第1話 地味なプレイが癇に障ったようです
物凄くアリガチな設定ですが
『VR技術モノ』と『ロボット兵器モノ』を融合させた王道テンプレ2重奏です。
よろしくお願い致します。
地球連邦暦315年。銀河連邦の植民地支配を回避し、宰相国の地位を確立した地球連邦は銀河連邦からの技術供与の元、着々と宇宙へ開発の手を伸ばしていた。
赤道軌道の公海上空には多くのスペースコロニーが建設され、軌道エレベーターを使った食糧供給基地として稼動しており、月には多くのテーマパークが建設され富裕層のハネムーンのメッカとなっていた。
今また新たな開発の波が火星に押し寄せようとしているのだった。
◆ ◆ ◆
「火星開発の第一陣が出発して何年になるんだ。」
学校から学習塾に向う途中にあるゲームセンターに立ち寄り、目の前に置かれた筐体に書かれたストーリーを改めてナナメ読みしながら、僕は同じ学習塾に通う友人に聞く。
「50年かな。銀河連邦の歴史を紐解くと惑星改造して移民を受け入れるまでに最低200年はかかるそうだから、俺たちが生きている間には入植するのは無理なんじゃねえの。」
惑星を改造して人間が住める環境にする技術が銀河連邦から提供されていることが解り、それを地球人と火星に応用できるように研究開発が完了したのが60年ほど前だったはずだ。
そこから惑星改造という過酷な任務を実行できる人材を集め、火星に送り出したのが50年前だ。
「とか言って、アンドロメダ銀河から侵略者がやってきて火星でドンパチやってたりしてな。」
銀河連邦の2万年に渡る歴史書には、2度アンドロメダ銀河帝国との覇権争いをしていることが書かれており、その度に双方に多大な被害を出したことで事実上休戦状態にあるという。
ただ小規模の衝突なら日常的に行なわれているらしく。数百年単位で銀河の端にある惑星やアンドロメダ銀河の端にある恒星がそれぞれのグループに組み込まれたりしているらしい。
「このゲームのようにか?」
丁度、目の前に並んだ6つの筐体のハッチが開く。降りてきたのは女性ばかり6人。僕が乗り込む筐体からはブロンドヘアの化粧っ気は少ないものの小柄な碧眼の綺麗な女性が降り立った。
混血が進んだ日本州では今時珍しく無いが鼻が低く日本人的な顔だちをしているところをみるとハーフのようだ。
「奴らアンドロメダ星人の身体能力は地球人の3倍だという話だけど、この『ミルキーウェイ』さえあれば楽勝さ。」
僕は友人たち5人と共に空いた筐体に乗り込む。
これは全国のゲームセンターで稼動している人気オンライン対戦ゲーム『黄昏のフォボス』だ。
まさに今言った宇宙戦争を題材にしたアクションゲームで、プレイヤーは実在の銀河連邦製コンバットスーツ『ミルキーウェイ』という人型ロボット兵器に搭乗し、赤と緑に分かれ、火星の衛星であるフォボスの双方の基地をお互いに破壊しあう。
1ゲーム300円。最大20分間でミサイルやビーム兵器で敵基地にダメージを与えたり、近接戦闘で対戦相手の『ミルキーウェイ』を倒したりする。
自軍の基地を全て破壊されると負けとなる。
この『ミルキーウェイ』は銀河連邦が侵略に来たときに実際に使用されており、グアム州にある地球連邦博物館に展示されている。その搭乗席にソックリのコックピットが筐体内に展開されている。
搭乗席に座り、専用のヘッドギアを装着すると自動的に足首と手首が固定される。実機もこの手足の動きに合わせて人型ロボット兵器が歩行やジャンプ、両腕に装備した盾や銃を操作できるようになっている。
本物の『ミルキーウェイ』との違いは、ヘッドギアからヴァーチャルリアリティ装置を経由することで戦闘時間を6倍から最大20倍に伸張された時空間で操作を行なえることにある。
良く相手を見ていれば避けることも簡単にできるため、筐体の外のスクリーンに映し出されている映像では相手が撃った弾丸をギリギリかわすシーンが良く展開されている。
人間の脳は視覚が捉える速度の約20倍まで瞬時に判断できる潜在的能力を秘めており、ヴァーチャルリアリティ装置が開発された当初は安全装置の意味合いで最大12倍の時空間で使用されていた。研究が進み耐性に個人差があることがわかると各個人ごとに年4回受けられる耐性試験により通常20倍まで承認されている。
また20倍の資格保持者を対象にさらに研究が進められ、全世界では最大30倍まで耐えられる人が居るらしい。親が幼い子供に音楽や絵画を習わせるように。僕の親は僕が3歳のときから耐性試験を受けさせ、現在は20倍の資格を持っている。
そして一部の人間しか使用できないが逆に脳から直接意思を伝えられる『センサーネット入力』装置が開発されると安全弁のため6倍のヴァーチャルリアリティ時空間の中で使用されるようになった。
だから通常空間の人々と比べると6倍の身体能力と同等の力を持っていることになる。
友人5人は全てこの『センサーネット入力』装置を使い操作している。だけど僕にはその装置が使えないため、操縦桿や操作パネルを20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で使い戦っているのだ。
☆
「今日も勝ったな。」
「今日の相手は弱かったのかもしれん。完封だったからな。」
筐体を後ろに並んでいた人に譲り、スクリーンに映し出されている自分たちの対戦動画を見ながら、友人たちは口々に感想を言う。
僕たちの対戦は大抵、僕が両手に装備した武器である『ライトニングブラスト』を撃ち出すことから始まる。
『ライトニングブラスト』とは一定時間上空に撃ち上がり周囲に放電することで対戦相手の侵入や弾丸、ミサイルなどを防ぐことができる壁の役目をする武器だ。
手の平で照準を操作しながらボタンを押す。通常空間で1秒間に最大5発。両手で10発。20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で200発を画面上隙間無く撃ち込むと相手からの攻撃を一切封じることができる。
『ライトニングブラスト』の放電時間は10秒まで自由に設定できることから放電が済み次第、友人たちが攻撃に移る。
放電が終わってから画面上の電磁雲が散ってしまうまでの3秒間がこちらのチャンスだ。
このことを今日の対戦相手は知らなかったらしく。完全に雲が散って相手が戦闘を開始しようとした瞬間に再び『ライトニングブラスト』を200発を撃ち込むということを繰り返して完封勝利に終わった。
「卑怯だぞ!」
ゲームセンターから出ようとしたところ、数人の男たちが立ち塞がる。
こちらに声を掛けてきた男の顔に見覚えがある。スクリーンに映し出された対戦相手だったはずだ。偶然、同じゲームセンターの別の筐体相手に戦っていたみたいだ。
「何が?」
負けて悔しいのは解るが卑怯者扱いを受けるほどのことをした覚えは無い。
「何処の金持ちか知らんがゲームセンターで『ライトニングブースト』をバカスカ使いやがって!」
『ライトニングブースト』とは1秒間に100発の『ライトニングブラスト』をランダムに撃ち出す課金アイテムだ。たしか5000円ほどするアイテムで今回の戦闘で使ったとしたら5万円以上使った計算になる。
だが1回の対戦で1度しか使えないアイテムだ。無制限に使えるのはトッププレーヤーが活躍する限定解除の競技大会ぐらいである。
「『ライトニングブースト』なんて課金アイテムは1回の対戦に1度しか使えませんよ。言いがかりをつけるのなら、もっと勉強してからにしてください。それにお兄さんたちと違って僕たちは学生なんで高価な課金アイテムをバカスカ使えるほど小遣いは無いんです。」
確か『ライトニングブラスト』に阻まれていたが対戦相手は皆課金アイテム特有の色をしたミサイルやサーベルを装備していた覚えがある。
一人当たり500円から1000円くらいの課金アイテムを装備して対戦相手をコテンパンに倒すつもりだったのが全て無駄になったのだから、怒りに駆られるのもわからないわけでは無いけどね。
「『ライトニングブラスト』を装備していたのはお前だけだ。それに再使用時間が1分あるはずなのに十数秒置きに使いやがって! 何かズルしなけりゃ。そんなことはできないはずだ。」
相手は僕が20倍のヴァーチャルリアリティ時空間で戦ったとは思ってもいないようだ。
連続発射を止めると銃身に負荷が掛かりすぎるという理由で再び使用できるまでに1分を要するのは事実だ。
まあ確かに『再発進短縮』という20円の課金アイテムを使っている。課金アイテムとしては安価なので誰もが買ったことがあるはずだ。
基地には好きなタイミングで戻ることができる。また被ダメージが90%を越えると自動的に基地に帰還する。1分後被ダメージが0%になった状態で発進し戦場に復帰する。
それを10秒後に被ダメージが10%だけ減った状態で再発進できる課金アイテムで戦闘中に睨み合った場合などにダメージ回復手段として良く使われる。
基地に帰還すると装備の交換も可能なので両腕に装着したライトニングブラストを新しいライトニングブラストに交換することで再使用時間も短縮できるのである。
「確かに安価な課金アイテムを使ってますけど、貴方たちが使っていた課金アイテムの装備品1個分にも満たない金額ですよ。どんな手段を使ったかは精々頑張って勉強してください。」
この種の裏技は情報サイトに良く載っている。ときどきネット検索で確認しているが僕が考えた裏技は載せているサイトは見たことがない。きっと初心者向け過ぎるのと地味すぎるからだろう。
『ライトニングブラスト』を画面一杯に整然と撃ちあげるのも地味な作業だが、すぐに基地に戻り装備を交換し再発進を待つのも地味だ。僕たちのチームが勝つために派手に活躍する友人たちを尻目に僕はひたすら地味な役割を続けているわけである。
「OLDTYPEめ。教えろよ。卑怯だぞ!」
僕の言い方が拙かったのか興奮した相手が掴みかかってくる。
OLDTYPEとは『センサーネット入力』装置を使ってヘッドギアから直接脳の意思をヴァーチャルリアリティ装置に伝えられない人間のことで侮蔑言葉として使われている。
僕がボタン操作している映像を覚えていたのだろう。OLDTYPEだと解ったようだ。そこまで解っていればどんな手段を使ったかすぐに解りそうなものなのに想像力が足りないタイプなんだな。
「やめなさい! 州警察に通報するわよ。」
女性の叫び声がした。比較的落ち着いた声だ。助かった。
男が手を離した隙に後ろに退き、味方をしてくれた声のほうを振り向く。僕が乗った筐体から出て来たハーフの美女だ。
他にも屈強そうな5人の女性たちが居たからか、男たちはそのまま逃げ出していく。