8 ジェームスvs信号機
私は仕事を終え、ぐったりと疲れた体にあと少しと言い聞かせ、家までの道のりを歩いていた。今は割と市街地に近い、いろいろな店がずらりと建ち並ぶところにいる。ここからあと30分もすれば家に着く。バスはちょうどいい時間がなかったので、今日は足を使って帰ることにした。休日に好きこのんで歩くことはないので、健康を少し意識してのことでもある。
やがて赤信号に足止めされる。その間ぼっーと突っ立って待っていたのだが、妻が少し前に言っていた、
『どんな時でも暇な時は、一に行動、二に行動なのよ』
という、彼女らしいあの格言を思い出し、
「じゃあハンバーガーでも買ってこようかな」
戻ってきてちょうど信号が青になっていたら渡ろうと思い、私は少し前にあったハンバーガーショップにてハンバーガーを一つだけ買って戻ってきた。……残念ながら信号は赤だった。人がさっきよりも多くなっていた。どうやらこの信号機はなかなか変わらないらしい。
「今度は本屋にでも行ってみようかな」
週刊の漫画雑誌を少し見て、他にも興味のあるものをてきとうに見て戻ってきた。私はちょうど信号が赤になる瞬間を目撃し、今度は少し遅かったかと落胆した。多分最後に一冊軽く読んでみようと思って読んでみた、『神を拝みなさい、髪を守りなさい』という本の内容に釘付けになって、長々と読んでしまったのがいけないと思った。
やはり、どこへも動かず信号が変わるのを待つのが一番だろうから、私はじっと立っていた。その間、下校中と思われる学生が信号を無視して何人も渡っていった。自転車をこいでスピードも落とさずに走り去っていく者、一応車の有無だけを確認して急ぎ足で渡っていく者、とさまざまいた。「全く、最近の子供は……」などと思っていると、私は断固として信号が青になってから渡りたいという気持ちが一層強まった。むしろ、信号を無視するという選択肢は私には元々なかったのだが……。
しかし、恐ろしいくらいに信号は赤を保ち続けた。私は信号機と我慢くらべしているような錯覚にあった。でも、信号機に意志などあるわけがない。それでもこの我慢くらべには勝たなくてはならないような気がした。――負けるものか!
扉が開く音がしたので、和子は玄関へ向かった。
「おかえりなさい。ようやく帰ってきたのね。仕事で遅くなった……の?」
和子がすこし戸惑いながら聞いた。ようやく仕事から帰ってきた彼は、頭に工事をする人が使うような作業用ヘルメット、右手には刃が使えなくなったチェンソーを所持、見慣れないリュックには、斧やつるはし、ショットガンの先端部分が入りきらずに突き出ていた。そして、
「信号無視はしないで帰ってきたぞ」
左手に歩行者用の信号機を一つ持って帰ってきていた。それを見た和子は黙って部屋から、ボンドと針金を持ってきて手渡し、
「今すぐ直してきなさい!」
彼を家から追い出し鍵を掛けた。




