か勘違いをしてる。どうやって説明すればいいんだ?
「ちょっと・・・。」
「地球連邦軍に入って貰う説得はこれからゆっくりとするつもりだから覚悟しておいてね。」
ちょっとホッとする。違う違う。
「違う!」
やっと話を挟みこめた。何も言い訳が考え付かないけど、ひとつひとつ誤解を解いていかなきゃ。
「何が違うの?」
「チイちゃんは彼女じゃないんだ。」
「えっ・・・えーーーーっ。だって褒めていたじゃない。」
「それは尊敬していたからだよ。女の子として好きだから褒めたわけじゃないよ。」
女の子として好きだからって褒める男は何か違うと思うんだ。例えそれが効果的だとしてもね。
「だってだって好きなところが・・・って。もしかして私が無理矢理言わせたの?」
アレは意地の悪い質問じゃなかったんだ。どうして思いつかなかったんだろ。
「そうだよ。確かにポチャっとしていて可愛いと思うけど、好みのタイプじゃないよ。というか、どうしてこんな『チビ』で『OLDTYPE』な僕に彼女が居るなんて・・・ケンちゃんに彼女が居ないのは不思議だけれど、あれは例外だと思うしね。」
確かに小さいころから好きな人は居た加奈さん以前にも。でも自分には男性的魅力が乏しいことも解っていたのでいつも告白を躊躇していたんだよね。
ケンちゃんはある種のオタクだ。スポーツでもすればモテること間違い無しだ。本人には絶対に言わないけど。
「・・・『背が小さい男の人』ってそんなにモテない要素なの?」
まるでモテる『背が小さい男の人』を知っているみたいな喋り方だ。確かにチビでもデブでもお金持ちならいいという女の人もいるには居るだろうけど、モテモテというには程遠いと思うんだけど違うのかな。
「そうだよ? 那須議長なんかモテモテでしょう?」
「・・・・・・・。そうか、あの人は特別だった。男女を問わずだったものね。なんだ焦らなくて良かったのか。」
☆
「あゆむくんが貴女のオッパイが好きだと言うんだけど、あゆむくんは私のモノだから取らないでね。」
翌朝、お菓子のお礼を言いたいというのでチイちゃんを連れてきたのだけど、こんなことを言われた。
「言わない約束したよね! 忘れたの?」
顔が火照っているのが解るくらい恥ずかしい。止めてくれよ。もう。
これからどんな顔をしてチイちゃんの前に出ればいいんだか。
「そうだっけ。まあいいじゃない。褒めているんだし。それでどうかな?」
なんだろう。これは羞恥攻めなのだろうか。嫌われたまま、毎日顔を合わせなくてはならないなんてツライんだぞ。
「嫌です。私もあゆむくんのことが好きなんです。デブだから言えなかったけど、例え一部でも私の身体にあゆむくんの好きなところがあるんだったら、諦めたくないです。」
イヤ何故?
確かお客様に胸のことを言われて嫌がっていたよね。でもそれからなんだよね。意識するようになったのは。てっきり嫌がられるとばかり思っていたのにどうすればいいんだ。
「だったら私たちライバルだね。」
リサは勝手にライバル宣言をしてしまった。
明日の更新でこの章は終わり、次章はいよいよグァム編です。




