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2 ジェームスの朝

 美味しそうな朝食の匂いが私の鼻腔をくすぐったとき、すでに眠気など吹き飛んでいた。これは妻の作る卵料理だ。見なくとも私には分かる。

 結婚して今のボロアパートで生活するようになってから、妻の作る朝食の匂いで起きるようになった。自分で朝食を用意しなくてはならなかった時代なんかよりも遥かに快適だ。もちろんそれを嫌がることなくやってくれる妻には多大な感謝をしなければならない。ありがとう。

 さて、なにはともあれさっさと布団から這い出て、会社へ行く準備を済ませる。

 リビングに行くと、妻が私が起きたのに気付き、フライパンを持ったまま振り向いて、

「おはようジェームス。今日の、あなたの朝食は、コゲにコゲまくった目玉焼きよ。あまりの炭のような苦さで悶え苦しむ姿をあたしに見せてちょうだい」

 皿に目玉焼きを移して、微笑みながら差し出してくれた。

 それは、妻がさっき言ったように本当に炭の塊のようなシロモノで、とても食べ物のようには思えなかった。それでも食べようとする私は、妻との関係を穏便に済ませようと繕っているワケではない。私には生来“M”の属性があった。ただそれだけのことである。だからこそ妻と結婚しようと決心することができた。偽りの愛などここには存在しなかった。

 ちなみに、妻の名前を和子と言う。これは何の伏線でもない。

「お食べ」

 妻が、イスに座って固まったままの私に優しく言うので、それになんとか応えようと思い、食べようという気を奮い起こそうと、自分の心にそう言い聞かせた。

 とはいえ、ガンになっては困るので完食する気にはなれなかった。わずかに黒になりきっていない部分を箸でちょいちょいとついばみ、私は朝食を終えた。

 家を出るときには両手にしっかりとゴミ袋を持たされ、出発する。ここを妻が抜かったことはまだない。

 そういえば住み始めて間もない頃に、「お出かけのチューは?」と聞いてみたことがあったのだが、「どこの下等民族よ」と言ってご立腹の様子だったのでしたことがない。それに今はゴミ袋で両手が塞がっているので、カバンを口で加えているので使えない。

 この状態で階段を下りる。2階なので普通ならばそう苦労することもないところだが、階段の幅が狭いのでこれがなかなか降りづらい。妻が毎日欠かさず私にゴミ袋を捨てさせる理由はどうやらこの階段が原因のようである。

 階段をややもたつきながら降り終え、ゴミ袋を指定の場所へ放り投げる。そこでひとつため息をついた。今日もつまらない仕事が始まるのだ。私は歩きながら、

「朝ご飯何を食べようかな〜」

 昼ご飯の代金として妻から支給されていた500円を手に、その半分を使って何を食べようかと思考をめぐらせていた。

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